当院では2010年現在、約1700品目弱の採用薬があります。それらを使いこなすためには大学では習うことのない膨大な量の新たな知識を自分で勉強して、その知識を頭の中で整理していかなければなりません。大学と現場では、知識の広さ及び深さに大きな開きが生じています。最近、当院に来ている実務実習の学生と接するようになりましたが、知識の絶対的な不足を生じている状況は6年制になった今でもほとんど変わっていないと感じています。大学で学んだことは必要ではありますが、臨床で薬剤を使いこなすためには十分ではありません。

私は、頭の中で知識の大体の形作りを終えるまでに約10年かかりました。
  @必要な知識の覚える
  A知識を整理する
  Bその知識が頭の中でどのように使われていくのか(思考過程)について学び、   薬物療法の考察力を磨く

という順序で学習していくことが、きっと最も効率的です。

このサイトで示した@必要な知識、A知識の整理の仕方は、現場で必要になって私が勉強したものばかりで、不要なものは一切入っていません。
現場で必要に迫られて勉強し、何度も同じ経験を繰り返してきて、いわば“つむぎ出された”産物のようなものです。ですから、市販されている多くの薬学の本で書かれているような内容、分類とは少し雰囲気が異なると思います。特に現場での経験のない薬学部の教員が書いた本を見ていると、薬剤の使い分けにどのように役立つのかが全く判らない疾患の説明や、診断方法のような医師が請け負う領域の内容が多く書かれています。薬剤師が優先して勉強にしなければならないのは診断の知識ではなく、診断“後”の薬剤の選択、副作用のモニタリング・マネージメントであり、チーム医療の中での薬剤師の役割はまさにこの点に集約されると考えます

知識を身につけたら、あとは薬物療法に関する実践的な考察力を磨きます。膨大な量の処方せんの中から、学習効果の高い実際の処方せんを精選しましたので、その処方せんに対していろいろ考えて、ぜひ、Bの薬物療法の考察力を身に着けてほしいと思います。


薬剤師がチーム医療の中で必要とされる場面は、例えば一次治療が失敗に終わり二次治療や三次治療における薬剤の選択に迫られたとき、あるいは、心不全/腎障害/肝障害を持つ患者、特殊な遺伝的背景を持つ患者に対する薬剤選択を個々の患者ごとに考察しなければならない時だと思います。まさしく臨床薬剤師の腕の見せ所です!知識があるだけでは結論を出すことはできず、知識を基礎にして「臨床薬理学」的な考察力を駆使して解決の糸を探ります。体内での薬物の動き(体内動態)と作用(効果と副作用)をADMEの流れに沿って考えることになります。しかし@ABの学習を踏んでいれば何ら恐れることはないと思います。

なお、このサイトの書き方には、2つの点にこだわりました。
1点目は
  ・他剤との対比
です。例えば「この薬剤は肝臓で代謝され排泄される」と書いてあるより、「類薬は腎排泄されるがこの薬だけ肝臓で代謝され排泄される」と説明を受けた方がより印象深く明確に頭に残り、薬剤選択の時に使える知識になるからです。

2点目は
  ・薬剤選択順序の序列化
です。代表的な疾患別に薬剤の選択順序を示しました。EBMの普及とともに各種ガイドラインが策定されて、私たちはHPなどで簡単にアクセスできる恵まれた環境になりました。有効性や安全性をエビデンスに基づき、専門家が序列化をしてくれているのですから、これを学ばない手はありません。ほとんどの患者がガイドラインで示された治療方法を軸として治療が進行します。

「今日の治療薬」(南山堂)に書かれている内容は大体理解していないと、読むのがキツイと感じるかもしれませんが、がんばって読んでみてください。

はじめに