適応症が合っていても正解とはならない理由
     〜 「真武湯」と「猪苓湯」を例にして 〜

東洋医学はその基本のロジックとして「状態を診断する」というシステムを有しており,その考え方は東洋医学の薬剤である漢方薬にも反映されます。病名は東洋医学において診断とはなりえないわけで,結局のところ適応症で漢方薬の正確な適応を表現することはできないのです。だから,「適応症が合っているのだからこの漢方薬で正解であるはずだ」という論理が常に通用するとは限らないわけです。

例として下痢という病態への対応について考えてみましょう。違いを明確にするために猪苓湯と真武湯という二つの処方を例に挙げ比較してみます。




猪苓湯には滑石という生薬が配されます。滑石は清熱(=冷やす)を目的とする代表的生薬であり,結果として猪苓湯全体は清熱の処方になります。そこに利水剤である猪苓,茯苓,沢瀉が配され,止血剤として阿膠が混じられます。下痢という現象は体内の水分が腸に過剰に集まる水毒の徴候(水毒=体内における水の偏在)ですので,これに利水剤(水の偏在を正す薬剤)を与え下痢を止め,さらに阿膠で止血をするということです。元々猪苓湯は血便を伴う熱性の下痢に対して用いられた処方です。

一方、真武湯は附子が配される処方です。附子は猪苓湯に配される滑石と真反対の性質,すなわち強力に熱を与える生薬であり,結果として真武湯は温める処方になります。そこに猪苓湯と同様に茯苓,蒼朮という利水剤,腹痛を減じる目的の?薬,温性を高め胃腸を守る生姜が配されます。

この猪苓湯と真武湯には「下痢」という共通の適応症が与えられています。しかし,上述いたしましたごとく,この両者が選択される局面は全く反対なのであって,決してどちらでもよいということがない関係にあります。

■ ケース1 「ウイルス性腸炎が起こり下痢」
「ウイルス性腸炎が起こり下痢」に対する東洋医学的診断はいかなるものか。
腸は裏
炎症を起こせば熱→「裏熱」
これが東洋医学の診断となります。従って,裏熱に対して行われるべき治療方針は「裏を冷やす」ということになるわけです。よって結果として猪苓湯は正解,真武湯は不正解ということになります。

■ ケース2 「冷たいものを摂りすぎて下痢」
腸は裏
冷えが原因→「裏寒」
これが東洋医学の診断です。従って治療方針は「裏を温める」となり真武湯が正解,猪苓湯は不正解ということになります。


作成日 2013年1月30日
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