西洋薬との併用で注意すること



漢方薬と西洋薬との併用によって生じる副作用や相互作用で知られているものはごく一部にすぎませんが,

小柴胡湯とインターフェロン製剤の併用による間質性肺炎
甘草に含まれるグリチルリチンの一部利尿薬との併用による血清カリウム値の低下
麻黄に含まれるエフェドリンによる中枢興奮作用が及ぼす高血圧や狭心症への影響

などがよく知られています。これらについては,常に念頭に置いて服薬指導にあたりましょう。



その他にも、以下のような考察力をもって、薬剤師として恥ずかしくない患者対応につなげましょう。
■ アスピリンなどの解熱薬との併用
「葛根湯」を風邪薬として使用する場合,解熱薬(アスピリン製剤含む)と併用されるケースがよくみられます。この場合,葛根湯の主薬である麻黄に認められている体温上昇作用,いわゆる葛根湯の効能である「身体を温めて汗を出す」を打ち消す可能性があり,安易な併用はすべきでないと考えられます。

また,最近では少用量のアスピリン製剤が抗血小板剤として繁用されていますが,大黄を含有する漢方製剤と併用すると,大黄の瀉下作用に影響を与えます。これは,アスピリンがシクロオキシギナーゼを阻害し,腸管蠕動運動亢進作用をもつプロスタグランジンF2αを減少させることによって起こります。



■抗生物質との併用
漢方薬中の有効成分の多くは水溶性の糖が結合した配糖体で,そのままでは吸収されない,いわばプロドラッグです。この配糖体から糖を切り離して脂溶性を高め,吸収される形に変えるのが主に腸内細菌です。
すなわち,腸内細菌は漢方薬の成分が臓器や細胞に作用できるようにする役目を担っています。
腸内細菌叢の多寡が,漢方薬の効果の個人差として発現することも考えられます。

抗生物質の併用は腸内細菌の減少あるいは死滅を生じさせ,漢方薬の効果・効能に大きく影響することが推察されます。例えば小柴胡湯においては,主な構成生薬である柴胡,人参,大棗,甘草にはそれぞれ配糖体である特有の成分サポニンが含まれています。すなわち,小柴胡湯あるいは類似の柴胡桂枝湯などにおいては抗生物質との併用に注意が必要となります。

なお,ラックビー,ミヤBM,ビオフェルミンなどの生菌製剤との併用は,逆に腸内細菌叢を活性化することで,有効成分の代謝量増加が確認されています(文献引用)。しかし,いずれにせよ,腸内細菌叢の変動には同様な注意が必要です。



■胃内pHの影響
制酸薬や抗コリン薬,H2遮断薬,PPIなどを併用する場合には,胃内pHが高まることから附子に含まれるアコニチンや麻黄に含まれるエフェドリンなど,アルカロイドを主成分とする塩基性成分の血中濃度は増大するものと思われます。したがって,附子による中毒症状や麻黄による循環器疾患の悪化の誘発には注意が必要です。



漢方薬と西洋薬との併用により生じる副作用や相互作用については,全てがわかっているわけではないというのが現状です。今後この分野の知見がさらに蓄積されることが望まれます。
作成日 2013年1月30日
http://www.tsumura.co.jp/password/k_square/yakuzaishi/iz_pdf/vol_15_01/10_essence.pdf