薬物性肝障害
  2.薬物性肝障害の診断基準

通常、日常診療は
    診断→治療方法の選択→治療 →評価→治療の継続、見直し →治癒
という流れで進んでいきます。診断は本来医師の業務です。教育を受けていない薬剤師が中途半端な知識で安易に患者に対し“医師の真似事”をすることは厳に慎まなければなりません。家族など周囲の人から「○○のような症状があるんだけど、何かいい薬ない?」と聞かれることもしばしばですが、一般の人には薬剤師と医師の領域が曖昧なんだと感じます。病期の原因がわからないのに(=診断がついていないのに)、薬剤師が無責任に話をしてはいけないということです。原因をはっきりさせてから(診断がついてから)が、薬剤師の腕の見せどころです。

しかし、診断に関する知識の中には、薬剤師も知っておくと業務に厚みを持たせることができることがあります。今回は肝障害を引き起こす原因薬剤の同定に、極めて有用とされる診断基準を紹介します。
大学の教員が書いた「臨床薬学」の本には、「それは医師が知っておけばいいんじゃないの?本当に内容を理解して書いているの?ジェネラリストの薬剤師に必要なの?」と疑問を持つような難解な内容が載っていることはしばしばあります。特定の診療科の病棟薬剤師や専門薬剤師にとっては、少し踏み込んだ診断の知識は必要と思いますが。

今回紹介するのは「DDW-J 2004 ワークショップ薬物性肝障害の診断基準
です。詳しくは
http://www.jsh.or.jp/medical/date/dil05.pdf
を参照すると、もう少し詳しい説明を読むことができます。




使用マニュアルも同時に作成されています(表2)。





付録:DLST;drug lymphocyte stimulation test

□DLSTとは、薬剤による「リンパ球刺激試験」のことです。「リンパ球幼弱化試験」とも言います。

□薬剤によるアレルギー反応、特に
W型アレルギー(遅延型アレルギー)の有無を調べる検査です。理論上はT細胞を介する免疫反応を見るための検査なのでT型など他のアレルギー反応型にも使用できるようです。

□1年に1、2回くらいコンスタントに処方されます。アレルギーの起因薬物を同定するための検査としては
パッチテストも有名ですね。

□臨床での実施目的を具体的に言うと、
薬物性肝障害の判定に使われたりします。薬疹や薬物が原因と考えられる造血障害など、アレルギー反応全般の起因薬物の同定を目的に広く実施されています。

アレルギー反応を起こしている患者のリンパ球に、起因薬物を添加して培養すると、リンパ球が刺激され幼若化が起こることを利用した検査です。

□検査結果は Stimulation Index(SI)で表記されます。
  
SI(%)=起因薬物添加検体(cpm)/起因薬物添加検体(cpm)x100
 SIが179%以下を陽性、180-199%は判定保留、200%以上を陽性とします。

□体外テスト(in vitro)なので、チャレンジテストのような患者自身に対する危険性がないことがメリットです。しかし、代謝物が原因となっているときは偽陽性となることがあります。

□ DLSTが陽性⇒アレルギーであると判定できるが、
  DLSTが陰性⇒アレルギーがないとは言い切れない
EBMの教科書的には、「特異度が高く、感度が低い」と表現します。

□陽性率(アレルギーがある患者がDLST陽性となる確率)は10-20%程度とも言われておりますが、アレルギー反応か否かの判定はその後の治療方針に貴重な情報となる上、他のより簡便で感度の高いin vitro検査がないため、
地味に存在し続けています。


□判定や解釈が難しいので、専門医のもとで行うべきとされています。

□各薬剤が1錠ずつ処方され、丁寧な処方ではコメントで「for DLST」と入力されています。しかしDLSTに用いる薬剤も検査自体も、保険適応ではないらしい(?)。

□1種類の薬剤を調べるのに約1万円(自費)かかるらしい。


作成日 2009年9月30日


ワンポイント25

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