血液検査 >赤血球
「RBC」と略記し、現場では「赤血球」と素直に呼ぶことが多い気がします。「ワイセ」に相応する呼び方として「ローテ」という呼び方があります。
■赤血球系検査値の目の付け所は?
CBCのデータを見るとき、赤血球数、ヘマトクリット、ヘモグロビン、MCV、MCH、MCHCの六種が赤血球系の検査値、すなわち、貧血の検査です。日常の業務の際にこれらすべてを一つづつみていく必要はありません。まずヘモグロビン(またはヘマトクリット)をみれば、とりあえず貧血の有無はわかります。あとはMCVをみれば、貧血の原因の見当がつきます。
■ヘモグロビン(血色素)
「Hb」と略記し、よく「ハーベー」と呼びます。
赤血球の主要機能である酸素の運搬を担っているのはヘモグロビンです。いいかえれば、貧血とはヘモグロビンが不足ということです。赤血球が少ないのが貧血という誤解がありますが、軽い鉄欠乏性貧血ではヘモグロビンが減少しても赤血球の数自体は余り減りません。
ヘモグロビンは7g/dL以上あれば身体に必要な酸素は十分運搬できます。慢性貧血では循環系が適応するため、ヘモグロビン4g/dL程度の著しい貧血でも意外に症状が少ないことがあります。
ヘモグロビンが多すぎるのが問題になることは比較的少ありませんが、慢性低酸素状態(心肺疾患、喫煙など)では増加します。また、真性多血症では赤血球が著しく増加するため循環障害がみられることがあります。男性で14g/dL以上、女性で12g/dL以上あれば大きな問題はありません。もちろん、前回の検査値と比較して低下していないことが前提です。
■Q.ヘモグロビン値とヘマトクリット値はどう違うのか?
ヘモグロビン値が血液100mL中の血色素量を表わしているのに対し、ヘマトクリット値は血液中に占める赤血球の容積の比率を意味します。ヘモグロビン値はヘマトクリット値に比例し、ヘマトクリット値(%)を3で割るとヘモグロビン値(g/dL)が推測できます。当然、意味するものも同じなので、注目するのはどちらか片方でよいのです。なお、日常、ヘマトクリットがよくヘモグロビン代わりに使用されるのは、ヘマトクリット測定専用遠心機と毛細管があればベッドサイドで簡単に測れるからです。
■抗がん剤による貧血
赤血球の寿命は120日と長いため、すぐには影響を受けません。貧血の症状は抗がん剤による治療開始後、1〜2週間後より徐々に出現します。また出現の程度は、使用する抗がん剤の量、併用する抗がん剤の種類、スケジュールに左右され、また年齢や健康状態に大きく影響されるため個人差があります。
■MAP
現在、わが国で可能な治療方法は赤血球輸血のみです。)日本では1994年に厚生省から「血小板製剤の使用基準」
赤血球輸血には、多くの場合MAP加赤血球濃厚液(MAP血)が使われます。
病棟では「マップ」と呼びます。MAPとは赤血球の保存用の添加液のことで、mannitol adenine phosphateの頭文字をとった略語です。投与量は「単位」で指示され、1単位にHbが約29g含有しています。
■Q.輸血をするとどのくらいヘマトクリットやヘモグロビン値があがるのか?
成人では、1単位(200mL)の輸血でHbが約0.5/dL(ヘマトクリットなら1〜1.5%)上昇すると覚えておくと便利です。なお、急性出血時の輸血ではこのとおり上昇するとは限りません。出血により循環血液量が急激に減少すると間質液がそれを補うために血管内に移動してくるので、たとえ出血が止まってもヘモグロビンは希釈されて多少低下することがあります。輸血してもヘモグロビンが思ったほど上昇しないからといって出血が持続していると即断してはいけません。
■予想Hb値の計算
予測上昇Hb値(g/dL)=投与Hb量(g)/循環血液量(dL)
循環血液量:70ml/kg
【例題】
体重60kgの人(輸血前Hb6.6g/dL)に赤血球MAP2単位輸血するとHbはいくらになるか?
まずMAP1単位でHb29gだから2倍して58g投与することになる。
循環血液量(dL)は70(ml/kg)×60(kg)/100となる
58(g)/42(dL)=1.4 6.6+1.4=8g/dLとなります。
■輸血には肝炎やHIVなどの感染症のリスク、アレルギーなどの有害反応があります。
血小板と同じく、赤血球を増やす新薬の開発が進んでいますが、承認には至っていません。
米国や欧州ではエリスロポエチン製剤の承認がされていおり、国内でも開発が進んでいます。2002年にはASCOおよびASH(米国血液学会議)から臨床ガイドラインが発表されています。しかしEPO製剤が本当に予後を改善するのかエビデンスが確立されるまで適応は慎重であるべきと思います。
■MCV 平均赤血球容積
一個の赤血球の容積を表し、健常人では80〜100fl(フェムトリットル)です。貧血の鑑別に重要で、MCVが正常なのが正球性貧血、低下しているのが小球性貧血、増加しているのが大球性貧血です。
(1)小球性貧血
ほとんどが鉄欠乏性貧血であり、通常、消化管出血や月経で血液が失われたことによります。男性の鉄欠乏性貧血は必ず消化管の癌・潰瘍を考えて原因を究明しなければなりません。女性の場合は月経過多によることが多いが、最低限、便潜血有無の確認は必要です。
(2)大球性貧血
核酸合成障害(ビタミンB12・葉酸欠乏、抗癌剤投与)で出現します。胃切除術後に注意しなければならない合併症の一つにビタミンB12吸収障害があります。ビタミンB12は胃粘膜で産生される内因子がないと十分に腸管から吸収されないので、胃切除後、特に全摘後は吸収が障害され、補充しないと何年かしてから著しい貧血が出現して驚くことがあります。
なお、慢性肝障害でMCVは上昇してきます。また、アルコール多飲でもMCVが増大するので飲酒のマーカーとしても利用されます。
(3)正球性貧血
慢性炎症(悪性腫瘍も含め、原因を問わず炎症が続けば造血が抑制されて軽度の貧血が生じる)、腎不全(腎で赤血球産生を促進するエリスロポイエチンを産生するため)、老人、最近の失血、などでみられます。なお、MCVとともに報告される赤血球指数として、MCH(平均赤血球ヘモグロビン、MCVと並行)、MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)がありますが、MCVに比較すると得られる情報は少なく、通常は無視してよいのです。
作成日 2009年3月27日