肝機能検査 −胆道系−

 肝臓は肝実質細胞と胆道系の二つの組み合わさった臓器です。前回は肝実質細胞の変性・壊死・炎症や物質代謝機能の見方を説明しましたが、今回は胆道系、すなわち胆汁の産生と排泄関連の検査の見方をとりあげます。

分類 検査項目
黄疸や胆道閉塞をみるもの ビリルビン、γGTP、ALP、LAP

総ビリルビン=直接ビリルビン+間接ビリルビン
□検査法にもよりますが、ビリルビンの測定精度は基準範囲付近以下の低値ではあまりよくなく、ばらつきます。また、絶食ではビリルビンはやや上昇します。健常人と思われる人で、ビリルビンが正常上限をわずかに越えたぐらいなら、他の検査値等に問題がなければ、まず心配はありません。
□血中総ビリルビン値は、正常では1mg/dL程度以下と覚えます。2、3mg/dL以上になると皮膚や結膜の視診で黄疸が認められるようになります。

□ヘモグロビンの代謝で生成したビリルビンは、そのままでは水に溶けません。血中では蛋白に結合して溶解しています。これを「間接ビリルビン」といわれます。
□間接ビリルビンは肝細胞内で代謝(グルクロン酸抱合)されて水溶性の「直接ビリルビン」(抱合型ビリルビン)となり、胆汁中に排泄されます。
□直接・間接という奇妙な名前は検査法に由来します。ジアゾ試薬と直接反応するのが直接ビリルビンということです。

□血中ビリルビン(総ビリルビン)は、直接ビリルビンと間接ビリルビンの和と考えていいです。健常者では総ビリルビンの大部分が間接型です。
□黄疸患者では、総ビリルビンに加えて直接ビリルビンを測れば、黄疸の原因の手がかりが得られます。もちろん、以下のようにクリアカットに説明できない病態もあります。

間接ビリルビンが主に上昇している黄疸 ・ビリルビンの生成が肝臓の処理能力をオーバーするほど赤血球が壊れている病態(溶血)が疑われます。
・肝が正常なら数mg/dLまでです。

直接ビリルビンが主に上昇している黄疸 ・肝で代謝された後の胆汁への分泌・排泄が障害され、その結果、肝臓から血液中へと直接ビリルビンが逆流します。

両方とも上昇している黄疸 肝細胞障害のため、間接ビリルビンから直接ビリルビンへの変換と、肝細胞から胆汁中への直接ビリルビン分泌の両方が障害されていることが考えられます。

急性肝炎で総ビリルビンの著増に伴って間接ビリルビンの占める割合がどんどん上昇してきたら、ビリルビンの抱合能、すなわち肝臓の代謝能が非常に低下してきていると考えて警戒しなければなりません。



胆道系酵素;γGTP、ALP、LAP
□原因を問わず胆汁欝滞がおこると、γGTP、ALP、LAPなどの酵素活性が血中で上昇してきます。合成亢進+胆汁への排泄障害のためといわれるが、機序はよくわかっていません。

□胆道系酵素は、胆汁鬱滞に関してはビリルビンよりはるかに鋭敏なマーカーですが、胆道系酵素上昇=胆道閉塞と即断してはいけません。
□各種の肝炎・肝障害では、程度の差はあれ、胆汁分泌・排泄の障害ないし胆道系酵素合成刺激が発生します。GOT・GPTなどの逸脱酵素や肝予備能検査も含んだパターンとして読まないと、肝・胆道系の病態は推測できません。
□胆道系酵素それぞれについて、胆汁欝滞以外にも上昇する病態があります。


γGTP

肝胆道系に特異性の高く鋭敏な酵素です。ALPとペアで測定することが多いのですが、スクリーニングでどちらか一項目だけ選ぶならγGTPを優先します。
□ただし、γGTPは、胆汁欝滞以外にも以下の三つの原因で上昇します。

  ・アルコール
   γGTPはアルコール摂取に敏感に反応して上昇し、禁酒後急速に低下、2週間    で半分以下になるので飲酒マーカーとしても使用されます。ただし、アルコー    ルに対する反応には個人差があり、数百まであがる人と百ぐらいまでしかあがら   ない人があるので、注意を要します。γGTPが上昇する人の方が肝障害がおきや   すいと言われています。
  ・薬物
   抗痙攣剤など神経科領域の薬物投与に伴うものが日常よく見られます。薬物の代   謝の亢進に関係した生理的なものとされ、通常は特別な処置は必要ありません。
  ・過栄養性脂肪肝
   肥満による脂肪肝では、アルコールを摂取していなくてもγGTPの上昇がみられ   ます。

ALP
□ALP値は個人差が大きく、各個人での値は安定しています。したがって、基準範囲内であっても増加傾向が見られたら隠れた病気を疑わなければなりません。 通常の肝炎ではALPは基準範囲上限の2、3倍までです。それ以上の上昇を見たら、胆道閉塞・肝内胆汁欝滞・肝SOLなどを考えなければなりません。
□γGTPの上昇を伴わずにALPが上昇している場合は、下記の可能性を考える必要があります。

  ・骨疾患
   骨折・転移性骨腫瘍・代謝性骨疾患など骨芽細胞が増殖する病態なら、原因を問   わず、ALPが上昇します。小児は骨が成長中であるので成人の2、3倍の値にな   ります。
  ・妊娠
   胎盤由来のALPにより高値になります。

LAP
(ロイシンアミノペプチダーゼ)
□胆道系酵素と逸脱酵素の性格を兼ね備えた酵素です。ALPが上昇していてもLAPが正常なら、胆汁鬱滞はまず否定していいです。(妊娠でも胎盤由来のLAPが増加する)
□軽い肝障害でも上昇しやすいのが長所ですが、γGTPとALPを測定しているときにさらにLAPを測定しても新たに得られる情報が少ないので、最近はそれほど使用しません。



作成日 2009年9月13日

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臨床検査値の解釈 その5

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