臨床試験 その7

打ち切りと
    Kaplan-Meier法による生存曲線の描き方、読み方
■はじめに
生存解析は治療の効果を「検証」する方法として臨床研究でよく用いられる手法であり、癌の5年生存率なども生存解析から「算出」されます。生存解析を効率よく理解するには3つのステップに分けて勉強するとよいでしょう。

ステップ1 治療Aの成績を集計する(Kaplan-Meier法)

ステップ2 治療Aとその他の治療を比較する(logrank検定)

ステップ3 交絡因子を調整して治療効果を数値化する(Cox比例ハザードモデル)

今回はステップ1 Kaplan-Meier法について説明します。

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カプランマイヤー法で階段状の生存曲線を描くことで、5年生存「率」や生存期間中央値を算出し、治療成績をまとめることができます。生存曲線を描くのに必要なデータは、「治療開始日」、死亡や病気の再発といった「アウトカム発生の有無」、「アウトカム発生の日付」もしくは「フォローアップできた最後の日付」です。これらのデータさえあれば、カプランマイヤー法で生存曲線を描くことができます

そしてここで理解が必要な統計概念として「打ち切り(censoring センサリング)」があります。「打ち切り」には      @フォローアップ終了→患者B、E
   A  追跡不能→患者C
   B  副作用やアウトカム以外のイベント発生による中止/脱落→患者D
という3つがあります。


例えば、@は仮に4年間追跡する臨床研究であれば、患者Bは生存時間が4より大きいことは確かですが、正確な値は不明ということになります。患者Eも2年ちょっと以上生存していることはわかりますが正確な生存時間は不明です。A臨床研究では必ず転勤/転院、臨床試験参加の同意の撤回などにより追跡不能(loss to follow-up)となる被験者がでてきます。患者Cも正確な生存時間は不明です。
B患者Dは副作用で治療を中止、すなわち臨床研究を終了したわけですが、その後いつまで生存していたかどうかは研究の解析データに含めない、つまり、2年生存していたことは確かですが、その後の正確な生存期間は不明です。なお、最近プロトコールによっては可能であれば追跡を継続し、解析データに含める場合もあります。どのような場合に解析データにいれるのか、あるいは解析データに入れても生存曲線に入れて解析するのか私にはわかりません。
長々説明しましたが、平たく言うと、打ち切りとはある時点まで生存していたことのみはわかるが、それ以降いつアウトカムが発生したかは正確に分からないデータを、アウトカムの有無を確認できた最終時点でデータを打ち切ってしまうことです。

では「打ち切り」されたデータはどのように扱えばいいのでしょうか?カプランマイヤー法では、不明なデータとして破棄するのではなく、「この打ち切りケースの生存率は、それ以上長期に観察された症例の生存率に従う」と「仮定」して生存率を算出しています。→78%x4/5
各観察区間に実際に生死を確認できる被験者の数を分母、生存数を分子とした割合に、
直前の観察時点での生存率を掛けることで、推定生存率を算出し生存曲線を順次書き進めていきます。


注)上の図は、カプランマイヤー法で打ち切りデータをどのように扱って計算しているかを示すために図示しました。元データが一番最初の図とは違います。


フォローアップ終了・追跡不能・中止/脱落の打ち切り例の場合には生存曲線上に小さな縦線が表示することが慣例で、全体として階段状の直線にトゲトゲがついたようなものになります。このトゲトゲをよく「ヒゲ」と呼びます。作成された生存曲線からは、生存「確率」50%と生存曲線が交わったところの生存期間を生存期間中央値として「算出」したり、癌などの慢性疾患においては生存期間5年と生存曲線が交わったところの生存確率を5年生存率として「算出」します。

K-M曲線を読むときに注意すること
統計の教科書を見ると「K-M曲線の時間軸の右側へ行くほど信頼区間の幅が広くなる」や「後半の推定値よりも前半の推定値のほうが“精度”が高い」と書かれています。もう少し判りやすく言うと、右側へ行くほどバラツキが大きくなるということです。一番平たく言うと、生存曲線の右側の方へいけばいくほどデータの信頼度が低下するということです。教科書の説明は難しく書いてありますが、K-M曲線の描き方を知っていれば当たり前のことですね。
特に経過が長い症例のデータは誤差が大きくなりますので、右側のデータを読むときは注意が必要です。というか、K-M曲線で右側のデータを読もうとすること自体ナンセンスでしょう。

さいごに・・・
以上、K-M曲線を描き方、描けたL-M曲線単独の読み方で注意することをまとめました。しかし、癌の臨床試験の場合、生存確率をエンドポイントにするのは第V相試験で、第V相試験は冒頭で書いたように他の治療法(=標準治療)」との比較することがK-M曲線を描く最終目的です。ステップ2(ログランク検定)、ステップ3(コックス比例ハザードモデル)の勉強を進める必要があります。なんとか判りやすくHPに掲載できればいいのですが、待てなければ各自勉強を進めてください。


作成日2010年8月14日

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