非結核性(非定型)抗酸菌症

リファジン、エサンブトール、イスコチンとくれば「結核」ですが、
リファジン、エサンブトール、クラリスという組み合わせの処方がよくでます。
「クラリス」に違和感を感じると思いますが、クラリス錠には、2008年8月に「マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)症を含む非結核性抗酸菌症」の適応が追加されました。

肺結核に類似した慢性の呼吸器疾患であり、咳、発熱、痰、倦怠感、食欲不振などの症状が発現する。原因となる非結核性抗酸菌の大半(約70%)はマイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)で、このMACによる非結核性抗酸菌症は「MAC症;マック症」と呼ばれている。約10%がM.kansasii (カンサシ)症です。
MACの主な感染経路としては、水の中で増殖した菌がシャワーなどにより微小な粒子として空気中に放出され、それを吸い込むことで感染すると考えられている。非結核菌抗酸菌症の日本での発症者数は年間7000人ほどである。(日本の結核患者数は2006年現在、年間発症数は2万6000人以上)

非結核性抗酸菌症は、近年増加傾向にあり、呼吸器一般診療上重要な疾患です。本症は比較的緩徐ではあるが進行悪化する例も多いとされています。


MAC症の治療はいまだ十分なエビデンスに基づいた指針はないが、CAMを主薬にした多剤併用療法が国際的な標準療法である。治療期間はATS/IDSAnの声明では1年間としているが、これについてもエビデンスはない。ごく軽症のもの以外は最低2年半、空洞や著名な気管支拡張を伴うものはさらに長期治療すべきである。

わが国では、
日本結核病学会・日本呼吸器学会から「肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解−2008年暫定」(結核83:731-734,2008)「肺非結核性抗酸菌症に対する外科治療の指針」(結核83:527-528,2008)が発表されている。



MAC症
下記1)2)を併用する。
1)リファジンカプセル(150mg)   300-600mg(10mg/kg) 保険外
  エサンブトール錠(250mg)   500-750mg 保険外
    1x朝食後

2)クラリス(200mg)   600-800mg
    1x朝食後 または 2x朝夕食後
重症例ではカナマイシン(保険外)またはストレプトマイシン(保険外)を加える。

M.kansasii 症の場合
リファジンカプセル(150mg)   300-600mg(10mg/kg) 保険外
エサンブトール錠(250mg)   500-750mg 保険外
イスコチン錠(100mg)      300 保険外
    1x朝食後

【患者への説明】
・人から人への感染はなく、通常の日常生活が可能である。
・完治させることは難しいが、複数の薬剤を組み合わせて治療し、ある程度病勢をコントロールすることは可能である
・長期間かけて悪化することがあり、長期の観察が必要である。


追1)MAC「クラリス」のほか、「ジスロマック」が使用される。
効能又は効果 用法及び用量

ジスロマック錠600mg

<適応菌種>
マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)
<適応症>
後天性免疫不全症候群(エイズ)に伴う播種性マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)症の発症抑制及び治療
発症抑制
成人にはアジスロマイシンとして、1200mg(力価)を週1回経口投与する。
治療:
成人にはアジスロマイシンとして、600mg(力価)を1日1回経口投与する。

用法及び用量に関連する使用上の注意

1.治療に関する海外臨床試験においてエタンブトールとの併用効果が示されているため、治療の際にはエタンブトール(1日15mg/kg)と併用すること。
2.治療に際してはエタンブトールに加え、医師の判断によりMACに対する抗菌活性(in vitro)を有する他の抗菌薬を併用することが望ましい。
3.本剤を使用する際には、投与開始時期、投与期間、併用薬について国内外の学会のガイドライン等、最新の情報を参考にし、投与すること。

追2)MAC「クラリス」のほか、「ジスロマック」が使用される。



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最後に肺結核と対比させてみよう。

肺結核

今日の化学療法の原則は、少なくとも3剤以上の併用が原則であり、空洞がある例、粟粒結核など重症例、糖尿病や塵肺合併例、ステロイドや免疫抑制剤投与例は、あるいは2ヶ月で排菌陰性化しない例や再治療例では化学療法期間を下記提示例のさらに3ヶ月延長する。

合併症のない標準的な成人の初回治療の場合(体重50kg)
1)を2ヶ月投与後、2)を4ヶ月投与して終了する。

1)リファジンカプセル(150mg)   450mg(10mg/kg)
  エサンブトール錠(250mg)   750mg(15mg/kg)
  イスコチン錠(100mg)      300mg(5mg/kg)
  ピラマイド末            1.2g(25mg/kg)

    1x朝食後    60日

2)リファジンカプセル(150mg)   450mg
  イスコチン錠(100mg)      300mg
    1x朝食後    120日

肝障害合併、80歳以上の高齢や、妊娠中でピラマイドが投与できない場合の初回治療(体重40kg)
1)を2ヶ月投与後、2)を7ヶ月投与して終了する。
1)リファジンカプセル(150mg)   450mg
  エサンブトール錠(250mg)   500mg
  イスコチン錠(100mg)      200mg
    1x朝食後    60日

2)リファジンカプセル(150mg)   450mg
  イスコチン錠(100mg)      200mg
    1x朝食後    210日

リファジンは空腹時服用のほうが血中濃度は高くなるが、今日の臨床での考え方は薬理学的効果よりも長期でのトータルな服薬コンプライアンスをより重視し、1日1回朝食後が原則である。

【患者への説明】
・他人への伝染力がかなり強いこと、塗抹陽性なら入院治療をしなければならないことを理解してもらう。
・結核治療の目標は、症状の改善だけではなく、体内の生きた結核菌をほぼ完全に根絶することであるそうでないと高い確率で再発する。
成長の遅い結核菌は殺菌にも時間がかかり、長期の投薬期間が必要であることを理解してもらう。
・決定的に重要なのは継続的な服薬であり、それが不十分だと耐性菌が出現し、治療が著しく困難になることを理解してもらう。


実例処方13の解説

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