ポイント2
前投薬の目的・必要性、使用される薬剤、投与量、投与方法について理解する。

ポイント2のほうから解説していきます。
麻酔の前投薬(プレメディケーション、略してプレメディ)に使われる薬剤にはアトロピン、セルシン、ザンタックなどがある。

アトロピンは気道分泌物の抑制と副交感神経反射の予防のために行われる。セルシンは患者の不安を取り除き、落ち着かせるために投与する。ザンタックは麻酔中の嘔吐による誤嚥性肺炎を防止するために、胃液のpHを上昇させておくために投与される。その必要性については『かなり以前発生した麻酔事故の判決で、前投薬のなされていなかったことが問題とされて以来、多くの施設で盲目的に施行されている習慣である。』ということを述べている麻酔科医のホームページがあるように絶対的ではないようである。小児に対するプレメディに使う薬剤の投与量を以下にまとめた。調剤・監査に必要なので覚えること。

<小児〔15歳以下〕 麻酔前投薬>

 年齢 体重 入室2時間前 入室30分前 
6ヶ月
6ヶ月〜9歳



10歳〜15歳 
 
≦10kg
≦15
≦20
≦25
 なし
セニラン坐剤(3)を1/3個
セニラン坐剤(3)を1/2個
セニラン坐剤(3)を2/3個
セニラン坐剤(3)を1個
 硫酸アトロピン散
0.02mg/kg 経口
(MAX0.5mg)

セニランの代わりに、セルシンシロップ 0.7mg/kg(MAX10mg)もある。

<重症小児症例〔心臓手術、カテーテル検査〕 麻酔前投薬>
入室2時間前 入室60分前
 セルシンシロップ 0.7mg/kg  塩酸モルヒネ散   0.2mg/kg
 硫酸アトロピン散 0.02mg/kg 
                                     麻酔研修マニュアル(南江堂)より

ポイント1
小児薬用量の考え方について理解する。

□セルシンは通常、成人で1回2mgを服用する。小児に対するセルシンの麻酔前投の薬用量は0.7mg/kgとされており、3歳の小児の平均体重が14kgであるから、1回10mgという量でOKとなる。しかし、セルシンは通常、成人で1回2mgを服用するから、対表面積法で計算すると、2x1/3=0.67mgとなり、10倍以上の薬用量の開きができる。この原因は何だろうか?図書館の本をみても説明されている本は見つからない。小児の感受性が低いためとして納得しておこう。神経が未発達のため神経系に作用する薬剤は、成人に比べて多めに投与するとしておく。フェノバールも小児では感受性が低いため、対表面積法が適用できない薬剤である。ベネトリン吸入液も小児で多めに投与する理由を感受性の低さのためと医師から説明を受けたことがある。

□硫酸アトロピン散
体表面積法で算出される用量が、成人と比べ多い薬剤である。その理由は不明。


□一方、小児に抗生物質を多めに投与することは、理論的に説明ができるようである。実際の処方頻度の高いケフラールを処方例に元に考えてみよう。
Rp) 3歳
ケフラール散    4.5g
3X毎食後   7日分

ケフラールの投与量は、1日あたり20mg〜40mg/kgである。450mg÷40=約11kgとなり問題ない。しかしケフラールは成人で1回250mgx3回=750mgが1日量である。体表面積法で計算すると、1歳の小児に対する量は750X1/3=250mgである。
250mg<450mg
これをどのように理解するか?
小児の体は成人に比べ、水分の割合が高い。PK的には「分布容積が大きい」と表現する。よって、ケフラールのような水溶性の薬物を投与すると、成人に比べ体内の広範囲に薬物が分布し濃度が低くなる。よって、成人より多めに投与すると説明されている。

セルシンは中枢神経系がTARGETだから、血液脳関門を通過する。BBBを通過できるということは、脂溶性が高いということ。脂溶性が高ければ、ケフラールの理論で言えば薬物の分布が狭いから成人より少量で済むはずである。しかし、実際は逆である。その原因は、セルシンは薬物分布の面より感受性の影響が大きく、よって成人より多めに投与するということ。

なお、肝臓での代謝が未熟だからではないか、とも考えつくかもしれない。しかし、小児の代謝能は成熟すると言われており、代謝能の低さが原因ではない。

小児の体内総水分量は成人55%に対し70-80%で、小児では細胞外液の割合が高いため細胞外液への分布が大きくなる。単位体重当たりの肝臓容積は小児の方が成人より約2倍大きく、生後2-3ヶ月頃から肝機能は成人レベルに達し、生後6ヶ月頃には腎機能も成人レベルに達する。また血漿蛋白量は成人に比べ少ないため、非結合型薬剤は代謝排泄されやすくなる。新生児は生まれて間もないため薬物クリアランスは非常に遅いが、生後2-3ヶ月頃から徐々に増加し、2-3才で成人のクリアランスを越えて、思春期には遅くなり、そして成人のクリアランスに達する。

□その他の体表面積法が適用できない薬剤
●ジゴシン
ジゴシンエリキシルの添付文書より 0.05mg/mL
急速飽和療法
2歳以下 1日0.060.08mgkgを3〜4回に分割経口投与する。
2歳以上 1日0.040.06mgkgを3〜4回に分割経口投与する。
維持療法
飽和量の1513量を経口投与する。

1歳 10kgとすると
(急速飽和)10.6mg0.8mg
→(維持療法)0.12mg0.27mg →(維持療法 製剤量)2.4ml5.4ml

成人 ジゴシン 0.125mg0.25mgであるから、
成人=1歳の用量となる。

●チラージンS
チラージンS散の添付文書より

通常,乳幼児にはレボチロキシンナトリウムとして110μg/kg(本剤100mg/kg)11回経口投与する。
未熟児に対しては15μg/kg(本剤50mg/kg)から投与を開始して8日目から110μg/kg(本剤100mg/kg)11回経口投与する。

なお、乳幼児とは乳児と幼児を合わせた呼び方で、
乳児1才未満
幼児1才以上6才未満
となってます。

1歳の子供に投与する場合、体重が10kgだから11回、1100μg(製剤量としては1g)となる。一方成人にはチラージンS錠(50)の2錠分に当たる。

小児で多めに投与する理由は不明である。

□体表面積法が適用できない薬剤が多いことがわかる。結論としてはどうやら使用頻度の高い薬剤の小児薬用量を、理屈抜きに覚えていかないとしょうがないようである。使用頻度の高い薬剤とは、
アンギナール散、ラシックス散、アルダクトンA散、ゾビッラクス顆粒など

通常、私は大人の薬用量から小児薬用量を割り出す換算式には、最も普及しているであろう体表面積換算法の一つである「フォン・ハルナックの表」を参考に処方監査を行っている。7.5歳で1/23歳では1/31歳で1/5、生後1ヶ月の未熟児は1/10と理解すると便利。

Von Harnackの表

未熟児

新生児

1/2

1

3

7 1/2

12

成人

1/10

1/8

1/5

1/4

1/3

1/2

2/3

1

また、/kgで小児薬用量が投与量の目安が決まっている薬剤があるので、体重は1歳で10kg6歳で20kgを覚えておく。

 しかし、この換算が適用できない薬剤が結構多く、「これは量が多いんじゃない?」と不安になることも少なくない。今回は日直・当直のときに処方がよく出されるプレメディケーションの処方実例をもとに体表面積法が適用できない薬剤について解説を加える。

ポイント2
前投薬の目的・必要性、使用される薬剤、投与量、投与方法について理解する。

最後に前投薬の処方例を紹介して、終了する。

成人 術前 麻酔前投薬 
1)ザンタック(150mg)      1T
ALS1P 指示通り   2回分
C 手術前日21時&手術2時間前に服用
2)セルシン(5mg)        1T
ALS1P 指示通り   1回分
C 手術2時間前

心臓カテ−テル検査前 ie予防
小児科  12歳  男
1)サワシリン(250mg)     8CAP
分割 3,3,2
3X毎食後   4日分

消化器外科 消化管手術前の消化管殺菌>術後感染症予防
1)ポリミキシンB25U)     4T
 ALS1P 指示通り    10回分
2)フラジール             1T 
 ALS1P 指示通り    10回分

●ニフレック等の下剤による大腸内容の除去(機械的処置)と化学療法剤の経口投与(腸管内殺菌)を術後感染のリスクに応じて組み合わせる。腸管処理:「Colon preparation」「bowel preparation」。
●腸管内殺菌は大腸内の主要常在菌であるbacteroides他の嫌気性菌に対しフラジールを(適応外)、E.coli他のcolifoemsを対象に、腸管より吸収されないポリミキシンBを使用する。
●手術3日前の夕食後・就寝前、2日前の毎食後・就寝前、1日前の毎食後・就寝前の10回に分けて服用する。

このレジメンを改良したものが、泌尿器科で行われています。術中に腸管を損傷してしまった際の感染発症を予防するためのようです
●吸収されないカナマイシンドライシロップを使用することもある。

薬剤投与前の前投薬
レミケード注、エンブレル注、アクテムラ注、ヒュミラ注
リツキサン注
タキソール注
タキソール以外はすべて抗体医薬品。前投薬する理由、使用する薬剤などは各自学習してください。


呼吸器内科  ペンタミジン吸入前に使用 カリニ肺炎の予防
60歳 男
1)
ベネトリン吸入液    
 生理食塩液       10ML
 吸入 1D
喘息患者に対する吸入処方を見慣れていると、1回きりの吸入でいいの?と思うかもしれません。ペンタメジン(商品名:ベナンバックス)の吸入療法は添付文書にも明記されています。吸入すると、吸入開始直後に粘液性気道分泌物産生亢進、湿性咳嗽、それに伴う気道閉塞・換気不全を起こすことがあるようです。製薬会社に問い合わせたところ、具体的症状については報告を受けていないが、問い合わせに対しては予防的にβ-刺激薬の予防投与後にペンタミジンの吸入を行うよう注意を促しているとの回答でした。

作成日2008年10月16日

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