いつものように「うつ」という敵と戦うための 薬剤師の武器(=薬剤)を整理しましょう → 同種同効薬4 参照

三環系、四環系、SSRI、SNRIなどと薬効群ごとに処方薬をザックリと見ることが処方を読めるようになる近道です。

・うつの状態によって、抗うつ薬以外にも気分安定薬、抗不安薬、抗精神病薬、睡眠薬などを併用することがある。

・軽度のうつで、軽い不眠障害や自律神経症状を呈する場合は、抗不安薬だけで症状が改善し、抗うつ薬を必要としない場合がある。

・うつは脳内のNA5HTが減少して起こるという考え(モノアミン仮説)、に基づき薬剤が開発されている。

・ノルアドレナリンの増加は「意欲」を高め、セロトニンの増加は不安感をやわらげ「気分」を楽にするといわれており、薬剤選択の判断材料の一つになることがあります。

・例えば、意欲が低下している患者にはNAに作用するノリトレンが選択される。強迫症状や不安・焦燥感には5HTにより選択性の高いアナフラニールが選択される。

・アナフラニールは唯一の抗うつ薬の注射剤
参考)唯一のNSAIDsの注射剤はロピオン

■抗うつ薬は、様々な受容体遮断作用を有しており、これが副作用プロファイルと関係してくる。よくもこれだけいろいろな受容体を遮断するなと呆れてしまいます。

・有効性の予測の難しさにとは対照的に、副作用についてはその原因について受容体で分けて整理がつきます。調剤する時には、主薬とその副作用のために併用される以下のような薬剤をペアで眺めることにより、処方が理解しやすくなります。

機序 症状 副作用のために併用される薬剤
三環系 抗M1作用 便秘 プルゼニド、アローゼン
尿閉 ベサコリン、ウブレチド
抗α1作用 立ちくらみ リズミック
SSRI 5HT3-R刺激 吐き気 ガスモチン、ナウゼリン
下痢 セレキノン
SNRI α1-R刺激 尿閉 ハルナール

抗コリン作用による口渇に漢方薬が使用されることもあるようだ。ただし処方頻度は少ないように感じる。うがいなどで対処していると思われる。

・<SSRIの投与初期に発現する悪心対策になぜガスモチンが処方されるのか?
SSRIは投与初期の悪心の発現率が高く(10~20%)、投与中止せざるを得ない場合がある。しかし、ほとんどの場合、2週間〜1ヶ月程度で自然消失する。
・消化管では
5HT1-R・・・消化管運動低下
5HT3-R・・・消化管運動更新
5HT4-R・・・消化管運動更新
投与初期では5HT1-Rを刺激して消化管運動を低下させ、悪心をもたらすが、次第にダウンレギュレーションが起こり、症状が消失すると推測されている。
・ガスモチンは5HT4-Rの選択的刺激薬であり、SSRIによる悪心を抑える目的で一時的に1ヶ月程度併用されることがある。

■<薬剤の併用について>
・モノアミン仮説はうつ病の原因の一つを説明できるが、それ以外にも解明されていないうつの原因はある。また、人間の脳は2つの神経伝達物質だけで説明できるほど単純ではなさそうだ。うつの原因も患者ごとにそれぞれ違うだろう。したがって、薬剤の有効性は患者に投与してみないと効果が予測できないし、反応性も患者ごとに違う。

・自分も研修生時代は沢山出ている処方薬の意図をきれいに説明したくていろいろと本を読んだ。しかし、同じようなモノアミンへの作用プロファイルをもったTCAが数剤併用されたり、TCASSRISNRIが併用されたりしている現状は、理論的にはきれいに説明することが難しく、長い病歴の中で薬物療法の試行錯誤から出来上がった併用療法であることもある。併用を支持する実証はないと思う。

・作用機序が同じような抗うつ薬の併用を説明できる(数少ない)例として、薬剤をスイッチする過程の2剤併用が挙げられる。やめたい薬剤が副作用予防の理由で漸減しなければならない場合、その減量期と、新たに追加したい薬剤が重なるときに2種類の薬剤が併用されることになる。
例)性機能障害のためパキシルからテトラミドへ変更など。

ここで漸減が必要な薬剤を整理しておきましょう。
@抗うつ薬>退薬症候 
cf.セロトニン症候群は、セロトニン濃度の急激な“上昇”が原因である。

Aステロイド
Bベンゾジアゼピン系薬剤
Cパーキンソン病治療薬>ドパミンアゴニスト>ペルマックス、ビ・シフロール
悪性症候群

・抗うつ薬の効果発現まで、一時的に抗不安薬を併用することがある。

前置きが長くなりましたが調剤時の頭の働かせ方の説明に入ります。
■<抗うつ薬:レスリン、ジェイゾロフト、トリプタノール、アモキサン、テトラミド>
5HTに選択性の高いレスリン、ジェイゾロフト
TCAのアモキサンはNA優位、トリプタノールは5HTNAを同等に増やす

・四環系(=NAに作用する)のテトラミド
とグループ分けできればとりあえず十分

トータルするとNA5HT↑に作用しているようだ。

併用の根拠は不明。単剤を増量するより、併用で副作用のリスクを分散させているのかも・・・。

テトラミドは抗H1作用が強く睡眠導入効果が期待できる。他の処方も就寝前がほとんど。
cf.)皮膚科でアタラックスPが睡眠作用を期待してしばしば処方されることと似ている

■<抗不安薬:ミケラン、デパス>
・ミケランの適応症に「心臓神経症」というのがある。心臓神経症とは心臓には異常が見られないのに、胸痛や動悸といった循環器症状を訴えることを言う。ストレスなどで精神的な不安がきっかけとなって起こりやすく、心理的な要因が発症することが多い。

・β遮断薬には抗不安作用がある。精神科でよく使用されるのがミケラン。他のβ遮断薬に比べ実績があることがその理由ではないか。しかし、ミケランはかなり水溶であるため、抗不安作用の点だけから言えばターゲットの脳に分布しにくそうだ。抗不安作用+循環器症状を抑える両方の作用を狙っている?

なお、ベータは動悸や手の振るえなどの症状にも有効とされているが、その場合のターゲットは骨格筋のベータ受容体であるから、水溶性のベータを選択するほうが妥当と考えるが、臨床で使用されるのは脂溶性の高いインデラル(適応外)。

・ミケランの用法が頓用ではなく12回としているのは、抗不安作用を期待しているからなのか?

・朝ミケラン、昼デパス、就寝前ミケランと使い分けている理由は何だろうか。ミケランを1日の抗不安作用のベースにして、不安が一時的に強くなる昼〜夜のためにデパスでカバーしているのかも。

<ハルナール>
・抗うつ薬による尿閉の原因は抗コリン作用による膀胱の弛緩と考えられ、その対策としてベサコリンなどが使用される。

・今回処方されているのはハルナール。本には抗うつ薬と併用されるハルナールの処方目的について説明されていることは少ない。患者は31歳だから当然前立腺肥大ではないだろう。

・この患者にハルナールが処方されている理由は、抗うつ薬のNA↑のα1受容体刺激による前立腺収縮に対して処方されていると推測する。

・脳内でのNA↑は抗うつ作用を発揮するが、末梢(前立腺)でのNA↑は前立腺を収縮させ尿閉という副作用を起こしてしまうということ。

TCANA↑と同時に抗α1作用があり作用が相殺されることが多いので、通常はハルナールの投与が必要になることは少ない。

・通常抗うつ薬による尿閉の原因は、抗コリン作用の影響の方が大きいと考えられる。だから、処方頻度としては抗ChE-I(ベサコリン)>α1blocker(ハルナール)だと思っている。

・この患者の尿閉の原因は、抗うつ薬のM1阻害よりα1刺激である。

SNRIで尿閉が起こった場合にSSRIへの切り替えが行われる。理由はSSRINA↑が少ないからと説明がつく。


■<SSRIについて(まとめ)>
各国で公表されているうつ病の薬物治療のガイドラインでは、第一選択の抗うつ薬は SSRI であると記載しているものがほとんどである。今や SSRI はうつ病の急性期治療、維持療法、再発予防いずれの時期にも第一選択薬として使用されている。

長所と短所をまとめると以下のようになる
 長所  短所
・M,α1H1受容体遮断作用が非常に弱いため、副作用が少ない。

・大量服薬に伴う危険性も少ない。

・うつ病は単独で存在するよりも、むしろ他の精神疾患を伴うことが多い。SSRIは抗うつ作用のみならず「パニック障害」などへも有効であり、これらの疾患を併存させている症例への投与で有効性が期待できる。

SNRIに比べれば、尿閉の副作用が少ない。

・重症のうつ病には効果が低い
(重症にはTCAを処方する)

・副作用の全体的な発現頻度はTCAより低いが、消化器症状や性機能障害などは頻度が高い。

CYPを介した薬物相互作用に注意が必要である

・投与初期に不安・焦燥が高まるため、抗不安薬を併用することがある

・パキシル18歳未満への投与は慎重に。自殺リスク↑【警告】。催奇形性があるため、妊娠可能な女性への投与も慎重に。


・SNRIとSSRIの臨床上の使い分けについて考えられる事を列記してみる
@SSRI+意欲向上作用(NA↑作用)=SNRI
ASNRIに比べて、SSRIではNA↑による副作用が少ない。例えば尿閉、頻脈、血圧上昇などである。
BSSRIはCYPを阻害するが、SNRIにはCYPへの影響がない。



■処方されていないが、処方頻度の高い気分安定薬について一言
・僕が薬剤部へ入ったときは、何で精神科でこんなにてんかん薬であるデパケンが出るのだろうと疑問に思ったものでした。適応症を見てもてんかん関係の適応症しか載っていなかった。当時は躁病および躁うつ病の躁状態の治療に対して適応外で使用されており、関連学会等からも本製剤の躁病に対する適応拡大を望む声がありました。

・デパケンは平成1121日の厚生省(現 厚生労働省)健康政策局研究開発振興課長・医薬安全局審査管理課長 通知「適応外使用に係る医療用医薬品の取扱いについて」に基づき、国内外の既存の文献、資料等からバルプロ酸ナトリウム製剤に対する躁病への適応は医学薬学上公知であるものと判断し、承認事項一部変更承認申請を20018月に当局へ提出、20029月に承認されました。

■その他に分類されるレスリンとドグマチールについて
@レスリン
SSRIが発売されるまでは、もっぱらレスリンが使用されていた。今でもしばしば処方されているから、しっかりした効果のある薬剤なのだろう。レスリン>>SSRIという開発の流れがあり、兄弟のような感じ。

Aドグマチールについて

・ドグマチールは、ドパミン受容体遮断作用を持つため、高用量では統合失調症(症状のうち、幻覚・妄想・思考抑制状態)治療薬として用いられる。また、低用量では、神経終末からのドパミン遊離作用により、抗うつ効果を示す。用量によって相反する作用をするおもしろい薬剤。

・ドグマチールが出たら診療科を必ず確認しよう、消化器内科でドグマチール200mg が出ていたら、規格量の選択間違いの可能性が高い。

・ドグマチールのように用量によって適応症が違う薬剤「今日の治療薬」を全ページめくって、整理しておこう。




作成日 2008.11.13.

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