ポイント1
「原則禁忌」とされる薬剤が併用される処方背景を知る
・脂質管理目標値に設定されている3種の脂質LDL-C、TG、HDL-Cに対し、治療薬がどのように作用するのか大雑把にまとめたのが、下の図です。
・どの程度脂質を下げるのか(あるいは上げるのか)を具体的に示したのが下の表です。
分類 | LDL-C | TG | HDL−C |
スタチン系 | ↓ ↓ ↓ | ↓ | ↑ |
陰イオン交換樹脂 | ↓ ↓ | − | ↑ |
フィブラート系 | ↓ | ↓ ↓ ↓ | ↑↑↑ |
ニコチン酸 | ↓ | ↓ ↓ | ↑ |
EPA製剤 | − | ↓ | − |
・患者によって異常値を示す脂質の種類は異なっています。その中で
高LDL―C血症に対しスタチンが投与され、
高TG血症、低HDL-C血症に対しフィブラートが投与される患者がいて、
結果、両剤の併用となるわけです。
・高TG血症、低HDL-C血症
フィブラートが第一選択です。
奏効しない場合は、エパデール、あるいはニコチン酸系が追加されます。
■日本人に多い高脂血症は次の3つのタイプに分けられます。
1:LDL(悪玉)コレステロールが高い、高コレステロール血症(IIa型)
2:中性脂肪が高い、高トリグリセリド血症(高中性脂肪血症)(IV型)
3:LDL(悪玉)コレステロール・中性脂肪とも高い、混合型高脂血症(IIb型)
治療方針の原則 |
カテゴリー |
脂質管理目標値(mg/dL) |
|||
|
LDL-C以外の |
LDL-C |
HDL-C |
TG |
|
一次予防 |
I |
0 |
<160 |
≧40 |
<150 |
II |
1〜2 |
<140 |
|||
III |
3以上 |
<120 |
|||
二次予防 |
冠動脈疾患の既往 |
<100 |
ポイント3
薬物相互作用の面から、スタチン製剤の使い分けについて整理する
ポイント4
バイオアベイラビリティーの現場での使い方を知る
脂質異常症の治療薬の中で90%以上を占めるスタチンですが、現在6種のスタチンが上市されています。当院ではこれら全てが採用されています。今まで同種同効薬の比較について説明することは学習の効率が悪くなる等の理由から極力控えてきましたが、相互作用の面からまとめたスタチン製剤の使い分けを紹介します。
CYPは「脂溶性の薬物を代謝する」と理解していると思いますが、ピタバスタチン(リバロ)はその概念を変えるような薬物です。つまり、DMリバロは脂溶性であるにもかかわらずCYPによる代謝をほとんど受けず、未変化体のまま胆汁中に排泄されます。CYPの代謝をほとんど受けないという点で、安全性が高いといわれる水溶性のプラバスタチン(メバロチン)によく似ていると思います。他の脂溶性のスタチンとは異なるという点で、薬物動態の面では全く新しいタイプのスタチンだと考えるのがよいと思います。
■クレストール
・アルミニウム、マグネシウムにより吸収を阻害される。 同時服用で50%吸収低下。
・スタチンにはその作用の強さによりスタンダードスタチンとストロングスタチンに分けられます。
スタンダードスタチン |
プラバスタチン(商品名 メバロチンなど) |
ストロングスタチン |
アトルバスタチン(商品名 リピトール) |
・親水性の唯一のストロングスタチンでも作用の強さは最強。なお、クレストールがでるまでの最強のスタチンは、リピトールとされていました。
・クレストールは親水性ですが、肝臓に取り込まれやすく、肝臓以外の組織では取り込まれにくい性質を持ちます。これは、肝臓にはクレストールを取り込むためのタンパク質(トランスポーター)があり、肝臓以外の組織の細胞にはないからです。
・CYPを介した相互作用がないこと、バイオアベイラビリティが29.0%であることから、他のスタチンと比べほかの薬剤との相互作用が少ないと考えられる。
・作用が強い分、副作用(腎障害、横紋筋融解症など)にも注意しなければなりません。
■バイオアベイラビリティー
「100」を飲んで「50」が血中に入り作用する薬では、仮に相互作用が起きても、理論上は2倍にしか上昇しませんが、「100」を飲んでも代謝されてしまい「1」しか血中に入らない薬では、極端に血中濃度が高くなってしまうことが起こり得るわけです。したがって、「バイオアベイラビリティーが低い」ほど薬物相互作用の問題が大きい、ということになります。
リバロはバイオアベイラビリティーが約60%と、高い薬です。仮にほかの経路での薬物相互作用や、あるいは代謝が抑えられたとしても、臨床的にはそれほど問題にならないと予測されます。
BAの言葉の意味は誰でも知っているでしょう。それをどのように臨床で生かすかは大学ではほとんど習わないと思います。ここで2つの使い方にまとめます。
例1 薬物相互作用の影響の大きさを考えるときの指標
BAが非常に低い薬剤 →相互作用の影響が大
リポバス(BA:5%以下) バイミカード(BA:3〜7%以下)
BAが高い薬剤 →相互作用に影響が少
例2 剤型を変更する際の、投与量の設定
薬剤A(錠剤)を0.25mg内服しており、BAが0.7だとします。錠剤から注射に切り替える場合、0.25x0.7=0.175mgを静注投与すればよいことになります。
しかし、代謝物に活性がある場合にはこの比例計算が適用できないことがあることに注意。
口から投与された薬剤は、小腸から吸収され、肝臓で初回通過効果を受けて、全身循環系に入る。口から入った薬剤は吸収時のロス、代謝を受けてのロスなどで、減量されるのが一般的である。
しかし、中には数は少ないですが、BAが非常に高い薬剤がいくつかあります。
プレドニン、アイトロール、ザイボックス(ほぼ100%)、アセトアミノフェン(90%)、ジフルカン(89%)、シプロキサン(82.5%)
注射から経口あるいは経口から注射に投与経路を変更するときに、投与量はほぼ同じでいいということです。
(最後に)
■スタチンの作用機序
スタチンがHMG-CoA還元酵素を特異的に競合阻害する結果、細胞内のコレステロールの合成が低下します。ところで細胞は、細胞内にたまっているコレステロールを認識するセンサーをもっています。このセンサーは細胞内のコレステロール量を常に一定に保とうとする働きがあります。したがって、細胞内のコレステロールの量が少なくなると、今度は細胞の外からコレステロールを取り込む働きを強めます。これは細胞の表面にあるコレステロールを取り込む受容体を増やすことにより可能となるのです。この受容体はLDL受容体とよばれています。スタチンは肝臓でLDL受容体をたくさん発現させることにより、血液中のLDLを肝臓に取り込ませて、最終的に体外へと排出します。
■スタチン製剤の服用方法は、夜間にコレステロール合成が行われることから夕食後がいいと言われていましたが、実際にデータが出されているのはリポバスだけです。
半減期が短いスタチン、例えばメバロチンは1-2hである一方で、1日1回あるいは2回で服用すると添付文書に書いてある。その理由についてわかれば誰か教えてください。
■抗血小板薬(バファリン抗血栓)については、改めて別の機会に説明をします。
作成日 2008年11月30日
実例処方8の解説
■脂質異常症とは
・動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007」が発表されました。2002年度版との主な相違点は「総コレステロール値」を診断基準から外し参考値とし、コレステロール値としてはLDL-C値を用いることにしました。また、従来「高脂血症」と表現していたものを「脂質異常症」と呼び方を変えました。「総コレステロール値」が高いと体に悪いというのは不正確な表現で、
「悪玉コレステロール=LDLコレステロール値」が高いと体に悪い
「善玉コレステロール=HDLコレステロール値」が“低い”と体に悪い
ということが正しいということです。
日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版
脂質管理と同時に他の危険因子(喫煙、高血圧や糖尿病の治療など)を是正する必要がある。
※LDL-C値以外の主要危険因子
@加齢(男性45歳以上、女性55歳以上)
A高血圧
B糖尿病(耐糖能異常を含む)
C喫煙
D冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)の家族歴
E低HDL血症(<40mg/dL)
糖尿病、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症の合併はカテゴリー3とする。
ポイント2
横紋筋融解症に対するモニター方法を知る
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(メバロチンの添付文書より)
・腎機能に関する臨床検査値に異常が認められる患者に、本剤とフィブラート系薬剤を併用する場合には、治療上やむを得ないと判断される場合にのみ併用すること[横紋筋融解症があらわれやすい。]
・急激な腎機能悪化を伴う横紋筋融解症があらわれやすい[自覚症状(筋肉痛、脱力感)の発現、CK(CPK)上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇並びに血清クレアチニン上昇等の腎機能の悪化を認めた場合は直ちに投与を中止すること。]。
・危険因子:腎機能に関する臨床検査値に異常が認められる患者
腎機能に関する臨床検査値に異常が認められる患者では原則として併用しないこととするが、治療上やむを得ないと判断される場合にのみ慎重に併用すること。
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横紋筋融解症は、その病名から「筋肉が溶ける」という状態をイメージされるかと思いますが、実際そう言っていい程度まで筋肉が障害されて、細胞成分が血中に流出する病態です。細胞成分のうち、とくにミオグロビンの上昇を伴い、尿細管が障害されて急性腎不全をきたします。このように横紋筋融解症は、透析や死に至る恐ろしい副作用といえます。
注意すべき臨床検査項目としては、LDH、CPK─最近はCKと呼ばれます─およびミオグロビンなどが挙げられます。これらのうちLDH、CKは比較的血中へ漏れやすいものですが、ミオグロビンが現れると、筋肉の障害がかなり強いという認識を持つのが妥当。
自覚症状としては、筋肉の痛みや力が入らないという脱力感が一番多いとされてます。しびれや筋肉の腫脹等も報告されていますが、患者さんに聞いていただくことは筋肉痛と脱力感を中心に。また、血中のミオグロビン量が多くなりますと赤褐色、または「コカコーラ様の色」と言われる尿がみられることがあります。
平成13年の厚生労働省の指導により、スタチンを投与する場合は注意書きを添付していますが、そこに筋肉痛や脱力、赤褐色の尿が出たときは服用をやめ、医師等に相談するようにと書かれています。そうすると患者さんはちょっと過敏になり、よく筋肉痛を訴えます(笑)。注意書きの配布直後に僕の親戚から副作用を心配する問い合わせが2件ありました。薬の作用で起こる筋肉痛は1箇所だけではなく全身に起こってきます。また、運動を行っていないかなどを目安に大体のリスクを判断し、その後の対応を考えます。なお、CKは半減期が非常に短く、服薬をやめて数日たってしまうと病院に行っても検査をしても正常値となります。服薬中止の後はすぐに病院で検査を受けることが必要です。また、運動しすぎればCKは上昇します。
CKは比較的早期に血中に現れるため、横紋筋融解症の予防には大変重要となります。また、CKの測定時期としては、筋肉痛等の自覚症状が認められた時はもちろんですが、定期的に測定するべきだと考えています。DM筋肉症状を伴うCK上昇が認められれば、ミオグロビンを測定します。筋肉の症状があり、かつCKおよびミオグロビンが上昇していれば、横紋筋融解症と診断していいとも言われます。ただし、筋肉の症状とCKの上昇だけの場合は、「ミオパシー」と捉えたほうがいいと思います
筋肉の症状がありCKが上昇し、かつミオグロビンも上昇した場合(横紋筋融解症)は、即中止しなければなりません。
発現時期は1カ月以内の早期が一番多く、次が3カ月以内で、それを過ぎると比較的少なくなります。ただし、10カ月以上たって起こるという場合もありますから、服用中は絶えず注意し、定期的にCKを測定する必要があります。
検査のタイミングは、投与開始から最初の3カ月間は、患者さんが来院される4週間ごとにCKをチェックします。効果をみるとともに副作用もみるわけですね。投与開始から3カ月を過ぎれば、あとは3カ月ごとの検査でいいと思います。
・フィブラート、スタチンによる横紋筋融解症の発症メカニズムは解明されていません。
・脂質異常症に対する治療薬同士の併用だけに注意を払うだけでなく、CYPを介した他の疾患に対する治療薬との相互作用にも注意しましょう。自分の専門領域で使う薬剤について医師は薬剤師より熟知していますが、専門外で使用する薬剤の知識は薬剤師より少ないです。その弱点を医療チームの一員として支援していくことが大切です。
・相互作用は薬剤だけで起こるものではありません。食品でも起こります。グレープフルーツジュース、セントジョーンズワート
・脂質異常症ではなく他の疾患に対し新たに薬剤を追加し、その薬剤による腎障害が進行し、その結果フィブラートのクリアランスが低下して毒性が増強され、横紋筋融解症が発症することも十分考えられます。すぐにディスカッションに参加できるように、腎障害を起こしやすい薬剤を予め頭の中に整理しておくことも薬剤師として必要でしょう。
ベザトールSR Cr2以上で投与禁忌
リピディル Cr2.5以上は投与禁忌