抗血小板薬(経口剤)

注射剤を除いた経口剤に絞り,話を進めていきます。
抗血栓薬(経口剤)は、抗凝固薬のワーファリンと、アスピリンやクロピドグレル等の抗血小板薬に分けられます。
処方箋をみると抗凝固薬が単剤で処方されたり、抗血小板薬が単剤で処方されたり、抗凝固薬と抗血小板薬が併用で処方されたりしています。また、時に抗血小板薬同士が併用されたりしています。これらの薬剤はどのような考えのもとで使われているのでしょうか?

以下のように順番に分類していき頭の中を大きく3つにグループに分けます。
1.抗凝固薬(=ワーファリン)と抗血小板薬に分ける

2.抗血小板薬を作用の強さにより2つに分ける。つまり、血栓・塞栓形成抑制の予防効果がしっかり期待できるものと,作用がマイルドなため単なる血流改善による虚血症状の改善程度に適応が制限されているもの、の2つに大別します。

今回の本題は、血栓・塞栓形成抑制の予防効果が期待できる抗血小板薬同士の比較です(「同種同効果の比較」)です。

■抗凝固薬と抗血小板薬の使い分け
血栓症の発生は、
静脈など血液が滞るために起こる血栓症では凝固因子の働きが、血流が早い動脈では血小板の働きが重要です。人工弁置換術後、心房細動、深部静脈血栓症、肺梗塞など主に血流の乱れやうっ滞による血栓症に対しては主に抗凝固薬が使われ、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など動脈で起こる血栓症に対しては主に抗血小板薬が使われます。まとめると以下の表のように整理されます。

   抗凝固薬
(ワーファリン)
 抗血小板薬
(アスピリン等)
 血栓ができやすい部位 静脈
血流が乱れやすい、あるいは滞るところ
動脈
傷ついた血管壁
動脈硬化などで血管壁が粗面になっているところ
 主な適応疾患 人工弁設置患者、心房細動、深部静脈血栓症、肺梗塞など 狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など
 血栓の原因 凝固系の活性化 血小板の活性化
 組成 赤血球とフィブリン 血小板とフィブリン
 モニタリング 薬効の個人差が大
食事の影響、薬物相互作用を受けやすい
PT-INRでコントロール
頻回のモニタリングが必要 
個人差小。一部ノンレスポンダーが存在。
確立されたモニタリング方法はなく、至適投与量の設定法がない。 

ただ、血栓は血小板と凝固因子が複雑に反応し合ってできますから、はっきり分けることは難しいです。患者さんの血栓の原因を基本に、今までの臨床試験の結果等から
・抗凝固薬(ワーファリン)を優先して投与するか抗血小板薬を優先して投与するか
・抗凝固薬と抗血小板薬を併用するかしないか
・抗血小板薬同士を併用する場合,どのような組み合わせが効果が期待できるか
が決まります。

■抗血小板薬の使い分け
経口の抗血小板薬に分類されるエパデールS、プロサイリン、アンプラーグは作用がマイルドなため単なる血流改善による虚血症状の改善程度に適応が制限されているため、一覧表には入れていません。
どの薬剤を第一選択するのか、あるいは併用するならどのコンビネーションでいくのかは臨床試験の結果により決まっています。

   アスピリン パナルジン
プラビックス 
プレタール
ペルサンチン
 作用機序  COX1阻害 ADP受容体 (P2Y12) PDE阻害 
 可逆性  不可逆 不可逆  可逆 
 主な副作用  消化性潰瘍 肝機能障害(2%)
→投与開始後2ヶ月は、2週間に1回の血液検査が推奨されている。
顆粒球減少 (0.3%)
動悸・頻脈などの循環器症状頭痛
心不全、狭心症の誘発 

★★★抗血小板薬を2剤併用する事例★★★
 ステントの出現によって
PCI(経皮的冠インターベンション)の主流はPTCA(経皮的冠動脈形成術)からステントへ移行しました。しかし、ステント挿入後の数日間をピークに発生する亜急性ステント血栓症(SAT:留置後30日までに発症するステント内の血栓形成とそれに伴う心事故をいう)が問題点として浮上しました。
 ステント血栓症に対しては、抗凝固薬ではなく抗血小板薬が使われますが、ステントの種類によって併用期間の長さが違うことに注意します。
・通常のステント:ステント留置後
1ヶ月間は,アスピリン100mgとチエノピリジン系薬剤を併用。その後は生涯アスピリンを服用。
・薬剤溶出性ステント:正常な内膜がステントを覆うまでの間、血管内に露出したステント(金属製のメッシュ)が異物として認識され、血栓が形成されやすい状態にある。長期間にわたりステントがむき出しになるため、
最低1年間はアスピリン100mgとプラビックス75mgの併用が必要。はっきりした併用期間はまだ明らかになっていない。その後は生涯アスピリンを服用。
参考:2007 ACC/AHA/SCAI PCIガイドライン

【補足1】プラビックスの血小板凝集抑制、CYP2C19遺伝子多型が影響?
プラビックスはプロドラッグです.パナルジンもプロドラックです。

プラビックスは、CYP2C19とCYP3A4
による2段階の代謝を受けて活性体になります。CYP2C19は、その活性が消失する*2(スターツー)および*3(スタースリー)という一塩基多型(SNP=「スニップ」と読む)が存在し、アジア人に高頻度に変異があることが知られていますつまり日本人では、遺伝的なCYP2C19活性低下症例の頻度が多く、そのような症例では、プラビックスが代謝活性化されないことにより効果が減弱する可能性が考えられます。
パナルジンもプロドラッグであり、CYP2C19による代謝が、活性型となるために重要と報告されていますが、海外であまり使用されていないためか代謝活性化を阻害されることによる有効性の低下がどの程度なのかはっきりした臨床研究はありません。


【補足2】PPIがプラビックスの作用を減弱させるかもしれない

低用量アスピリンでも消化性潰瘍のリスクがあり、その予防にPPIが有効であることが明らかになっています。
実際、処方もバンバン出ます。
ステント血栓症の予防のためにアスピリンとプラビックスを併用し、アスピリンの副作用予防のためにPPIを併用したとしましょう。
PPIは、オメプラゾール、ランソプラゾールおよびラベプラゾールナトリウムの3種類が臨床現場で使用可能です。オメプラゾールとランソプラゾールに関しては、その主たる代謝酵素はCYP2C19で、そのため、クロピドグレルと併用した場合、CYP2C19を競合的に取り合うことになります。そうなればオメプラゾールやランソプラゾールの効果は、分解が遅くなるため増強されることが予想されます。一方、クロピドグレルの効果は、減弱する可能性があります。




★★★同じ病気でも,重症度によって抗凝固薬と抗血小板薬を使い分ける事例★★★
心房細動の塞栓予防に対する薬物療法を事例に話を進めます。
まず,非弁膜症性心房細動と弁膜症性心房細動に分けます。
1.非弁膜症性心房細動
脳梗塞の予想能力が高いとされ,治験でも利用されている
CHADS2スコア(「チャズ ツー」と読む)を用い,リスクを3段階に分けます。うっ血性心不全:1点,75歳以上:1点,糖尿病:1点,脳卒中/一過性脳虚血発作:2点,さらに低心機能(左室駆出率:LVEF35%以下)1点とカウントし、点数が高いほど脳梗塞発症のリスクが高くなります。
リスク分類 抗血小板薬
a)低リスク(スコア0点) 抗血小板薬(抗凝固薬は不要)
b)中等度リスク(スコア1点) 抗凝固薬もしくは抗血小板薬
(抗凝固薬が望ましい)
c)高リスク(スコア2点以上) 抗凝固薬
抗凝固薬は以下の値を目標とします。70歳以上のワーファリンコントロールは、PT-INR1.6未満で予防効果がなく、2.6を超えると重篤な出血を起こすリスクが急激に増加するので、
a)70歳未満:PT-INR 2.0-3.0
b)70歳以上:PT-INR 1.6-2.6
でコントロールすることを目標にします。
2.弁膜症性心房細動
PT-INR 2.0-3.0になるように抗凝固薬を投与。機械弁による弁置換後ではPT-INR 2.5-3.5にコントロールします。それでも塞栓症を発症した場合は、抗血小板薬を加えます。

作成日 2009年7月31日

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