癌性疼痛に用いる強オピオイド
オピオイド性鎮痛薬は、心筋梗塞の痛みや、くも膜下出血に対する強い頭痛・鎮静などに広く使われています。心臓手術などには数年前までフェンタニル注が使われていましたが、2007年にはレミフェンタニル(商品名;アルチバ)のような作用発現までの時間が短く(約1分)、消失も早い(5〜10分)麻酔に適した鎮痛剤も発売されました。このように様々な場面で使用されているオピオイドですが、今回は癌性疼痛に用いるオピオイドで、強オピオイドに焦点をあてて基本をコンパクトにまとめてみます。癌性疼痛に対するコントロールの知識は、感染症に対する薬剤の使用方法と同様にどの診療科の薬剤師にとっても必須の知識であり、比較的短時間で理解でき、臨床に生かせる領域であると思います。
□オピオイドは強オピオイドと弱オピオイドに大別できます。
□両者の決定的違いは、弱オピオイドには一定の量で鎮痛効果が頭打ちになるが、強オピオイドには効果の頭打ちがなく増量すればするほど鎮痛効果が期待できる点にあります。
弱オピオイド
(partial agonist) |
ペルタゾン錠
レペタン坐剤、注
ソセゴン注 など
|
一定の量で鎮痛効果が頭打ち |
強オピオイド
(full agonist) |
オキシコンチン錠
フェンタニルMTパッチ
塩酸モルヒネ注 など
|
増量すればするほど効果が期待できる。 |

薬理学の教科書のシグモイド曲線が、モルヒネに関しては当てはまりません。たまにレペタンやソセゴンで粘ろうとする医師がいますが、痛みのコントロールができなくなればモルヒネへ躊躇無く移行することを薬剤師として進言する必要があります。例えるなら、戦車級の敵(=痛み)には、ピストルでなくロケット砲などの相応の能力のある武器がないと勝てないということです。
□2002年にデュロテップパッチ、2003年にはオキシコンチン錠が発売され、モルヒネ以外にも使用できるオピオイドの成分や剤型にバリエーションが増しました。当然、各成分や剤型に特徴があり、患者に適した製剤を選択する知識が必要です。また、一度選択した製剤が副作用などの理由で使用できなくなったとき、他の製剤に変更し疼痛をコントロールすることがあります。これを「オピオイドローテーション」といいます。
□オピオイドローテーションの話に入る前に、注射剤を除く各製剤の整理をしましょう。
<ポイント>
■成分
>モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルの3つから選択します。
■剤型
>各成分ごとに使用できる剤型が異なります
■作用発現時間、作用持続時間
>ベースライン用鎮痛薬とレスキュー用鎮痛薬に分けます。 |
| 成分 |
薬剤名 |
剤型(規格) |
作用発現時間 |
最大効果
発現時間 |
作用持続時間 |
使用目的 |
| モルヒネ |
MSコンチン |
錠(10)(30) |
70分 |
3時間 |
12時間 |
ベースライン |
| (院)10%モルヒネ散 |
散 |
|
|
|
レスキュー |
| アンペック |
坐(10)(20) |
20分 |
1.5時間 |
8時間 |
レスキュー、
ベースライン |
| オプソ |
内服液(5) |
5〜15分 |
30分 |
4時間 |
レスキュー |
| #パシーフ |
カプセル(30) |
5〜15分 |
30分 |
24時間 |
ベースライン |
| オキシコドン |
オキシコンチン |
錠(5)(20) |
40分 |
2.5時間 |
12時間 |
ベースライン |
| オキノーム |
散(5) |
15分 |
1時間 |
6時間 |
レスキュー |
| フェンタニル |
デュロテップMTパッチ |
貼付剤(2.1)(4.2)(8.4)(#16.8) |
1〜2時間 |
42時間 |
72時間 |
ベースライン |
(院);院内製剤、 #;随時薬
|
モルヒネ |
オキシコドン |
フェンタニル |
| 腎障害の影響 |
+++ |
± |
− |
| 嘔気・嘔吐 |
++ |
+ |
± |
| 便秘 |
++ |
++ |
± |
| 眠気 |
++ |
+ |
± |
| せん妄 |
++ |
+ |
± |
| 呼吸抑制 |
++ |
+ |
± |
オキシコンチン錠
□オピオイドの第一選択薬
□ベースライン用鎮痛薬として使われるが、レスキューにはオキノーム散を使用する
□経口モルヒネとオキシコンチンの換算は、モルヒネ:オキシコンチン=3:2です。経口モルヒネ60mg=オキシコンチン40mgです
□低用量製剤(5mg)があり中等度の癌性疼痛から使える。用量を調節しやすい。
□精神症状の副作用が少ない
□吐き気、便秘などの副作用には予防的に対処する
□腎不全にも使用しやすい
□pHの影響を受けにくい溶出性
デュロテップMTパッチ
□低用量での調節が困難
□規格量より低用量で使用する場合は、貼付面積で調節します
(半面貼付→1/2量への減量方法)
MTパッチの上面にパッチが2等分になるように線を引く。サージット(小)を皮膚に貼付し、パッチの半分がサージットの上に、半分が直接つくように貼付する
注)フランドルテープやホクナリンテープのようにハサミで切ることはダメ
□安定した鎮痛効果発現までに時間がかかるために、デュロテップパッチで開始することはない
□精神症状、便秘などの副作用が少ない
□制吐剤や下剤の予防的投与は”不要”
□腎不全にも使用しやすい
フェンタネスト注
□術後疼痛と癌性疼痛で投与量の設定が違うので注意!
□腎機能低下の症例に対し、モルヒネ注からフェンタネスト注へ変更されることがある。また、肝機能低下例に対してはモルヒネ注を選択する。
□以下は覚えておくと便利!
モルヒネ注(10mg/A)1アンプル=フェンタネスト注(0.1mg/A)2アンプル
フェンタニル注(0.1mg/A)6アンプル≒デュロテップMTパッチ(4.2mg)1枚 |
オピオイド製剤選択のアルゴリズム
・異なるオピオイド製剤にスイッチする時の用量設定
・同じ成分の剤形変更の際の用量設定
|
ブプレノルフィン |
モルヒネ |
オキシコドン |
フェンタニル |
|
レペタン坐薬
レペタン注 |
MSコンチン錠 |
オキシコンチン錠 |
デュロテップMTパッチ
フェンタニル注 |
| 経口 |
− |
60mg |
40mg |
− |
| 坐薬 |
0.8mg |
40mg |
− |
− |
| 持続皮下 |
0.6mg |
30mg |
− |
600μg |
| 持続静注 |
0.4mg |
20mg |
− |
600μg |
| 貼付 |
− |
− |
− |
4.2mg/3日 |
レスキュードーズ
経口投与の場合1日量の1/6、持続皮下・静注の場合は1時間の投与量をレスキュードーズに設定します
副作用への対応
以下の3大副作用については投与開始前に患者に説明し、また嘔気・嘔吐に対しては制吐剤を、便秘に対しては下剤を予防的に投与します。
|
頻度 |
投与量との相関 |
耐性の有無 |
| 眠気 |
20% |
あり |
あり |
| 嘔気・嘔吐 |
30% |
あり |
あり |
| 便秘 |
95% |
あり |
なし |
□制吐剤
|
薬 剤 |
備 考 |
| 基本薬 |
ノバミン(5) 3T 3X
未承認:セレネース(0.75) |
中枢性制吐薬が第一選択。
CTZのD2-Rを遮断することにより作用を発揮する |
| 食事時間や食後の嘔吐 |
プリンペラン(5) 3T 3Xv.d.E
ナウゼリン(10) 3T 3Xv.d.E |
末梢性制吐薬
CTZのD2-R遮断作用のみならず、胃のD2-R遮断作用により胃の運動を促進し制吐作用を発揮する |
| 体動時 |
レスタミン錠など |
抗ヒスタミン薬;体動時の嘔吐に効くことがある |
・吐気に対しては1〜2週間で耐性ができるため、
・オピオイドによる吐気はセロトニンが原因ではないため、5-HT3拮抗薬は奏効しない
□便秘に対して
| 薬 剤 |
備 考 |
| プルゼニド |
・モルヒネによる便秘はかなり頑固なので、作用の強い大腸刺激性下剤を使う
・増量をためらう必要はない。10錠でも排便されない例もある。 |
| ラキソベロン液 |
・プルゼニドより細かな投与量の調節が可能 |
| 酸化マグネシウム |
・モルヒネによる便秘は頑固なので、作用のマイルドな本剤は、あくまで大腸刺激性下剤の補助的位置づけ。 |
さいごに・・・弱オピオイドと強オピオイドの併用の可否についても、よく看護師から質問を受けます。別の機会にまとめて説明します。非常に理解がしやすい領域ですので、1冊本を見つけて自分で勉強してみることをお勧めします。
作成日 2009年9月14日