腎細胞癌の薬物療法 >分子標的治療薬の比較


Staging・・・UICC-TMN分類,およびRobson分類が用いられている

転移のない症例に対しては手術(腎摘)が標準治療である。腎癌の治療で手術は唯一の根治的治療方法である。腎がんでは遠隔転移がある場合でも可能ならば腎摘する。

転移性腎癌では薬物療法が考慮される。




■腎細胞癌に対する分子標的治療薬
 スーテント,ネクサバールに続いて2010年1月、アフィニトールが国内で承認されました。このあともTemsirolimus(mTOR阻害薬);製造販売承認申請中Pazopanib(マルチキナーゼ阻害薬);国内治験中,axitinib(VEGF受容体1,2,3阻害薬);国内治験中 と開発が進んでいます。なお、海外で使用されているbevacizumab(商品名:Avastin)は腎細胞癌に対する国内治験は行われていません ,

・ 数々の分子標的治療薬の開発・市販されるなか,約20年にわたって標準治療であったサイトカインは第一選択薬ではなくなりました。スーテント、ネクサバール、アフィニトールといった分子標的治療薬にサイトカインを加え、臨床での選択順序について整理したいと思う。

スーテント
カプセル
ネクサバール錠 アフィニトール錠 未定
スニチニブ スラフェニブ エベロリムス テムシロリムス
2008年承認 2008年承認 2010年1月承認 承認申請中
マルチキナーゼ阻害薬 マルチキナーゼ阻害薬 mTOR阻害薬 mTOR阻害薬
第一選択薬 Cytokine-refractoryの患者に対する第二選択薬 スニチニブ又はソラフェニブの後に使う 海外で行われた
未治療の進行性腎細胞癌患者に対し
INFαを対照として
OSの改善が確認されている。


①スニチニブ
<薬剤選択順序の序列>
・海外では無治療の転移性腎細胞癌患者において スニチニブvs.IFNα の第Ⅲ相試験が行なわれました。その結果,従来の標準的治療薬であるIFN-αに比べてOSを有意に改善することがすでに示されています。


・これを受けて既に日本でも
Cytokine-
Naïveの患者に対して第1選択薬として使用されるようになっています。現在国内で開発中のpazopanibの第Ⅲ相試験では,プライマリーエンドポイントをPFSにして,スニチニブをコントロールとして挑むHead to headの試験が組まれているほどです。
http://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2010/2010_03_18.html

2010年3月にはファイザー株式会社から、国内第Ⅱ相試験の最終解析結果として日本人のOSのデータが初めて発表されました。PⅡなので,OSは二次エンドポイントOSで評価されています。なお、登録患者は未治療群25例(ファーストライン治療)、既治療群26例の計51例でした。

<副作用>
分子標的薬だが,副作用が非常に強く出ます。
骨髄抑制40%以上のほか,心機能低下が10%前後,甲状腺機能低下が16%で見られており,follow upが必要です。

心機能のf/u >>心エコーあるいはMUGAによる左室駆出分画(LVEF)
心不全、左室駆出率低下があらわれることがあるので、以下の点に注意すること。(1) 本剤の投与開始前に心疾患のリスクについて、左室駆出率の測定等により確認すること。心疾患のリスクのある患者に本剤を投与する場合には、うっ血性心不全の徴候及び症状について綿密な観察を行うこと。
(2) 左室駆出率の低下が認められた症例の多くは、第2コースまでに発現が認められていることから、投与初期から経胸壁心エコー図検査等の心機能検査を適宜行うこと。
(3) 心不全の症状が認められる場合は、投与を中止すること。また、左室駆出率が50%未満でかつベースラインから20%を超えて低下している患者では、休薬又は減量すること。[スーテント添付文書より]

甲状腺機能のf/u
甲状腺機能障害(低下症又は亢進症)があらわれることがあるので、本剤の投与開始前に甲状腺機能の検査を行い、甲状腺機能障害を有する患者には投与開始前に適切な処置を行うこと。また、本剤投与中に甲状腺機能障害を示唆する症状が認められた場合は、甲状腺機能の検査を行うこと。なお、まれに甲状腺機能亢進に引き続き、甲状腺機能低下を認める症例が報告されているので、十分な観察を行い、適切な処置を行うこと。[スーテント添付文書より]
ある臨床試験での一例)TSH, Total T3 もしくはFree T3, およびFreeT4。ベースライン時,2~3週ごとに3回,その後8週毎ごとに実施。

<相互作用>
本剤はCYP3A4によって代謝されるため、併用するCYP3A4阻害剤あるいは誘導剤については可能な限り他の類薬に変更する、又は当該薬剤を休薬する等を考慮し、CYP3A4に影響を及ぼす薬剤との併用は可能な限り避けること。[スーテント添付文書より]

(参考)当院における「スーテント(スニチニブ)併用注意チェックシステム」について


②ソラフェニブ

<薬剤選択順序の序列>
サイトカイン抵抗性腎細胞癌を対象とした第Ⅲ相試験(TARGET)が行なわれ,ソラフェニブがプラセボに対し有意にPFS延長すると報告され,サイトカイン治療後の,いわゆるCytokine-refractoryの患者に対する第二選択薬として臨床使用されています。アキシチニブの転移性腎細胞癌に対する“二次治療”の患者を対象とした治験では,ソラフェニブをコントロールとして採用しています。


③サイトカイン
(1)IFNα:スミフェロン,オーアイエフ

(2)IL-2:#イムネース 参考)#セロイクには腎癌の適応なし>血管肉腫
欧米,特に北米では高用量IL-2が long-duration CRを得られるため標準的治療となっているが,日本では低用量のIL-2しか承認されていない。
(3)IFNαとIL-2の併用
・・・副作用が強く出たことがあって、当院ではサイトカイン同士の併用療法を実施していない

サイトカイン療法が選択される患者とは?
Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC)分類
進行性腎癌の治療効果と予後を推察する上で重要なリスクグループの分類には、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC)のMotzer氏らが提唱するMSKCC分類が用いられる場合が多い。各リスクグループの間には、生存期間に有意差があると報告している。以下の5つの予後因子を基本に分類する。
     ECOG PSが1以上
     初回診断から転移の検出までの期間が12ヶ月未満
     LDHが正常上限値の1.5倍以上
    補正Ca値が10mg/dL以上
     Hb値が正常下限値以下

5つの因子の中に該当するものがなければFavorable risk group
1~2個が該当すればIntermediate risk group
3個以上該当すればPoor risk groupとし、予後不良ということになる。

■日本人では、転移性腎細胞癌に対するサイトカイン療法の治療成績が、海外より良好であると言われています。

日本人ではFavorite risk groupであれば比較的長期の予後が期待できます。肺転移のみの症例ではサイトカイン療法により長期のCRが得られた症例が少なからず存在することから、まずはサイトカインでじっくり治療していくという考え方もあってしかるべきと考えられています。

ただし、肝転移や膵転移の症例には、サイトカイン療法の効果は経験上ほぼ期待できないそうです。サイトカイン療法で治療中に病態が急に進行してしまい、治療の機会を失う可能性もあるため、分子標的治療薬をファーストラインで使用します。

平たく言うと、少数例だが効く患者には効くというのがサイトカイン療法です。作用機序からわかるように分子標的治療薬では完全奏効(CR)例がほとんど認められない。しかし、サイトカイン療法は奏効率では分子標的薬に劣るものの、肺転移に対して3-5%程度の症例にCRが認められます。有効性の「バイオマーカー」の探索が進み、サイトカイン療法の対象となる患者を適切にセレクトできるようになることが期待されています。

④アフィニトール
最後に使う薬。同じ成分で免疫抑制剤として使われているサーティカインとアフィニトールでは成分量が異なっている。アフィニトールで過度の免疫抑制効果が出ないのは、投与量の増量に対し免疫抑制効果が頭打ちになるからと考えられているらしい。






今後の勉強の方向性。論点の整理。

 ・ 分子標的薬の選択順序の序列化
 ・ 分子標的薬同士の併用、 サイトカインと分子標的薬との併用
 ・ 副作用プロファイルの違い

 ・ テーラーメード医療に向けたバイオマーカーの探索

<その他>
使用している医師によれば,副作用が多いほど効く印象があるらしい。有効性の「バイオマーカー」の探索が,既に治験の段階から始まっています。2010年ASCOには転移性腎細胞癌でスニチニブを投与し高血圧を発症した患者の臨床転帰は、高血圧を発症しなかった患者と比べて有意に改善され、高血圧が抗腫瘍活性のバイオマーカーとなる可能性がレトロスペクティブな解析から示されました。http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/sp/asco_gu2010/201003/514483.html

完全な治癒が望めない転移性腎細胞癌の治療においては,cytotoxicではない分子標的治療薬によるSD(安定状態)を保つことも治療意義があると考えられます。

■術後化学療法療法  有用性を示すエビデンスはない。臨床試験は行なわれているらしい。


作成日 2007年12月2日
改定日 2010年6月2日

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