K製剤の使い分け
追)鑑査のポイントほか


通常、セットオーダーされる電解質は、Na,Kである。Cl、Ca、P、Mgは必要時に別オーダーしないと測定されない。これら電解質の中で、最もデリケートに監査する必要があるのがKである。
まず、これから話す内容の小タイトルを列挙します。話の内容が頭に浮かんでくるでしょうか?


■ 血清K値の正常値
■ Kの体内分布、1日あたりのK摂取量

 K製剤の分類
■K製剤の使い分け
■ 投与量の算出方法
経静脈投与する際の鑑査ポイント
■ 高度低K血症におけるK製剤投与の注意点
■ アクシデント事例と対策

■ K血症を起こす薬剤
■ 高度低K血症による緊急事態の具体例
■ K製剤(経口)の大量投与の事例>バーター症候群


血清K値の正常値 
     
3.5〜4.5mEq/L

軽度   3.0 ≦K< 3.5mEq/L 
中程度  2.0 ≦K< 3.0mEq/L
高度    K < 2.0mEq/L
※臨床検査値の値だけではなく、症状の有無・心電図異常なども考慮して、治療の緊急性を総合的に判断する
※※患者から何か症状を訴えられたとき、低K血症を疑うことのできる力が必要。そのためには低K血症の症状について一度整理しておくこと。








■Kの体内分布、1日あたりの摂取量



・体内総K量のうち98%が細胞内に存在し、2%が細胞外に存在する。このように血清K量はごくわずかであり、この僅か2%のKを窓口にして、細胞内Kを含めたK補給を行うのである。非常にデリケートな行為だ。血清K濃度が急激に変動すれば心停止などの副作用につながる。



K製剤の分類 (注射、経口)
K製剤の違い=Kとくっついているパートナーの違い
、である。
無機カリウムと有機酸カリウムの2つに大別する。

分類 商品名 成分名
無機カリウム
=塩化カリウム
スローケー錠
1錠中=K8mEq
塩化カリウム 徐放錠かつ吸湿性の為、粉砕不可
KCL注キット
1キット中(20mL)=K40mEq
必ず薄めて投与
有機酸カリウム グルコンサンK細粒
1g=K4mEq
グルコン散カリウム 脳神経外科で経管でよく処方されるが、理由はスローケーが粉砕不可のためか?
アスパラカリウム錠
1錠中=K1.8mEq
アスパラギン酸カリウム
アスパラギン酸カリウム注キット
1キット中(10mL)=K10mEq
アスパラギン酸カリウム
リン酸2カリウム注キット
1キット中(20mL)=K10mEq
リン酸二カリウム 1キット中(20mL)=HPO2-20mEq
有機酸カリウム・マグネシウム配合剤 アスパラ注(削除品目)
1A中(10mL)=K2.92mEq・Mg3.47mEq
アスパラギン酸カリウム・マグネシウム K・Mg塩の等量配合剤。Kフリーではない!
注1)K製剤の急速静注による医療事故が後を絶たないことから、数年前に静脈・側管への投与ができないように針を太くしたキット製剤にすべて切り替えられた。
注2)スローケーとアスパラKは、K含有量が4倍以上違う。
注3)KCL注やアスパラギン酸カリウム注には
「リボフラビン」が添加されていて、輸液が均一に混合されているか視覚的に確認できるように工夫されている。

低Mg血症があると、Kを補充しても難治性になるらしい・・・。


■K製剤の使い分け
point1 原則は経口投与
 K>2〜2.5mEq/L以上で、症状や心電図変化のない場合、血清K濃度の変動が緩やかな経口剤を選択する。

point2 原則は塩化カリウム製剤を選択する。合併症に合わせてK製剤を選択する。

 
 基本は塩化カリウムを投与していれば大きな問題にはならない。
だからアスパラギン酸カリウム注やリン酸2カリウム注、経口剤ではグルコンサンK細粒が処方されたときに、なぜKCL製剤が選択されなかったのか病棟で知識と経験を積んでいくことが、一番効率のいい学習方法である。

合併症 選択すべきK製剤
・大部分の低K血症、特にクロル感受性代謝性アルカローシス 無機カリウム
・細胞内K欠乏(飢餓・DM)
・代謝性アシドーシス
有機酸カリウム

(補足1)リン酸2カリウム注を処方する例
あまり処方されないリン酸2カリウム注だが(注射用K製剤全体の5%未満であると思われる)、リン酸2カリウム注が処方されるのはどのようなときだろうか?
>虎ノ門病院の実例
『糖尿病患者の緊急入院時や透析を行っている患者へ使用する場合がある。重度の高血糖の場合、生食500mLにインスリンを入れて血糖値の正常化を図るが、このとき低リン血症を生じる場合があり、補正用リン酸二カリウム注を使用することがある。。また、透析では過度の除去があった場合に電解質の補正を行う必要がある。』とのこと。
とにかく「Kだけではなく、リン酸の補給も必要な病態」と理解すればいいだろう。


■投与量の算出方
一般的に血清K濃度が0.5mEq/L低下したら欠乏量は100mEq、
さらに0.5mEq/Lずつ低下した場合に200mEq、400mEqと2倍、4倍に減少していると言われている。
K製剤の投与にあたっては予想欠乏量に
「安全係数」として1/5〜1/10を乗じて計算し、投与量=1日の維持量+欠乏量を加える。


■ 経静脈投与する際の鑑査ポイント


急速あるいは高濃度のK負荷を行った場合の@循環器系に及ぼす影響およびA組織刺激性を考慮して決まっている。

@ 濃度      40mEq/L以下
A 投与速度    20mEq/hr以下
B 投与量上限  100mEq/day 
C 尿量      0.5mL/kg/hr以上を確保
D 副腎機能不全、抗アルドステロン剤投与時は、急激なK上昇に注意  
   
>>>@ABは処方箋で、CDは病棟でカルテなどからチェックする。

K製剤を末梢から投与すると高率に静脈炎を引き起こす恐れがある。20mEq/L
以下で投与したい。40mEq/L以上のときには経中心静脈投与を検討する。


高度低K血症におけるK製剤投与の注意点
・ ブドウ糖液と一緒にKを投与してはならない。
【理由】ブドウ糖を含んだ製剤はインスリン分泌を刺激し、カリウムを細胞内に移行させることにより、低K血症を悪化させる恐れがある。例えばソルアセトDよりFのほうが理屈的にはよいということである。
・ 
低K血症は酸塩基平衡の異常を伴うことが多い。アシドーシスを合併している場合は、K補充を行ってからアシドーシス治療を行う。
【理由】
アルカリを入れるとKが細胞内にシフトしてしまうから



■アクシデント事例と対策
【事例1】
 医師は血清K値3.3のため、現在投与中のソルデム3Aの残400mLにKCL2本(40mEq)を混注し、12時間で投与する指示を出した。看護師は滴下中のソルデム3AにKCLを混注し、バックの下方を5〜6回揉むようにしてKCLの色調が均等になるように混合した。
 投与20分後、患者は血管痛を強く訴え、50分後、呼名反応が消失し呼吸抑制を認めた。この時、点滴の下層部の色調は黄色が濃い状態であった。数秒後、大声の呼びかけで開眼し、発語がみられた。その後バイタルサイン、神経学的所見に問題はなかった。
(フィクション)

【対策】
@経静脈投与より経口投与を優先すべきであった
A濃度は40mEq/L以下にすべきであった
B投与速度OK、投与上限OK
C十分に混和すべきであった

【対策2】
塩化カルシウムを投与するように指示を受けた看護師が、誤って塩化カリウムを投与し、心停止になった。
(新聞報道)
【対策】
名称が似ている薬剤があるときは、注意する。


■低K血症を起こす薬剤
ポケット医薬品集で確認してください。
・・・血液内科でK投与が頻繁に行われる理由は@低K血症を起こす薬剤の使用頻度が高い(例:大量ステロイド、インスリン、アンホテリシンBなど)、A造血器腫瘍のような細胞増殖によりKの需要が増える、ことが原因か?

■K製剤(経口)の大量投与の事例>バーター症候群
疾患名くらいは覚えておこう。過去に経験した実例処方を示す。いずれも外来処方である。
・25歳 男性
   スローケー      18T
   3X毎食後   14日分

・25歳 女性
   スローケー      24T
   3X毎食後   14日分


作成日 2010年5月19日.

同種同効薬20

index
TOP PAGE