PPIの使い分け
当院で採用されているPPIを以下にまとめた。国内で承認されているのもこの3成分である。
ズバリ、PPIの使い分けの肝は、
です。
商品名 |
成分 |
規格 |
代謝 |
粉砕の可否 |
タケプロン |
ランソ
プラゾール |
OD錠 15mg、30mg
注 30mg |
CYP2C19、CYP3A4 |
粉砕可・・・タケプロンのみが経管投与に対応できる!
注射:前後フラッシュ? |
パリエット |
ラベ
プラゾール |
錠 10mg |
主に非酵素的還元反応 |
粉砕不可 |
オメプラゾン
オメプラ−ル |
オメ
プラゾール |
錠 10mg
錠 20mg、 注 20mg |
CYP2C19>CYP3A4 |
粉砕不可
錠:粉砕不可。注射:前後フラッシュ? |
胃潰瘍には8週間、十二指腸潰瘍には6週間の投与制限があり、逆流性食道炎の維持療法では長期投与が認められている。当院の処方せんでは、全てのPPIの薬名のあとに「8週間迄」と表示されるようになっているが、適切な記載でないように思える。
■タケプロンのみが、緩和に粉砕することで粉砕可能となり、経管投与に対応できる
3成分とも酸性で不安定な物質であるため、腸溶性製剤となっています。タケプロンは腸溶性細粒を含む口腔内崩壊錠で、
乳鉢内で軽く叩くように粉砕した場合や粉砕機で低速回転で粉砕すると、コーティングが維持され、粉砕可能となることが九州大学病院のデータから明らかになりました。。しかし、乳鉢を使って通常粉砕するようにすり潰すと腸陽性被膜がはがれてしまい、また粉砕機を使って高速回転するとやはりコーティングがはがれてしまいます。
※吉田実,伊藤美代,末安正典,伊藤善規,吉川学,大石了三:ランソプラゾール口腔内崩壊錠の粉砕調剤の検討.日本病院薬剤師会雑誌
41: 303-306, 2005[日本病院薬剤師会学術奨励賞受賞]http://www.pharm.med.kyushu-u.ac.jp/hp/Work/work_02.html
なお、
腸溶性製剤ですから簡易懸濁法は不適です。
■CYP2C19には遺伝子多型が存在するため、その代謝速度には個人差があります。一般に代謝速度の違いから、[1]代謝の早いhomo-extensive
metabolizer(homo-EM)、[2]中間のhetero-EM、[3]代謝の遅いpoor metabolizer(PM)──の3つに分類されます。日本人221人について調査したある報告によると、homo-EMが36.7%、hetro-EMが48.4%、PMが14.9%だったとされています。
つまり、特にオメプラゾールの血中濃度は、遺伝子の型によって大きく影響を受け、治療効果にも影響します。このことは各種の研究でも明らかになっています。具体的には、日本人の3分の1強を占めるhomo-EMの人は通常量のオメプラゾールでは治療効果が十分に得られない可能性があり、逆に日本人の15%ほどを占めるPMの人には投与量が多すぎる場合があるということになります。
また、PMの人に関しては、オメプラゾールもランソプラゾールもCYP2C19以外の代謝経路、すなわちCYP3A4による代謝の影響がクローズアップされることになります。
■薬物相互作用
事例1)プラビックス
プラビックスはプロドラッグです.
プラビックスは、CYP2C19とCYP3A4による2段階の代謝を受けて活性体になります。CYP2C19は、その活性が消失する*2(スターツー)および*3(スタースリー)という一塩基多型(SNP=「スニップ」と読む)が存在し、アジア人に高頻度に変異があることが知られています。つまり日本人では、遺伝的なCYP2C19活性低下症例の頻度が多く、そのような症例では、プラビックスが代謝活性化されないことにより効果が減弱する可能性が考えられます。
低用量アスピリンでも消化性潰瘍のリスクがあり、その予防にPPIが有効であり適応を取得しています。実際、処方もバンバン出ます。ステント血栓症の予防のためにアスピリンとプラビックスを併用し、アスピリンの副作用予防のためにPPIを併用したとしましょう。
オメプラゾールとランソプラゾールに関しては、その主たる代謝酵素はCYP2C19で、そのため、クロピドグレルと併用した場合、CYP2C19を競合的に取り合うことになります。そうなればオメプラゾールやランソプラゾールの効果は、分解が遅くなるため増強されることが予想されます。一方、クロピドグレルの効果は、減弱する可能性があります。
事例2)ワーファリン
ランソプラゾールとオメプラゾールはCYP2C19で代謝されるため、ワーファリンを使用している患者にはラベプラゾールが適している。
しかし、INRなどを測定しながら調節する場合は、ランソプラゾールとオメプラゾールでもよい。
その他の事例)CYP2C19で代謝される薬剤;プログラフ、セルシン
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PPIの適応拡大が行われ、さまざまな場面で使われています。
薬剤毎に若干の適応の違いはありますが、ザックリまとめてみました。
・ 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
・ H.pyloriの除菌
・ 逆流性食道炎(GERD)・・・10年位前に適応外使用されていたが、いまや適応をとって第一選択薬
・ 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
・ 潰瘍予防を目的とした低用量アスピリンとの併用 |
作成日 2011年4月16日