肺動脈性肺血圧症(PAH)に対する治療薬のまとめ

肺動脈性肺高血圧症(PAH)は生命予後が極めて不良の難病です。
NYHA心機能分類を肺高血圧症に適応したものをWHO心機能分類とよびます。全生存期間中央値はWHO機能分類クラスT又はUの患者で4.9年、クラスVで2.6年、クラスWで6ヶ月と報告されています。

PAHは
・特発性PAH
・家族性PAH
・膠原病に伴うPAH
・先天性心疾患に伴うPAH
などに分類できます。
リウマチ内科の外来処方でベラサスLAが処方されているのを散見しますが、これは膠原病を伴ったPAHをリウマチ内科で診療しているからです。その他のPAHは循環器内科でフォローされることが多いです。
治療効果の評価のために行われる半年あるいは1年後の右心カテーテルも、PAHを診療するリウマチ内科の医師が行うようです。

PAHの臨床経過は肺動脈圧の上昇、肺血管抵抗の上昇により、右心室の負荷(右室肥大、拡張)をきたし、
最終的には右心不全に陥るという経過を辿ります。

PAHは発症がまれであり、軽症も含めた本邦でのPAHの患者数を正確に把握することは困難ですが、約9000人と推定されています。なお、当院の循環器内科の方針としてはPAHの患者を積極的に受け入れていくとのことで、患者は増えていくのかもしれません。

■PAH治療薬のまとめ

薬効分類
(作用機序)
商品名 成分名 WHO機能分類に基づく薬剤の選択
PGI2誘導体 プロサイリン錠 ベラプロストNa ・「重症度の高い患者等では効果が得られにくい場合がある。」(添付文書より)
・Cmaxを抑え高用量での投与を可能にしたベラサスLAに切り替わっていくと思われる
ベラサスLA錠 クラスUあるいはVでの使用が中心。日本で開発された製剤のためエビデンスが不足しておりガイドラインには載りにくいようだ。 ・「クラスIVの患者における有効性・安全性は確立していない。また、重症度の高い患者等では効果が得られにくい場合がある。」(添付文書より)
・中心静脈カテーテル留置や在宅での持続静注薬自己管理が必要
PGI2 フローラン注 エポプロステノール 作用の強さは最強。用量は青天井で使われるらしい。クラスV、Wでの使用
PDEX阻害薬 レバチオ錠 シルデナフィル クラスU、Vへの使用が中心。クラスWに対してはやや推奨〔C〕※となっている。 1日3回
アドシルカ錠 タダラフィル 1日1回
エンドセリン受容体拮抗薬 ボセンタン錠 トラクリア クラスU、Vへの使用が中心。クラスWに対しては中等度の推奨〔B〕※となっている。
・肝障害:肝機能検査を必ず投与前に行い、投与中においても少なくとも1ヶ月に1回実施。投与開始3ヶ月間は2週に1回の検査が望ましい。
・貧血:投与開始時及び投与開始後4ヶ月間は毎月、その後は3ヶ月に1回の頻度で血液検査を行う。
併用禁忌:ネオーラル、プログラフ、オイグルコン
・併用注意:ワーファリンなど

ヴォリブリス錠
(選択的エンドセリンA受容体拮抗薬)
アンブリセンタン 薬剤性の肝障害が起こりにくい
併用薬との相互作用が起こりにくい
1日1回投与が可能(トラクリアは1日2回)
※2007米国胸部医学会(ACCP)ガイドラインに基づく。


■レバチオ投与で血圧が低下してめまい等を起こすことがあります。低血圧症をもともと認める患者では、半量から開始して血圧が安定したら常用量とする投与方法もあります。副作用は頭痛、吐き気、顔面紅潮、四肢温感、下痢などが出現することがあります。時間が経つと軽減することも多いため、しばらく我慢してみることを説明します。


■フローランが一般には最も効果が高いです。したがって重症例や進行が早い症例ではフローランが適応となります。しかし、フローランは中心静脈カテーテル留置や在宅での持続静注薬自己管理が必要であり、これらを施行できる患者が対象となります。


例)38歳でSLEと診断され経過観察されていたが、約3ヶ月前より労作時の息切れを認めるようになり、坂道をあがっているときに失神を一度認めた。診察の結果、WHOU度、心エコーでPAHの合併と診断された。WBC2500、Plt70000である。
薬剤選択にいたる思考の流れ・・・レバチオあるいはトラクリアでは効果の点では大きな差はない。日本ではトラクリアの適応はV度、W度しか承認されていないため、保険上は使いにくい。なお、トラクリアのU度への適応拡大の治験が進行中である。トラクリアには血球減少という副作用があるため、SLEでもともと白血球と血小板の減少を認める当患ではレバチオを選択。


作成日 2010年9月14日

改訂日 2011年5月22日

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