骨粗鬆症治療薬の使い分け

・大腿骨頸部骨折をきたすと寝たきりになる可能性があり、また椎体骨骨折が多発したら円背になって呼吸機能低下や無気肺、腹圧上昇による便秘や胃食道逆流症などを生じうる。

・日本では「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2006年」(骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会 編集)に基づいて治療が行われている。

■骨代謝への作用からみた骨粗鬆症治療薬の分類
現在使われている薬は、骨が溶けるのを(=骨の吸収)抑える薬、骨を作るのを(=骨形成)助ける薬、その両方(=吸収と形成)すなわち骨代謝を調節する薬、の三つに大別できます。

[骨の吸収を抑える薬] [骨の形成を
助ける薬]
[吸収と形成を
調節する]

ビスフォスフォネート製剤
 骨量を明らかに増加させ、骨折を予防する

・SERM=エビスタ錠(成分:ラロキシフェン)、#ビビアント錠(成分:バゼドキシフェン)
 骨量を増加させ、骨折を予防する

女性ホルモン>エストロゲン=エストラーナテープ、ジュリナ錠、エストリール錠
 女性ホルモンの分泌が減る閉経期の女性が対象で、更年期症状を改善し骨量の減少を抑える

・カルシトニン製剤・・・エルシトニン注20S〔週1回筋注〕
 骨量の減少を抑え背中や腰の痛みをやわらげる

・オステン(成分:イプリフラボン)
 骨量の減少を抑える

・グラケーカプセル
・活性型ビタミンD3製剤
= アルファロールカプセル・−液、ワンアルファ錠、ロカルトロールカプセル

・カルシウム製剤

= アスパラCA錠



■患者背景から考えた骨粗鬆症治療薬の使い分け

患者背景
閉経後女性 ・第一選択はビスホスホネート、使えないときはSERM
閉経前女性 ・カルシウム、ビタミンDの補充は全員に行いビスホスホネートの使用は勧める一方、
妊娠の可能性を今後考慮する場合は安全性が確立されていないのでその使用を勧めない。
ステロイド性骨粗鬆症 ビスフォスフォネート製剤を第一選択、活性型ビタミンD3やビタミンK2を、ビスフォスフォネート製剤が使用できない場合の第二選択

・プレドニゾロン換算にて5mg/日、3ヶ月以上内服中または今後内服予定なら、骨粗鬆症の有無にかかわらずただちに投与対象として考える。注意すべきはステロイド使用早期より骨量減少が生じるため、可能な限り投与を早く開始すべき。

・日本骨代謝学会から「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン」参照(下図)
50歳以上男性 ・第一選択はビスホスホネート、SERMは適応なし。



  1. 対象は18歳以上で、経口ステロイドを3力月以上使用中あるいは使用予定の患者。
    既存脆弱性骨折あるいは治療中新規骨折ありの症例では、骨密度測定を行うまでもなく一般的指導と治療を行うようになっている。
  2. 骨折なしの場合は、骨密度測定を行って%YAM (若年成人平均値)が80%未満の場合、また、 %YAMが80%以上の症例でも、ステロイド使用量がプレドニゾロン換算で5mg/日以上の場合は、やはり一般的指導と治療を行うようになっている。
  3. 治療についてはエビデンスのある薬剤を明記し、エビデンスの確立されているビスフォスフォネート製剤を第一選択、活性型ビタミンD3やビタミンK2を、ビスフォスフォネート製剤が使用できない場合の第二選択という内容になっている。


■各薬剤の評価と推奨(グレード)
薬剤名 骨密度
(グレード)
椎体骨折
(グレード)
非椎体骨折
(グレード)
総合
評価
フォサマック錠(5mg) 
ボナロン錠(35mg)
(成分:アレンドロネート)

ベネット錠(2.5mg) 
アクトネル錠(17.5mg)
(成分:リセドロネート
増加効果(A) 防止する(A) 防止する(A) A
エビスタ錠
(成分:塩酸ラロキシフェン)
増加効果(A) 防止する(A) 防止するとの報告あり(B) A
活性型ビタミンD3製剤 わずかに増加効果(B) 防止するとの報告あり(B) 防止するとの報告あり(B) B
アスパラCA錠
(成分:L-アスパラギン酸カルシウム水和物)
わずかに増加効果(B) 防止しない(C) 防止しない(C) C
グラケーカプセル
(成分:ビタミンK2)
わずかに増加効果(B) 防止するとの報告あり(B) 防止するとの報告あり(B) B
オステン錠
(成分:イブリフラボン)
減少の防止効果あり(C) 報告がきわめて少ない(C) 報告がきわめて少ない(C) C
女性ホルモン製剤 増加効果(A) 防止する(A) 防止する(A) C(注)
エルシトニン注20S
(成分:エルカトニン)
わずかに増加効果(B) 防止するとの報告あり(B) 防止効果が期待される(C) B

Osteoporosis Jpn 2006;14:665‐8一部改変 引用
(注)上記のエビデンスは主として結合型エストロゲンに関する結果である。結合型エストロゲンに関しては世界的な総合評価はグレードBであるが,わが国では骨粗鬆症に対する保険適応がないため,他の女性ホルモン製剤(エストリオール,17βエストラジオール)が骨粗鬆症に対する総合評価の対象となる。しかし,これらの薬剤のエビデンスは極めて少ないため,結果として下記の総合評価となった。
※カルシトニン製剤:疼痛に関して『鎮痛作用を融資、疼痛を改善する(グレードA)』




□ビスホスホネートの3大注意事項

注意事項 理由
朝起きたらすぐ 何も食べたり飲んだりしていないときに、よく吸収されて十分な効果が得られるから。
コップ一杯の水(または白湯)で 水以外の飲料(お茶や牛乳など)でのむと、薬の吸収が十分ではなく、効果が弱くなるから。
また、薬を確実に胃に届けるためにも、お薬をかんだり、口の中で溶かしたりせず、コップ一杯の水(約180cc)または白湯でのむ。
※ミネラルウオーターで服用する際は、外国産や海洋深層水等の硬度の高いものは避ける
30分間は水以外の飲食はせず、
横にはならない
すぐに横になると、お薬が食道にとどまり粘膜に刺激を与える可能性があるから。


□ビスホスホネートの薬物相互作用

ビスホスホネートの用法は、基本的に「起床時」である。たまにであるがビスホスホネート“以外”の薬剤も「起床時」と入力する医師がいる。
添付文書 【用法・用量】には「他の薬剤の経口摂取も避けること」と明記されている。ビスホスホネートの吸収を抑制するおそれがあるからだ。
添付文書の「相互作用」>「併用注意」のところに「カルシウム、マグネシウム等の金属を含有する経口剤」としか書いていなく、金属を含有“しない”経口剤との相互作用の「有無」についての記載を見つけることができません。
また「程度」、つまり他の薬剤と同時服用した場合どのくらい吸収が低下するのか、についてはデータを見つけることはできませんでした。ビスホスホネートは極性が高く負に帯電した分子であることが相互作用のメカニズムであることを踏まえると、消化管内でプラスに帯電した分子が多い薬剤ほど、相互作用の程度が大きくなると推察できます。そしてその程度は薬剤毎に異なるため、全ての薬剤について「他の薬剤の経口摂取も避けること。」と一律的な表現で添付文書に記載されているのではないかと思います。薬剤自体に金属を含んでいなくとも、添加物に金属を含んでいることがあります。この添加物によってビスホスホネートの吸収が阻害されると考えられますが、データがないため今回のケースでは、程度に関する定量的な説明はできません。

□ビスホスホネート製剤の効果を十分に引き出すための条件
臨床現場でよく目にするのは、ビスホスホネートが単独で投与され、カルシウムやビタミンDの補充が行われていないことがある。ガイドラインで採用されたエビデンスは、カルシウムとビタミンDが充足された状態でのデータをもとにしていることを理解し、必要に応じこれらの補充をしながらビスホスホネートを使用したい。

□ビスホスホネート製剤は いつまでを飲まなくてはいけないのか?
現時点では、骨折リスクの高い閉経後女性は飲み続けたほうがいいとされるが、リスクが中等度以下の人ではアレンドロネートを5年続けてからその後5年中止しても骨折リスクは変わらない可能性があると報告されている。(エビデンスははっきりしていない)

□ビスホスホネート製剤の副作用 ・・・顎骨壊死
http://www.takedamed.com/content/health/rheumatism/pdf/bone_bisphos.pdf
を参照してください

□グラケーの投与が適した患者
血中ucOC(低カルボキシル化オステオカルシン)濃度が高値でビタミンK不足の認められる患者はよい処方対象である。血中ucOCは簡便な検査だそうだ。

□ビスホスホネート製剤の治療効果のモニターリング
ビスホスホネート製剤の治療効果はモニター可能。
吸収マーカーである血中あるいは尿中NTX(T型コラーゲン架橋N-telopeptide) または CTX(T型コラーゲン架橋C-telopeptide)を治療開始前と開始後3〜6ヶ月で測定し、その低下の有無を確認します。

作成日:2011年9月24日


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