前立腺がんの内分泌療法

内分泌療法 薬剤 主な作用機序
去勢 精巣摘出術
(除睾術)
テストステロン産生臓器の摘出
薬物的去勢
(LH-RHアゴニスト)
ゾラデックス3.6mgデポ
リュープリン 注射用1.88
    注射用キット3.75
    SR注射用キット11.25(随時)
下垂体LH-RH受容体のdown regulation
(テストステロン低下)
抗アンドロゲン剤 ステロイド性 プロスタール錠(25) アンドロゲン受容体との結合阻害
間脳へのnegative feedback作用
(テストステロン低下)
非ステロイド性 カスデックス錠(80)・ビカルタミド錠(80)
オダイン錠(125)
アンドロゲン受容体との結合阻害
エストロゲン剤 プロセキソール錠(0.5) 間脳へのnegative feedback作用
(テストステロン低下)
副腎皮質ステロイド プレドニン
デカドロン
副腎由来のアンドロゲンの抑制


前立腺がんは男性ホルモンの影響で病気が進むという特徴があります。男性ホルモンは主には精巣(95%)、一部は副腎(5%)からも分泌されます。男性ホルモンを遮断するとがんの勢いがなくなります。このことを利用した治療法が内分泌療法(ホルモン療法とも呼ばれています)。



■薬剤の選択順序
1st lineは去勢(精巣摘出術あるいはLH-RHアゴニスト投与)である。両者の効果はほぼ同等。

2nd lineは非ステロイド性の抗アンドロゲン剤の単剤治療
(ステロイド性の抗アンドロゲン剤の単剤治療は推奨されない)


LH-RHアゴニストは精巣からの男性ホルモンの分泌を抑制しますが、男性ホルモンは副腎からも分泌されるので、LH-RHアゴニストだけで完全に男性ホルモンを抑制することはできません。そこで前立腺細胞内での男性ホルモンの働きを遮断する抗男性ホルモン剤を合わせて使うことで、がん細胞の増殖を最大限に抑え込もうとするのが、MAB(maximum androgen blockade=男性ホルモン完全抑制療法)と呼ばれる治療法です。


■リュープリン、ゾラデックスによるフレアアップとその対策
LH-RHアゴニスト使用においては,投与初期に起こる一過性のテストステロン値上昇に伴うフレアアップ現象による尿路閉塞,転移巣に由来する骨痛,脊髄圧迫などが懸念される場合は抗アンドロゲン剤の併用を考慮すべきとされています。
フレアアップ現象を伴わない薬(LH-RHアンタゴニスト)もアメリカでは承認されていますが、我国では開発段階であり、まだ使われておりません。


■抗アンドロゲン剤の使い分け
処方頻度はカソデックス・ビカルタミドで95%以上を占めます。
カソデックス・ビカルタミド、及びオダインは男性ホルモンの分泌自体を抑制するわけではないので、性機能障害は起こりにくいです。

薬剤名(規格)
〔成分名〕
用法・用量 副作用
ステロイド性 プロスタール錠(25)
〔クロルマジノン〕
前立腺肥大症
クロルマジノン酢酸エステルとして,1 回25mg( 1 錠)を1日2回食後に経口投与する.

前立腺癌
クロルマジノン酢酸エステルとして,1 回50mg(2錠)を1日2回食後に経口投与する.なお,症状により適宜増減する.
男性ホルモンの分泌を抑えるため、性機能障害や乳房の膨大が起こることがあり、高脂血症や糖尿病が進行する場合もある。
ステロイド性
カスデックス錠(80)
ビカルタミド錠(80)
〔ビカルタミド〕
1回1錠 1日1回
オダイン錠(125)
〔フルタミド〕
1回1錠を1日3回、食後に経口投与する。なお、症状により適宜増減する。 定期的(少なくとも1ヶ月に1回)に肝機能検査を行うなど、患者の状態を十分観察する


■エストロゲン剤
前立腺がんに対して男性ホルモンの作用を中和する働きを持つ女性ホルモンを投与することがあります。しかし治療が長びくと人によっては胸が膨らんだり、肝障害、血栓症など重い副作用が現れることがあり、その使用は限られています。


■DP療法 (ドセタキセル+プレドニン)
内分泌療法は非常に有効で全体の90数パーセントの人に効きます。がんを死滅させることはできないのですが、休眠状態に追い込むことができます。しかし早ければ数カ月、遅ければ10年くらいで効力を失ってしまいます。

2008年8月、ホルモン療法抵抗性の再燃前立腺癌治療薬としてドセタキセルが承認されました。外科的又は内科的去勢術を行い、進行又は再発が確認された患者が対象となります。このときに併用するのがプレドニンです(DP療法)。
DTX 75mg/m2 点滴静注 3週ごと
PSL 10mg 分2 連日内服


(おまけ)
女性ホルモン(エストラジオール)と抗がん剤(ナイトロジェンマスタード)を合わせたエストロゲン製剤のエストラサイトも前立腺がんに有効ですが、心血管障害やむくみ、女性化乳房などの副作用が強いため、現在ではあまり使われなくなりました。他の薬剤の効果がみられなくなったときや副作用対策の選択肢の1つとして考慮されます。
エストラサイト投与時には、血栓症予防のためワーファリン1-2mgを必ず経口投与すると書かれた本があります(がん診療レジデントマニュアル 第4版)


作成日 2011年11月1日
延命が可能になった再燃前立腺がんの薬物療法:がんサポート情報センター

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