【注射薬】 頓用のセット処方 >術後せん妄

注射処方せんをみると、様々な診療科から以下のようなセット処方が頻用で処方されています。

Rp
)【頓用】

セレネース注(5MG/1ML) 0.5A
サイレーズ注(2MG/1ML) 0.5A
生理食塩液TN/100ML   1
  不眠時、不穏時  点滴静注
  入眠止め
  呼吸抑制注意

術後のせん妄に対し抗精神病薬のセレネースを使い、ベンゾジアゼピン系薬剤であるサイレースを加えることにより、より速やかで強い鎮静作用を期待した処方と思います。
せん妄の種類はいろいろありますが主なものは次のようなものです。

夜間せん妄

脳血管障害や血管性認知症、アルツハイマー病などで、昼間は症状がなく夕方から夜にかけてせん妄が出現することがあります。

術後せん妄

手術のあとしばらくしてから、急にしゃべりだしたり、動き回ってベッドから
降りようとしたり点滴を抜いたりすることがあります。

アルコールせん妄

アルコール依存症の人が病気などで急に断酒した後、2-3日して激しい興奮状態になることがあります。

薬剤性せん妄

お薬によっては飲み始めてから精神状態が不安定になることがあります。
「ポケット医薬品集」にせん妄を起こす薬剤をまとめてあります


せん妄とは認知機能の障害(最近の記憶の障害と失見当識 たとえば「私はだれ? ここはどこ?」)です。術後せん妄は手術が直接的な原因ではありますが、その出現には様々な要因が関与しています(図1)。


手術の後いったん平静になった患者さんが1〜3日たってから、急激に錯乱、幻覚、妄想状態をおこし、1週間前後続いて次第に落ち着いていくという特異な経過をとります。
高齢の方に起こりやすく、術後の回復期に起こるため、術後の看護、ケアーの妨げになります。一度発症すると、生命維持に重要な管を抜いてしまう、夜間大声を上げて暴れるなど、看護スタッフによるケアーが困難になり、周囲の患者さんにも迷惑がかかります。さらに転倒・転落の危険も増大し、術後の大きな問題となってきます。

せん妄を呈する場合、基礎にある身体疾患の治療が第一です。
2008年時点でせん妄に対する保険適応のある薬剤はグラマリールのみでありますが、「脳梗塞後遺症に伴う」という制限つきです。実際の臨床では抗精神病薬を使用しており、セレネースが第一選択であります。
その理由としては、静注投与が可能であり、抗コリン作用がないこと(抗コリン作用はせん妄を悪化させる)、過度の鎮静や低血圧を引き起こしにくいなどが挙げられます。せん妄に対する第二世代抗精神病薬の有用性については、現在検討が行われています。

術後せん妄の治療に関しては抗精神病薬や睡眠薬などを的確に使用しつつ、1週間程度をしのげば落ち着いてくるのが普通です。
もちろん、セレネースが単独で処方されることも多いです。

セレネースを注射で使用するときには、心電図観察が不可欠であると本に書いてありました。QTc間隔が450msec以上、もしくは元来より25%以上延長した場合には、抗精神病薬の減量、中止を考慮するのだそうです。しかし、リスクの低い患者も含めてすべての患者に心電図を取っているわけではないように思います。

サイレースはBZP系薬剤で、特に急速に投与すると呼吸抑制の副作用がでやすくなります。添付文書では「できるだけ緩徐に(1分以上かけて)静脈内に注射する。」と明記されています。老人や呼吸不全、循環不全などに陥っている患者ではリスクは一層高くなります。
〔補足〕急性薬物中毒の治療に使用する拮抗薬
ベンゾジアゼピン系薬剤 ー アネキセート注 
麻薬 ー ナロキソン注
アセトアミノフェン − アセチルシステン内用液
ワーファリン − ケーワン、ケイツー


作成日 2009.3.16

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