Ca拮抗薬同士の併用を考える

同じ作用機序をもつ薬剤の併用は、基本的にあまり意味がありません。
処方が出たとき疑義照会するか?それともそのまま調剤するか?悩ましい問題です。特に病院などで働くようになって1,2年すると誰もがぶち当たる問題です。
心の整理がつくまでさらに数年単位の経験が必要ですが、日々処方を見ていると、併用されない組み合わせと、そこそこの頻度で併用される組み合わせがわかるようになります。前者(例えばH2ブロッカー同士の併用)であれば照会、後者であればそのまま調剤することになります。後者も学術的にカッコいい説明がつくことは稀で、臨床試験などでエビデンスとして確立しているものでもなく、机上の空論になりがちです。

今回はCa拮抗薬を例に、同じ作用機序をもつ薬剤同士の併用について考えていきましょう。

一言にCa拮抗薬といっても薬剤毎に、心臓と血管に対する選択性が異なります。

血管に対する作用が強い薬剤 アダラートCR、ノルバスク(いわゆるジヒドロピリジン系薬剤;DHP系薬剤)
血管と心臓の両方に作用する薬剤 ヘルベッサー
心臓に対する作用が強い薬剤 ワソラン

心臓に対する作用は、心筋の収縮を抑制して心臓の酸素消費量を抑える抗狭心症作用と、刺激伝道系に抑える抗不整脈作用があります。

血管に対する作用(降圧作用)は、薬剤毎に冠血管、末梢血管、脳血管、腎の輸入細動脈に対する作用の強弱(選択性)があります。例えば末梢血管に選択性の高いカルスロットはレイノー現象の改善に処方されますし(適応外使用)、冠血管のほか脳血管にも強く作用するニバジールも有名です。

併用事例1)ノルバスクとワソランの併用

降圧作用を主目的に使うCa拮抗薬と、抗狭心症作用・抗不整脈作用を目的に使うCa拮抗薬が併用されることはよくありますし、説明がつきます。
例えばノルバスクは高血圧症に、ワソランは発作性上室性頻拍などに対する抗不整脈薬として処方されたります。

併用事例2)ノルバスクとヘルベッサーの併用
ノルバスクとヘルベッサーの併用は例えば軽度の労作狭心症の気があって、降圧作用とは別にヘルベッサーの抗狭心症作用を期待したものかもしれません。
それから、ヘルベッサーはノルバスクのようなジヒドロピリジン系薬剤の血中濃度を上昇させ、DHP系薬剤の降圧作用の増強が期待できることがあります。


以上、Ca拮抗薬同士の併用の2つの事例を紹介し、薬学的に説明をつけてみました。 Ca拮抗薬は非常に安全性の高い薬剤として現場で大量に使用されていますが、軽い気持ちで副作用リスクの分散を期待し、Ca拮抗薬同士を併用することも実際あるようです。しかし、血圧が下がらないという理由だけでCa拮抗薬同士を併用することは理にかなっていませんし、
やはり作用機序の違う薬剤を合併症なども考慮しながら組み合わせていくのが原則です。
今まで使っていたCa拮抗薬を別のCa拮抗薬にスイッチする際、前の薬剤を処方から消し忘れたという単純な処方ミスであることもあります。

作成日 2009年8月10日

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