疑義照会の仕方  >アクシデント事例をもとにして


処方 73歳 女性 
1)コニール(4mg) 1錠
   1X朝食後   28日分

2)ニューロタン(25mg) 1錠
   1X朝食後   28日分

3)テノーミン(25mg) 1錠
   1X朝食後   28日分

4)アマリール(1mg) 2錠
   2X朝夕食後  28日分

5)レンドルミン   1錠
   Als1P 不眠時  10回分

患者によると約10年前からこの処方になったとのこと。処方を見た薬剤師は,β遮断薬と糖尿病薬の相互作用である低血糖が起こっていないか(*),患者に問いかけた。すると,「言われてみれば昼食前の空腹感が強い」ということであった。相互作用を疑った薬剤師は,直ちに医師に相互作用が起こっている可能性があることを伝え,医師からはテノーミンを削除するという回答があった。
(*)低血糖症状について
(主に空腹時、夜間に)異常な空腹感、脱力感、手指のふるえ、冷汗、動悸などが突然に出現し、血糖を上げると速やかに消失しますその他に体がだるい、生あくび、眼の焦点が合わない、頭重感、考えがまとまらない、おかしな行動、性格の変化、急に腹が立つなどの症状がでる場合もあります。ひどい場合には意識が無くなる事があります。低血糖症状は個人によって症状の出方が違い、同じ人では、だいたい決まっていますので、自分の低血糖の症状の特徴を知っておくことが大切です。


■結果
 28日後に来院した患者は,血圧が上昇し,頻脈も起こしていた。その時点でテノーミンが再開になった,なお,血糖は正常範囲内にコントロールできていた。


■原因
 薬剤師はたまたまβ遮断薬の副作用、相互作用の勉強をしており、特にβ遮断薬と糖尿病薬の相互作用に興味があった。患者に空腹感はないか?とやや誘導的な口調になってしまい、患者もその気になってしまった。疑義照会の時に医師からβ遮断薬をオフにすることを伝えられたが,離脱症候群発症の可能性についてはまったく頭に浮かばなかった。
 薬剤師の進言によりβ遮断薬
が急に中断され,リバウンドが起こったと考えられる。特にβ遮断薬を長期間使用していた患者に対しては,漸減後に中止するなど慎重さが必要であっただろう。β遮断薬を長期服用していた患者においては,アップレギュレーションが起こっておりカテコラミンに対する感受性が亢進しているため,急に中止すると離脱症状が起こりやすいと考えられているためだ。
参考)慢性心不全に対するアーチストの作用機序の一つは,β遮断薬によりアップレギュレーションを引き起こすことを利用し,カテコラミンに対する心臓の感受性を高めることと考えられている。

 当該薬剤師は、相互作用のみに注意がいってしまい、離脱症候群の発現リスクについて予測しきれていなかった。薬剤師の偏った知識から突然の中断に至ってしまったが、
アマリールを減量することも選択肢の一つとして、医師へ提案すべきであった。また、薬剤を中止あるいは減量/増量したときに副作用等が発現しやすいため、処方日数を減らし薬剤変更後の患者の反応を見極めることについても配慮できたかもしれない。患者に対しては、低血糖が現れたときの糖分摂取について改めて説明することも、薬剤師が行える対応の一つであった。

point<<疑義照会の仕方>>
 疑義照会の前には、その後の対処方法についても協議できるように頭を整理しておくことが必要である。特に経験の浅い勉強熱心なまじめな薬剤師ほど、自分の思い込みによる偏った知識だけの提供に陥りやすい。他の選択肢についても客観的に検討し,必要に応じ医師に提案できるようにしなければならない。

言葉にすると簡単ですが,実際実行するとなるとかなりの勉強が必要です。疑義照会ができるようになる一番の近道は、典型的な疑義紹介事例と対処方法については,一つ一つ知識を積み重ねていくことです。


作成日2009年8月15日

ワンポイント19

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