今回は、薬剤をフェロミアに限定して、簡単な話題で一息つきましょう。
話題1 フェロミアとビタミンCを併用する意義はあるの?
□私だけかもしれませんが,一般の人や看護師さんから「鉄剤はビタミンCと併用すると吸収を高めるんでしょ」と言われます。
□ビタミンCは還元剤としての作用があり、昔は鉄剤とともに処方されると鉄の吸収が促進されると言われていました。これはビタミンCに吸収効率の良い二価鉄の状態を保つ作用があるためです。しかし、患者さんによっては鉄吸収率が高まる反面、胃腸障害の副作用が増大することがありました(胃腸障害は胃内の二価鉄イオンの刺激によるものである)。
□フェロミアは、鉄の吸収促進物質であるクエン酸との化合物であるため、特にビタミンCと併用する必要はなく、フェロミアを単独およびビタミンCと併用した比較試験でも貧血改善効果に影響がないという試験結果が出ています。
話題2 フェロミアによる胃腸障害の対処方法
□副作用のモニタリングとマネージメントは,医師から期待されている薬剤師業務の一つです。膨大な薬剤の副作用の対処方法を一つ一つ機械的に覚えていては頭がパンクしますし,応用が利きません。今回はフェロミアの胃腸障害を例にして,副作用の対処方法を,頭の中でどのように整理し、筋道を立てて考えていくかについてお示します。
□まず,原因を正しく理解するように努めましょう。原因がわからなければ対処方法を“考える”ことはできません。
対処方法 | 理由 |
そのまま様子を見る | 症状が軽度であれば、服薬を継続していくうちに慣れることがある。 |
食直後に服用する | 鉄の消化管粘膜への直接的刺激が軽減できる。 |
就寝前に服用する | 鉄剤服用後30〜60分後に悪心などの症状が始まると言われている。寝ている間に症状が消失してしまえば、患者は気づかない。 |
1回の服用量を減量して、分割投与する →人為的徐放化 |
・胃腸障害は用量依存性の副作用であるため, 一回量を減らし分割投与することで、症状を抑えられることがある。→注)参照 ・急速に鉄欠乏状態を改善する必要がなければ、1回量だけではなく1日量も減らして時間をかけて治療していくこともある。 |
フェロ・グラジュメント、インクレミンシロップへの変更 | ・フェログラは徐放性のため、用量依存性の副作用である胃腸障害を軽減することが期待できる。 ・インクレミンシロップは、胃腸障害の発現頻度が一番低いと言われることがある。 |
胃薬を併用する | 症状を軽減するには有効だが、酸分泌抑制薬や胃酸中和薬では鉄の吸収を阻害してしまう可能性がある(Fe3+が増えるかもしれないため。ただし有効性への影響は、臨床上それほど大きくないと思います。) |
注射薬(フェジン注)へ切り替える | ・胃腸障害は回避できるが、その他の副作用リスクが伴う →フェジン注の副作用も勉強しよう! ・鉄剤の投与は経口投与が原則であり、注射薬の使用は最後の手段である。 (まとめ) 通常:経口鉄剤 準緊急:静注鉄剤 緊急:赤血球輸血、続いて静注鉄剤 と序列化して頭の中を整理しよう! |
注)「下痢」や「便秘」は投与量に依存しない副作用のため,分割投与にしても症状を軽減できないと考えられます!!
話題3 鉄剤との相互作用を起こすセフェム系薬剤がある。
□鉄剤と相互作用を起こす抗生物質はニューキノロンやテトラサイクリンだけではありません。
□セフェム系のセフゾンは、硫酸第一鉄製剤との同時服用により吸収が10分の1以下に阻害されたとの報告があります。半端ない阻害です。
→対処法;フェロミアにおいても吸収阻害の報告があるので、服用する際は両剤の服用間隔を3時間以上空けて服用します。
話題4 鉄剤はお茶との飲み合わせが悪い?
□これも一般の人からよく質問されます。
□フェロミアでは、in vitroにおいて、タンニン酸と高分子キレートを形成することが報告されていますが、臨床では、緑茶、コーヒー等のタンニン酸を含有する飲料で服用しても貧血の改善効果に影響はなかったと報告されているため、現在はタンニン酸を含有する飲料による服用での臨床上の影響はほとんどないとされています。
話題5 フェロミアが適している患者とは?
□フェロミアは胃酸の影響を受けずに溶解するので,胃切除患者やヘリコバクターピロリ等による低酸・無酸症の患者に適しています。
話題6 鉄剤による歯の変色とは?
□フェロミアを服用した患者さん(主に小児、高齢者、義歯の患者)で歯の変色(黒色、茶褐色)が報告されており、フェロミアに限らず、すべての鉄剤の添付文書に記載されています。
□原因(着色の機序)
唾液の糖蛋白由来で歯の表面に形成されている皮膜とプラーク(皮膜に細菌が吸着しコロニーを形成したもの)に鉄イオンとタンニン酸等が結合した結果、黒色や茶褐色などの着色がおこると推測されています。
□着色しやすいケース
・フェロミアを口の中に長時間含んだ場合
・フェロミアを服用した際に、一部が口の中に残った場合(特に顆粒剤)
・フェロミアを服用しており、毎日の歯のケア(ブラッシング)が十分でない場合(小児、高齢者、義歯の患者)
□予防方法
・フェロミアは水または白湯ですみやかに服用する。
・フェロミアはタンニン酸を含有する茶類による服用は避ける。
・毎日の通常の歯磨きで十分に予防はできる。但し、歯磨きが困難な小児や高齢者、義歯等の患者さんには、重曹を水に溶かしガーゼなどで歯の表面を拭く。
□除去方法
・フェロミアを服用し着色した場合、軽度であればブラッシングを十分に行うか重曹で歯磨きを行う。
・ブラッシング、重曹を用いて除去できない場合には、歯科医に相談し機械的に除去する。
フェロミアはバンバン処方されているし,かなり奥が深いというかネタにつきません。
作成日 2009年8月29日
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