薬物性肝障害
  1.薬物性肝障害を引き起こす薬剤


 すべての薬物が肝障害の原因になりえます。
原因不明の肝障害に遭遇したら薬物性肝障害を疑います。薬物性肝障害が疑われた場合、当然、医師から薬剤師に「どの薬剤が肝障害を引き起こす可能性がありますか」と聞かれることになるでしょう。薬剤毎に異なる好発時期、障害型(肝細胞障害型 or 胆汁うっ滞型)等を考慮しながら推定していきます。
 肝障害を引き起こす薬剤は「ポケット医薬品集」(2008年版)にもまとめられていないようなので、ここで整理します。まずは肝障害の頻度が比較的高いとされる薬効分類を押さえ、次に代表的薬剤名と肝障害に関する知識と合わせて頭に入れていきます。
(問い)薬物性肝障害を引き起こす可能性の高い「薬剤名」を10以上挙げてください。
(回答)
中毒性、特異体質性、その他に分類し、それぞれ薬効分類→代表的薬剤名→肝障害に関する知識、の順にまとめていきます。

@中毒性肝障害〔
用量依存的に生じる肝障害〕を起こしやすい薬剤

薬効分類 代表的薬剤名
好発時期・障害型
肝障害に関する知識
アセトアミノフェン
好発時期
障害型
肝細胞障害型
自殺企図による服用が後を絶たない

ヒト経口中毒量は7.5g以上、致死量は25g。

0.5g /回x20回分=10g>中毒量

飲酒などではより低用量でも中毒を起こす

向精神薬 CNS系に作用するということは脂溶性である。よって肝で代謝を受けるが、その過程で投与された薬物そのもの、あるいは代謝産物がその原因となりうることは容易に想像がつく。
抗てんかん薬 デパケン
好発時期
障害型
デパケン以外にテグレトールやフェノバールでも肝障害を起こすことがある。
抗リウマチ薬 MTX
好発時期
障害型
抗がん剤 MTX
好発時期
障害型

オダイン
(成分名 フルタミド)
好発時期
障害型
緊急安性情報(平成10年)
ロイナーゼ注
(成分名:L-アスパラギナーゼ)
もっぱら造血器腫瘍(急性白血病、悪性リンパ腫)に用いられる抗がん剤。
腫瘍細胞がDNA・RNA・タンパク合成に必要とするアスパラギンを分解し、栄養欠乏状態にすることにより抗腫瘍効果を得る(G1期特異的)。

アセトアミノフェンの毒性発現機序
□ 毒性発現機序は大学でも習っていると思いますが、解毒方法の知識や通常量でも飲酒患者などで発症しやすくなるという“臨床で必要とされる知識”まで内容を関連付けて習っていないと思います。
考える力を高める知識として、作用機序を復習ます。


□作用機序
・アセトアミノフェンは代謝の過程でアセトアミノフェンの一部は、N-アセチルベンゾキノンイミン(NAPQI;N-acetyl-p-benzoquinone imine)になる。このNAPQIは、通常は肝細胞中のグルタチオンによって解毒されるが、大量のアセトアミノフェンが体内にはいるとグルタチオンが枯渇し、NAPQIが蓄積し、タンパクと結合して肝細胞の壊死を起こす。
・グルタチオンの枯渇は飲酒常習者でも起こりうる。
飲酒常習者は通常量でも肝障害の発症リスクが高まることが考えられるということ。 米国では平成10年10月、アセトアミノフェン製剤については、肝障害発現の危険性から、包装に毎日3杯以上の飲酒者は服用の是非を医師に相談する旨記載することになりました(米国におけるアセトアミノフェンの上限は、日本〔<〕より多いgです)。
・アルコールを飲み続けると、
     酵素CYP2E1が誘導されて、代謝物のNAPQIが増える
     グルタチオンを減少させる
 よって、肝障害発現リスクが高まる。
・グルタチオンの減少・枯渇は、アセトアミノフェンの常用、肝疾患のある患者、栄養状態が悪い患者でも起こりえます。


□解毒方法(予防)
・アセトアミノフェンの大量摂取時による肝障害の予防には、「アセチルシステイン内用液」を使用します。平成14年に承認されました。
細胞内に吸収されにくいグルタチオンの変わりに、細胞内に吸収されやすいグルタチオン前駆物質であるN−アセチルシステインを投与し、NAPQIの代謝を促進し、解毒します。
・アセトアミノフェンによる肝障害の発生と血清中アセトアミノフェン濃度とは密接な関係があり、血漿中アセトアミノフェン濃度が検出できれば肝障害の危険性を予知できます。
アセトアミノフェン摂取後の経過時間と、血漿中濃度から、投与可能かどうか判断します。
そのためにRumack-Matthew(
リューマック・マシュー)のノモグラムというのがあります。摂取後4時間までは血漿中濃度がピークに達していないため使用できません。N-アセチルシステイン投与の推奨ラインは、4時間後の血漿中濃度が、150μg/mlの点と、24時間後の5μg/mlの点を結んだラインです。このラインより上の血漿中濃度の場合は、本剤の投与が有効とされています。24〜48時間を過ぎてしまうと有効性は期待できないと言われています


★推定摂取量から血漿中濃度の概算をする方法を紹介します。
アセトアミノフェンは消化管から完全に吸収されます。ノモグラムによる判定は摂取後4時間以降の血漿中濃度が目安となりますが、測定が困難な場合や、測定結果が迅速に得られない場合は、患者の体重と推定摂取量から次式により、摂取後4時間の濃度を推定することができます。
Cp(摂取後4時間のピーク濃度:μg/mL)
                       =0.59 x 摂取量(mg/kg)


A特異体質性肝障害〔個人の体質により少量の投与でも肝障害をみるもの。アレルギー性、薬物代謝酵素の変異などによる肝障害がある。〕を起こしやすい薬剤

コントミン
好発時期
障害型;胆汁うっ滞型
解熱・鎮痛薬
抗菌薬 ミノマイシン
好発時期
障害型
漢方薬 小柴胡湯、柴苓湯、葛根湯
好発時期
障害型
抗結核薬 イスコチン、リファンピシン
好発時期
障害型


イスコチン:薬物代謝酵素の変異により、通常の人では起こらない量で肝障害を呈することがあるのは有名
シクロスポリン
好発時期
障害型

Bその他・・・
添付文書上で定期的な肝機能検査を義務付けている
過去に
緊急安性情報(ドクターレター)が発出されているもの。
パナルジン
好発時期
障害型
緊急安性情報(平成14年)
添付文書
ユリノーム
好発時期
障害型
緊急安性情報(平成12年) 
添付文書

ボセンタン 添付文書
チガソン
好発時期
障害型
添付文書
抗真菌薬 ラミシール
好発時期
障害型
αグリコシダーゼ阻害薬 グルコバイ、ベイスン
ハロタン
〔注意〕肝細胞障害型が多いといわれてもうっ滞型を発症する場合も考えられるし、その逆もある。混合型を発症することもある。

パナルジン添付文書(抜粋)
警告
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、無顆粒球症、重篤な肝障害等の重大な副作用が主に投与開始後2ヵ月以内に発現し、死亡に至る例も報告されている。[「重大な副作用」の項参照]
(1)投与開始後2ヵ月間は、特に上記副作用の初期症状の発現に十分留意し、原則として2週に1回、血球算定(白血球分画を含む)、肝機能検査を行い、上記副作用の発現が認められた場合には、ただちに投与を中止し、適切な処置を行うこと。本剤投与中は、定期的に血液検査を行い、上記副作用の発現に注意すること。
(2)本剤投与中、患者の状態から血栓性血小板減少性紫斑病、顆粒球減少、肝障害の発現等が疑われた場合には、投与を中止し、必要に応じて血液像もしくは肝機能検査を実施し、適切な処置を行うこと。
(3)本剤の投与にあたっては、あらかじめ上記副作用が発生する場合があることを患者に説明するとともに、下記について患者を指導すること。
1)投与開始後2ヵ月間は定期的に血液検査を行う必要があるので、原則として2週に1回、来院すること。
2)副作用を示唆する症状があらわれた場合には、ただちに医師等に連絡し、指示に従うこと。

(4)投与開始後2ヵ月間は、原則として1回2週間分を処方すること

ユリノーム添付文書(抜粋)
警告
1. 劇症肝炎等の重篤な肝障害が主に投与開始6ヶ月以内に発現し、死亡等の重篤な転帰に至る例も報告されているので、
投与開始後少なくとも6ヶ月間は必ず、定期的に肝機能検査を行うなど観察を十分に行い、肝機能検査値の異常、黄疸が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
2.副作用として肝障害が発生する場合があることをあらかじめ患者に説明するとともに、食欲不振、悪心・嘔吐、全身倦怠感、腹痛、下痢、発熱、尿濃染、眼球結膜黄染等があらわれた場合には、本剤の服用を中止し、直ちに受診するよう患者に注意を行うこと。


ボセンタン添付文書(抜粋)
警告
本剤投与により肝機能障害が発現するため、肝機能検査を
必ず投与前に行い投与中においても、少なくとも1ヵ月に1回実施すること。なお投与開始3ヵ月間は2週に1回の検査が望ましい。肝機能検査値の異常が認められた場合はその程度及び臨床症状に応じて、減量及び投与中止など適切な処置をとること。


チガソン添付文書(抜粋)
重要な基本的注意
本剤は肝障害を起こすことがあるので肝機能検査は投与前、投与開始1ヵ月後及び投与中は3ヵ月ごとに行うべきであり、肝障害が疑われるときは直ちに投与を中止すること。



最近は薬物だけではなく、健康食品、サプリメントの服用により肝障害を起こすことが新聞などで報道されているので、薬剤以外にも目を向けましょう。



付録:薬物性肝障害の実態

施設単位の報告がいくつかありますが、大規模なデータは見当たりませんでした。第43回 日本肝臓学会総会のワークショップで発表された国内7施設におけるデータを紹介します。


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       http://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/48/10/517/_pdf/-char/ja/ よりデータを引用

作成日 2009年9月日

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