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免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策


B型肝炎ウイルスキャリアに合併した悪性腫瘍患者に対し、ステロイドを併用した化学療法を施行した場合、HBVの再活性化により致死的な重症肝炎が発症することが知られていた。

CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫に使用するリツキシマブ、
関節リウマチに使用する抗TNF薬
など、高い有効性も期待できる一方で、重篤な副作用のコントロールに注意を払わなければいけない薬剤が登場してきている。


以前はHBe抗原が消失し、HBe抗体が出現すればB型肝炎が治癒したとみなされていた。

しかしHBe抗原を産生しない変異株の存在が明らかとなった。
またHBs抗原が陰性であっても血清中HBV DNAが陽性を示すものがありことがわかった。
これら
HBV抗原が陰性からのHBV再活性化は劇症化率が高く、予後はきわめて不良であることが知られるようになった。

そんな中で、日本肝臓学会から「免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策」(2009年)が発表された。




POINT
HBe抗原だけでなく、HBc抗体、HBs抗体の測定を行い、高リスク群を同定する

 (1)HBs 抗原陽性の場合
 HBe抗原, HBe抗体, HBV DNA定量を測定し,治療前の状態を確認する。再活性化のリスクは高いので,原則として核酸アナログの予防投与を行う。ただし,HBs抗原陽性例には,キャリアだけでなく,慢性肝炎や肝硬変例も含まれることもあるため,肝臓専門医へのコンサルトも必要である。

 (2)HBs 抗原陰性,HBc 抗体陽性,HBs 抗体陽性の場合
 HBV DNAの定量を行い,陽性であれば,核酸アナログの予防投与を行う。陰性(検出感度未満)であれば,
HBV DNAを毎月モニタリングしながら,陽性化したら核酸アナログの予防投与を開始する。Huiらの報告 によると,HBV DNAが陽性化して,肝炎が発症するまでに12〜28週(平均:18.5週)を要することから,陽性化してから,核酸アナログの投与を行っても,肝炎の重症化は予防可能と推察されている。HBV DNAが陰性の段階での核酸アナログの予防投与は,医療経済的効果を含めた有効性が明らかにされていないため,推奨されていない。

 (3)予防投与すべき核酸アナログ
 再活性化の予防投与における有用性はゼフィックス(ラミブジン)において示されているが,B型肝炎に対する治療効果,薬剤耐性の問題より,わが国では,バラクルード(エンテカビル)が推奨されている。

 (4)核酸アナログの予防投与の開始時期
 肝障害の発症前の予防投与が重要である。劇症化してからの投与では,予後不良である。

 (5)核酸アナログの予防投与の投与中止時期
 核酸アナログ予防投与の終了に関する明確なエビデンスはない。
化学療法終了後12カ月は投与を継続し,ALTの正常化とHBV DNAの持続陰性化がみられる場合には,投与終了を検討することが可能である。また,投与終了後も12 カ月間は厳重な経過観察が必要である。


作成日2010年6月5日

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