バクタの用法用量 

バクタは細菌だけではなく、葉酸の合成を阻害することにより真菌であるニューモシスチス・イロベッチや原虫のトキソプラズマの感染症に使われます。1976年に発売されて以来、今日でも使用されています。

各種感染症の治療や
予防に用いられます。添付文書の用法用量は4錠1日2回ですが、週1、週2(2投5休と呼ばれる)、週3(3投4休)、少量連日など、さまざまな投与方法で処方され、添付文書片手に勉強してもどうしよもなく、疾患別に勉強をしないとなかなか理解できない薬です。さらに移植領域で使われることが多いですが、投薬レジメンは各施設でばらつきがあり全国的に統一されてはいないことが、勉強のしにくさの一因となっています。

ST合剤の種類
錠剤  バクタ錠(1錠中 S400mg、T80mg)
散剤  バクタ顆粒(1g中 S400mg、T80mg)
注射剤 バクトラミン注(1A中 S400mg、T80mg)

吸収は非常に良好で、インタビューフォームにバイオアベイラビリティーの記載はないが、
経口投与の用量=注射の投与量であることから、ほぼ100%に近いと推測できます。

投与量に関しては、私は頭の中で3つのグループに分けて鑑査しています。用量のレンジが広いですね。





ニューモシスチス肺炎  国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センター
<治療>
治療の第一選択薬はST合剤であり、体重60kg以上では12錠を、60kg未満では9錠を1日量の目安として1日3回に分けて投与します。第二選択薬はベナンバックス注(成分名:ペンタミジン)ですが、数%に耐性があること、肺への移行性が悪く治療成績もST合剤と比較して劣っていることが分かっているので、必ずST合剤を優先的に使用すべきです。
治療期間は21日間であり、21日間の治療を終えれば、維持治療に移行します。ニューモシスチス肺炎の重症例では、21日間の治療後もX線画像上に陰影が残存したり、低酸素状態が残存したりすることがありますが、その場合でも治療期間を延長する必要はないとされています。
治療前のPaO2が70mmHg未満あるいはA-a DO2が35を超える場合は、ステロイドを併用することで予後が改善することが知られています。
プレドニン 60mg 2X for3-5days
30mg 1X for3-5days
15mg 1X for3-5days
<予防>

ニューモシスティス肺炎 @バクタ  1錠/日 連日
 今日の治療指針2009・・・2錠 分1 3投4休
Aベナンバックス300mg吸入 3−4週間毎
 注)ベネトリンで前処置・・・実例処方4 実況中継参照
トキソプラズマ脳症 バクタ 2錠/日 連日



造血幹細胞移植における感染予防

造血幹細胞移植の際のニューモシスチス肺炎の予防を目的とした、当院の使用方法を紹介します

移植21日前から7日前までの2週間、バクタ錠4錠を連日投与
その後はステロイドを使用しない限り使用しない
ステロイドを使用した場合は、
2投5休で投与、あるいはベナンバックス吸入を1ヶ月に1度
注)予防投与のバクタの用量についてエビデンスはないとされている。




小児の尿路感染予防
一番多く目にする処方ですので、詳しく説明していきます。

尿路感染症を発症すると、30-50%は再発すると考えられている。
再発例の30-50%で膀胱尿管逆流症(VUR)が認められ、腎実質への感染、腎瘢痕化が進行し腎不全への進行の可能性があるため、再発予防のための予防投与が必要になります。
VURを認める小児では、
6ヶ月間を1クールとして、VURが消失するまで予防投与を行います。

添付文書には、「低出生体重児、新生児には投与しないこと」と書かれています。高ビリルビン血症を起こすことがあるからです。1歳未満でも通常は副作用のためバクタは使用せず、ケフラールなどを投与します。ただしリスクが高ければ1歳未満でもバクタの投与が必要と判断されれば投与されることがありますし、実際処方も出ています。

小児薬用量については、治験を行うことが難しく、ほとんどの薬剤の添付文書にも記載がありません。全国的な調査によるとバクタの少量長期投与が全国の医療機関で行われており、常態化しているそうです。画一的な用法用量があるわけではありませんが、目安として以下の設定があります。

小児の尿路感染予防  バクタ顆粒 0.01-0.025g/kg/日 分1 就寝前

しかし、いくつかのある薬剤毎に用量を覚えるのが大変ですので、次のようにザックリ考えると便利です。
POINT
抗生物質の用法用量を鑑査するときは、投与目的が治療か予防か推測する。
予防に用いる用量は治療に用いるときの3-10分の1とザックリ考える。
3-10分の1という数字には科学的根拠はありません。ただ本を見ていると散見され、私も今までほとんどの処方をこの考え方で調剤・鑑査してきました。次の実例処方をもとに頭の動かし方を文章にします。


実例処方)小児科 1歳2ヶ月
     バクタ顆粒          0.2g
      1X就寝前      7日分
【頭の動かし方】
成人の用量(治療)は4錠=4g
1歳の患者には 1/4を掛けて1g
今回の処方は0.2g??
と初心者は行き詰ってしまいます。
動かし方@
そこで予防投与ではないか考えます。
用法が就寝前ですから、尿路感染の予防である確率が高いです。
処方量は0.2gで、治療に使われる1gの5分の1。3-10分の1のレンジに入っているのでOK。といった具合です。
動かし方A
慣れてくれば、処方を見ただけですぐに用量が少ないと判って、予防投与の用量からいきなり鑑査に入ることができます。つまり、
1歳だと体重が約10kg。0.01-0.025 x 10 = 0.1g-0.25gだから処方量の0.2gはOK。

おまけ)
・膀胱や尿路に到達した薬剤は、血流に入っている薬剤に比べ分散せず、代謝も受けないことが、低用量でも効果を示す理由ではないかと考えています。しかしこのような説明はどの本にも載っていませんから、間違いかもしれません。濃度依存性ではなく時間依存性の抗生物質であることも必要だと思います。
・低用量のためコンプライアンスを高める説明が、予防投与成功の秘訣と考えます。




生体部分肝移植
当院
小児レシピエント・・・バクタ 1/20錠=1/20g 連日 1年投与
成人レシピエント・・・バクタ1錠 分1 連日 1年投与



その他
腎障害時の投与量(インタビューフォームより)



作成日 2010年6月9日

ワンポイント32

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