患者への服薬説明
〜ケイツーシロップの投与目的
Rp)ケイツーシロップ 1ML
Als1P指示通り 1回分 |
最近、生まれたての赤ちゃんにケイツーシロップが退院処方でよく出ます。今日も休日出勤で薬剤部へ出向いて調剤業務を行いましたが2枚のケイツーシロップの退院処方を調剤しました。
ケイツーシロップのケースには「使用期限に注意」みたいなことが書かれています。私が入局した1995年当時はほとんど処方されていなく、このような注意書きが書かれたものと思われます。1990年にはケイツーシロップ3回投与の有用性が認められており、既に5年程度経過していましたから、臨床では実際に使用されていたと考えられ、処方が出なかった理由は病棟や外来診療科で直接投与していたか、あるいは注射で投与していたと考えられます。
生後一ヶ月の赤ちゃんを抱えたお母さんが、投薬窓口に訪れました。
「このケイツーシロップはビタミンのようですが、何のために飲ませるのですか?」と聞かれたら、薬剤師としてどのように説明すればいいでしょうか?
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ケイツーシロップの添付文書からいくつか基本的な情報を抜き出してみます。
効能又は効果:新生児出血症及び新生児低プロトロンビン血症の治療
重要な基本的注意:本剤の適用対象となる新生児出血症及び新生児低プロトロンビン血症は、例えばトロンボテスト値20%以下又はヘパプラスチンテスト値30%以下の症例をいう。
出生後早期の新生児への投与
本剤は、シロップ剤で高浸透圧になっているため、出生後早期の新生児への投与は白湯で10倍に薄めるか、又は哺乳確立後に投与を行うこと。 |
補足)新生児:出生後28日未満の乳児
乳児:1歳に満たない子供
幼児:満1歳から小学校就学の直前に達するまでの子供
■投与目的
1回分で処方されるケイツーシロップの投与目的は「ビタミンK欠乏性出血症の“予防”」です。“治療”ではないので厳密に言えば適応外になってしまう??。ただ、後で説明する通り、予防の効果は当時の厚生省が認めていますし薬価も安いので、査定の対象になることはないと思われます。
■投与方法
出生後1-2日後(数回の哺乳を確認後)、約1週間後、約1ヵ月後にそれぞれ1ML 3回投与がワンセットになります。
■ビタミンKの産生、吸収について
ビタミンKは、主に腸内細菌にて作られ、一部は食品より摂取され、胆汁酸とともに吸収されます。ビタミンKを合成する腸内細菌が減少したとき、胆道が閉塞して胆汁酸がなくなったときに欠乏が起こります。
■新生児はなぜビタミンKが不足するのか?
私たちは体の中でこのビタミンKを合成することはできず、腸内殺菌が作り出すビタミンKや、わずかですが食事からとったビタミンKを利用しています。
赤ちゃんは、腸内細菌の組成が成人と違うのでV.Kを十分作り出すことができず、また母乳の中にはビタミンKはほとんど含まれていません。そのため、健康な新生児でもビタミンK欠乏性出血症を起こす危険性があるのです。
■ビタミンKが不足すると何が起こるのか?
ビタミンKは血液凝固に必要なビタミンです。ビタミンKが欠乏すると出血が起こりやすくなります。
生後おおむね1週間以内にみられる消化管出血(吐血や下血)
生後1ヶ月近くにみられる頭蓋内出血 |
の2つのタイプがあります。特に後者は後遺症を残す危険性があり、事前に予防策を講じることが大切になります。
■ケイツーシロップ投与により予防効果は証明されている
ケイツーシロップの予防投与の有用性に関しては、当初まちまちの意見が出されていたようです。
その後1990年までに2回の厚生省班研究の調査が行われ、ケイツーシロップ3回投与の有用性は広く認められるようになりました。、
■飲ませ方
V.Kは脂溶性のビタミンですから、母乳やミルクと一緒のほうが、吸収がよくなりそうです。ただ、添付文書には白湯でもいいと書いてあります。できれば母乳あるいはミルクという感じでしょうか。
■お母さんは赤ちゃんのことを自分以上に心配します
母乳を飲ませているし、生まれたばかりの赤ちゃんにはできるだけ薬を飲ませたくないというお母さんもいるでしょう。そんなときは科学的に有用性が示されており、飲ませないより飲ませるほうが赤ちゃんにとって利益であることを説明してあげるといいと思います。
おまけ
■ビタミンK2を含有する製剤をまとめてみました。あるときは骨に、あるときは血液凝固系に作用するという2面性を有しています。

成分名 |
メナテトレノン〔ビタミンK2〕 |
商品名 |
ケイツーシロップ |
ケイツーN注 |
グラケーカプセル |
含有量 |
2mg/ML |
10mg/2ML/A |
15mg |
適応 |
新生児出血症 及び
新生児低プロトロンビン血症の治療 |
ビタミンK欠乏による次の疾患及び症状
@胆道閉塞・胆汁分泌不全による低プロトロンビン血症
A新生児低プロトロンビン血症
B分娩時出血
Cクマリン系抗凝血薬投与中に起こる低プロトロンビン血症
Dクマリン系殺鼠剤中毒時に起こる低プロトロンビン血症 |
骨そしょう症における骨量・疼痛の改善
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■一般・消化器外科でよく処方されるケイツーN注の投与目的
ケイツーN注がよく処方されるのが一般・消化器外科です。投与の必要性や、投与量の決定がどのような「基準」で行われるのか病棟担当者に聞いてみましたが、不明とのことでした。
消化器外科では手術で消化管をダイナミックにいじることから細菌叢が激変し、また術前の消化管殺菌や腸管洗浄を行うことがあります。また術後は食事も取れないでしょう。そのため、ビタミンKの欠乏に陥りやすいと推測しています。私は医師が凝固系の検査値をみながら投与の必要性を判断しているのだと考えています。(←まったくの想像です。今までケイツーN注が臨床でどのような基準で投与されているのか書かれている本をみたことがありません。)
作成日 2010年6月19日