■トランサミンの臨床での使われかた

トランサミンの成分はトラネキサム酸です。大学では「止血薬」としか習わないでしょうが、トラネキサム酸はプラスミンという物質の作用を阻害する薬で、プラスミンは出血や炎症、アレルギーを引き起こす物質です。ここでしっかり多彩な薬効について押さえておきましょう。

 @ 止血作用・・・「この薬は出血を止める薬です」
 A 抗炎症作用・・・「この薬は炎症を鎮める薬です」
 B 抗アレルギー作・・・この薬は蕁麻疹、湿疹等のアレルギー症状を和らげる薬です」
 C その他・・・しみ、肝斑(かんぱん)

@はアドナとの併用で、術後に注射薬として使われることが多いです。
Aは耳鼻咽喉科から、喉の炎症を沈め、痛みを和らげることを目的に処方されることが多いです。処方日数は大体 数日〜2週間程度のようです。鼻血に対しても使用されるようです。
Bは抗ヒスタミン薬などとともに皮膚科から処方されることが多いです。
Cはハイシーなどとの併用で、長期間(多分 数ヶ月)服用するようです。作用機序はあまりはっきりしていないようです。

・当院のお薬情報紙には次のように説明が書かれています。
「出血を止める薬。炎症を抑える薬。」
相変わらず、必要最小限“以下”のことしか書かれていません。



★★★ワーファリンとトランサミンは併用禁忌??
先日受けた患者からの問い合わせです。
『ワーファリンを飲んでいるのですが、今日耳鼻咽喉科にかかってトランサミンというお薬をもらいました。お薬の情報紙を見たら「血液を固まらせる・・・」と書いてあるのですが、一緒に飲んで大丈夫でしょうか』

ワーファリンは血液を固まりにくく薬で、トランサミンは止血薬です。確かに作用が拮抗するようにも思えますが、トランサミンの作用について基本に戻って考えみると、おのずと答えが出てきます。「止血薬」、「抗線溶薬」、「抗プラスミン薬」の意味を、噛み砕いて理解していなければ回答できません。作用機序を勉強する目的・意味を、この事例で感じ取ってください!

□トランサミンの止血作用
トランサミンは、
血を固まらせるのではなく、固まった血を溶かさないようにする薬です。血栓があればそれを溶かさないように作用しますが、新たに血栓を作り出す作用はありません。

□ですから、ワーファリンをしっかり服用していれば、血栓ができることはなく、よってトランサミンの影響はないと言えると思われます。
両薬剤の添付文書を見ても、併用禁忌にも併用注意にもなっていません。

□しかし血栓ができてしまうと、それを溶かす作用がトランサミンにより阻害されてしまうので、影響が出てくる可能性がないわけではありません。しかし、電話をしてきた患者はトランサミンが5日間しか処方されていなく、問題ないと考えました。

□トランサミンの止血効果はそれほど強いものとは思えません。患者さんには「問題ない」と回答しましたが、トランサミンが治療に必ずしも必要であるケースは考えにくく、念のためワーファリンを服用中の患者に対して、慎重を期して念のためトランサミンを服用させないという考えも正解だと思います。特にCのようなケースでトランサミンを服用しているケースでは、服用が長期間になるため、念のためワーファリン(あるいはトランサミン)を処方している医師に相談してみるように言ってあげたほうがいいと思います


(おまけ)
ちなみに、ごくまれに本に書かれている知識を紹介します。あまり使われないノイエルという胃薬がありますが、
ノイエルの成分であるセトラキサートは代謝されてトラネキサム酸を生じます。添付文書には血栓のある患者(←血栓ができやすい患者ではない!!)や消費性凝固障害のある患者では、ノイエルが血栓を安定化するおそれがあるため、慎重投与となっています。

作成日:2011年1月31日


ワンポイント44

index
TOP PAGE