アセトアミノフェンと腎障害

以下、
井蛙内科開業医/診療録(4)
http://wellfrog4.exblog.jp/13179712/からのパクリです。

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熊本大学薬学部臨床薬理学分野 教授
熊本大学薬学部附属育薬フロンティアセンター長
平田純生先生
の書かれた
「概論 腎障害におけるアセトアミノフェンの使用」
で勉強しました。



##腎障害へのアセトアミノフェン使用についての誤解?
#1. 米国医療機関での鎮痛療法の主役はNSAIDsではなくアセトアミノフェン
NSAIDsは腎のプロスタグランディン(PG)合成阻害によって腎虚血による腎機能障害を引き起こしますが、高齢者における薬剤性の急性腎不全発症の60%以上がNSAIDsによることが報告されています。
また、米国ではNSAIDsによる消化管出血による死者は年間16,500人にのぼっています。
米国の病院内では全くと言ってよいほどNSAIDsは投与されていません。
米国での医療用鎮痛薬の主役はNSAIDsではなくアセトアミノフェンであり、通常、1日4gという日本では考えられないくらいの高用量で汎用されていたのです。

アセトアミノフェンはNSAIDsのような末梢におけるPG合成阻害作用をほとんどもたない解熱鎮痛薬であるため、NSAIDsの4大副作用である腎障害、消化性潰瘍、抗血小板作用による易出血性、アスピリン喘息のいずれも非常に発症頻度が少ないにもかかわらず、我が国の添付文書は消化性潰瘍のある患者、重篤な血液の異常のある患者、重篤な腎障害のある患者、重篤な心機能不全のある患者、アスピリン喘息のある患者に対してNSAIDsの添付文書と同様いずれも禁忌となっています(表1)。

表1 アセトアミノフェンとNSAIDsの添付文書の禁忌事項の比較



#2. 腎障害のある患者さんに対しての疼痛コントロールの現状と、添付文書記載内容のギャップ
米国のアセトアミノフェンの添付文書の禁忌事項、警告・慎重投与には表1の太字で表した部分は全く記載されていません。
アセトアミノフェンはNSAIDsではないのですが、我が国の添付文書では明らかにNSAIDsと同様の扱いを受けているのです。

NSAIDsは腎血流を低下させることによって腎機能を悪化させるため「重篤な腎障害には禁忌」となっていますが、権威あるアプライド・セラピューティクスという成書ではアセトアミノフェンの腎障害は「極めてまれ〜まれ」に分類されています。
そのため、我が国の添付文書中の「重篤な腎障害のある患者に禁忌」という表記を削除して、保存期腎不全患者やワルファリン併用者などにはNSAIDsに代わって慎重投与にすべきだと思っています。
しかし、腎機能廃絶をした透析患者ではこれ以上腎機能が悪くならないため、NSAIDsを使用することは可能となります。
そのため、NSAIDsの添付文書は今後「重篤な腎障害では禁忌(腎機能廃絶した、あるいは無尿の透析患者はこの限りではない)」と記すべきであろうと考えます。
現在の添付文書の内容から解釈した場合、CKD(Chronic Kidney Disease;慢性腎臓病)患者の痛み止めには、いきなりペンタゾシンやブプレノルフィンなどの第2種に分類される向精神薬の非麻薬性鎮痛薬かモルヒネやオキシコドンなどの麻薬を常用せよ」ということにもなってしまいます。


#3. 末期腎不全患者におけるアセトアミノフェンの薬物動態
アセトアミノフェンは尿中未変化体排泄率が3〜5%と低く、代謝物に活性がほとんどないため腎不全患者でも減量する必要がないと考えるのが一般的です。
しかし、アセトアミノフェンは腎不全患者では非常に特殊な薬物動態を示します。
腎機能が正常であれば、水溶性の高い抱合体代謝物は速やかに尿中に排泄されます。
しかし、末期腎不全患者ではアセトアミノフェンのグルクロン酸抱合体、硫酸抱合体濃度が10〜30倍に上昇し、胆管から高濃度に十二指腸に排泄され、腸内細菌によって脱抱合されて再び消化管からアセトアミノフェンとして再吸収されます(図1、図2)。
そのため、末期腎不全患者に連用すると血中アセトアミノフェン濃度は腎機能正常者の約3倍に上昇します。
本来ならば腎不全患者にアセトアミノフェンは減量すべきですが、我が国の添付文書の用量設定が低すぎるため、末期腎不全患者でも1200mg分2投与あるいは1500mg分3が適正と考えられます。ただし、定期的な肝機能検査時は必須です。

図1 健常者ではアセトアミノフェンは抱合体として尿中に排泄される


図2 末期腎不全患者におけるアセトアミノフェンの腸肝循環


http://www.e-paincontrol.com/main/1_frontierseminar/dai_14/14_3.html

ワンポイント45

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