甲状腺ホルモン製剤とセットで処方される薬剤

甲状腺ホルモン製剤といえばチラージンSですが、他の薬剤とよくセットで処方されます。今回は代表的なセット処方のパターンを整理し、その背景について説明を加えてみます。処方を読み解く力がグンと上がります。
“あの”「重篤副作用疾患別対応マニュアル」にも「甲状腺機能低下症」が取り上げられていますので、ぜひ見てください。
http://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm0905006.pdf

■チラージンSの適応症

剤形 効能又は効果 用法及び用量
錠剤 
25μg、50μg
粘液水腫,クレチン病,甲状腺機能低下症(原発性及び下垂体性),甲状腺腫 レボチロキシンナトリウムとして通常,成人25〜400μgを1日1回経口投与する.
一般に,投与開始量には25〜100μg,維持量には100〜400μgを投与することが多い.
なお,年齢,症状により適宜増減する.
散 
0.01%
乳幼児甲状腺機能低下症 通常,乳幼児にはレボチロキシンナトリウムとして1回10μg/kg(本剤100mg/kg)を1日1回経口投与する.
未熟児に対しては1回5μg/kg(本剤50mg/kg)から投与を開始して8日目から1回10μg/kg(本剤100mg/kg)を1日1回経口投与する.
なお,年齢,症状により適宜増減する.


>>小児薬用量が、成人の投与量に匹敵することに注意!!

甲状腺の機能が落ちているため(甲状腺機能低下症)に甲状腺ホルモンを補充したり、また、肥大した甲状腺(甲状腺腫)または腫瘤(かたまり)のある甲状腺が大きくなるのをコントロールするために、甲状腺ホルモンを飲んでいる人もたくさんいます。
生まれつき甲状腺の働きの悪い人もいますが(これはクレチン病と言います)、成人ではほとんどが慢性甲状腺炎のために甲状腺機能低下症になります。その他、バセドウ病の術後やアイソトープ治療後になることもあります。

一過性の甲状腺機能低下症と、永続性の甲状腺機能低下症がありますが、永続性で一生チラージンSを服用する必要のある患者さんもたくさんいます。

■甲状腺ホルモンが不足して起こる症状
診療科
症状。検査値異常
内科全般
全身倦怠、無気力、高コレステロール血症、貧血、痴呆
神経科
筋肉痛、筋力低下、けいれん、声がれ
精神科
無気力、痴呆、うつ状態
整形外科
筋肉痛、関節痛、
耳鼻科
難聴、耳鳴り、めまい、声がれ
皮膚科
皮膚乾燥、毛髪脱毛
循環器科
脈拍数が遅い、心不全、息切れ、胸痛、むくみ、心電図異常、心肥大
消化器科
食欲低下、便秘、肝臓障害(AST、ALT、LDH、γ-GTP上昇)
婦人科
月経過多、無月経
症状はバセドウ病と正反対で、体重が増え、脈がゆっくりになり、寒がりで肌がガサガサになり、髪は抜けやすく、動きが鈍くなります。甲状腺ホルモンが足りないことによります。
症状が割りとゆっくりでてくるので、他の病気と間違われます。例えば脈がゆっくりなので循環器科、腫れぼったいところで腎臓科、肌がガサガサなので皮膚科、反応が鈍いので精神科に回されます。

赤ちゃんでは、心身の発育にも影響します(クレチン症)。人間は3歳までに脳の大半が出来上がります。その大切な段階で、ホルモンが足りなかった場合、障害がおこってしまうのです。(知的障害など)。日本では新生児のスクリーニングがあるので、早期発見、早期治療がされています。

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ここから本題に入ります。
■活性型ビタミンD製剤併用の背景
甲状腺がんで全摘を受けると、専門医が手術しても近くにある“副”甲状腺機能の低下が起こることがあります。このようなとき、副甲状腺ホルモンが分泌されなければ、一生、活性型ビタミンDを飲まなくてはなりません。
ビタミンDはまず肝臓で代謝され、ついで腎臓で代謝されてはじめて活性型ビタミンDとなります。このとき、副甲状腺ホルモンが不足していると、腎臓で活性型ビタミンDを作ることができなくなります。したがって、副甲状腺機能低下症の患者さんは、はじめから活性型ビタミンDを飲む必要があります。

甲状腺ばかりに注目していては、活性型ビタミンD製剤の投与意義は理解できないことになります。耳鼻咽喉科からよく処方がでてます。

■高脂血症治療薬併用の背景
甲状腺ホルモンが低下するとさまざまな症状が出ますが、血清コレステロールの上昇も重要で、動脈硬化や心臓病、および卒中のリスクが増加します。

■スーテント併用の背景
スーテントなどの分子標的治療薬は、殺細胞性の抗癌剤にはない独特の副作用が発現することがあります。
スーテント服用患者の62%にTSH 異常値が認められ、内訳は36%に持続する原発性甲状腺機能低下症、17%に一過性の軽度のTSH 増加、10%に単独のTSH 抑制が認められた。甲状腺機能低下症になる前に、40%の患者がTSH の抑制を認めているので、(破壊性)甲状腺炎が起こっているという説もある。副作用としての甲状腺機能低下症が起こる詳しい機序は不明である。

■リ-マス併用の背景
リチウムが甲状腺に取り込まれホルモン分泌過程を阻害するのがその機序で、甲状腺機能低下症も約10%の患者で見られる。原病に鑑みてリチウムの継続が必要な場合が多いので、これは継続しながをチラージンSを併用投与する事が多い。

■メルカゾール併用の背景
メルカゾールは抗甲状腺薬で、甲状腺ホルモンの合成をおさえて、その分泌を減らします。バセドウ病など甲状腺機能亢進症に用います。チラージンSとは相反する作用を有する薬剤ですが、併用される場合があります。
   ★「テーマ別薬剤一覧」 >「相反する作用を有する薬剤を併用する例」参照 


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おまけ)チラージンS 分2、分3投与の理由
治療開始にあたって最も注意しなければならないのは、狭心症などの虚血性心疾患を合併している場合です。そういった患者は甲状腺機能低下症の治療開始時に狭心症の頻発や心筋梗塞を生じる可能性がありますので、12.5μg/日程度の少量から治療を開始します。たまに分2、分3で投与されることがありますが、この辺に理由があるのではないかと思っています。

作成日2011年7月27日

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