ワンポイント53

■ ゼローダの用量監査

抗癌剤は単独で使用されることは少なく、作用機序の異なるいくつかの薬剤を組み合わせた多剤併用療法が主流で、さらに外科手術や放射線治療などと組み合わせて使用されます。その組み合わせの仕方で、抗癌剤の用法用量が決まってくることに中止しなければなりません。

添付文書に載っている用法用量は、治験の段階でそのほとんどが単剤での有効性や安全性を検証して決められているため、組み合わせの中での用法用量とは異なってくることがあります。では組み合わせの中での薬剤の用法用量がどのように決められてくるかというと、薬剤が承認された後、各種臨床試験で決められてくるのですが、これは承認申請を目的としたGCPクオリティーでの試験ではないため、試験結果がエビデンスの確立に至っても、添付文書の改訂には必ずしも結びつかないことが勉強のしにくさの一因になっています。

今回はゼローダ(成分名:カペシタビン)を取り上げ、用量鑑査について確認したいと思います。
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まずは、添付文書の確認です。

ゼローダの【効能・効果】

○手術不能又は再発乳癌  >>A法又はB法
○結腸癌における術後補助化学療法  >>B法
○治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌  >>他の抗悪性腫瘍剤との併用でC法
○治癒切除不能な進行・再発の胃癌  >>白金製剤との併用でC法

【用法・用量】はA法、B法、C法の3つがあります。
体表面積  1回用量 
A法 3週投与1週休薬
体表面積にあわせて次の投与量を朝食後と夕食後30分以内に1日2回“21”日間連日経口投与し、その後7日間休薬する。これを1コースとして投与を繰り返す。
1.31m2未満  900mg 
1.31m2以上1.64m2未満  1,200mg 
1.64m2以上  1,500mg 

体表面積  1回用量 
B法   2週投与1週休薬
体表面積にあわせて次の投与量を朝食後と夕食後30分以内1日2回14日間連日経口投与し、その後7日間休薬する。これを1コースとして投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。
1.33m2未満  1,500mg 
1.33m2以上1.57m2未満  1,800mg 
1.57m2以上1.81m2未満  2,100mg 
1.81m2以上  2,400mg 

体表面積  1回用量 
C法   2週投与1週休薬
体表面積にあわせて次の投与量を朝食後と夕食後30分以内1日2回14日間連日経口投与し、その後7日間休薬する。これを1コースとして投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。
1.36m2未満  1,200mg 
1.36m2以上1.66m2未満  1,500mg 
1.66m2以上1.96m2未満  1,800mg 
1.96m2以上  2,100mg 


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では実際の実例処方を見てみましょう。


  一般外科 58歳 女性

      Rp1) タイケルブ(250mg)    5T
          1X就寝前     21日分

      Rp2) ゼローダ(300mg)     8T
          2X朝夕食後    14日分

□ タイケルブについて
タイケルブ(成分名:ラパチニブ)は乳癌に適応を持つ経口分子標的薬です。「効能又は効果」は「HER2過剰発現が確認された手術不能又は再発乳癌 」です。このタイケルブは原則としてゼローダと併用します。添付文書にも「本剤を単剤で使用した場合の有効性及び安全性は確立していない。 」とはっきり書かれています。しかし実際の臨床の現場では副作用などの問題で、単剤での処方をたまに散見します。
「用法及び用量」は「カペシタビンとの併用において、通常、成人にはラパチニブとして1250mgを1日1回食事の1時間以上前又は食後1時間以降に経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。 」です。タイケルブを食後に投与した場合、Cmax及びAUCが上昇するとの報告があるためです。食事の影響を避けるため食事の前後1時間以内の服用は避けます。併用が原則必須であるゼローダは食後投与ですが、タイケルブは食後投与は避けなければなりません。また1回5錠は多いと感じるかもしれませんが、添付文書通りの標準量です。

□タイケルブが処方されてることから、乳癌と特定できます。
乳癌に対してタイケルブとゼローダを組みあせて使うレジメンは以下の通りです。
タイケルブ 1250mg/日  day1-21
ゼローダ  1日2000mg/m2つまり1回1000mg/m2  day1-14



□ゼローダの投与量1クールにおける投与日数に注目してください。1回1000mg/m2ですから例えば体表面積が1.5m2だとすると1回1500mg(=5錠)です。一方添付文書上で乳癌に対する14日投与はB法で、1回1800mgです。体表面積から投与量を算出する際、添付文書を元に計算すると1回1800mgですが、レジメンで考えると1500mgと異なります。

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2つ目の実例処方です。

  消化器内科 70歳 女性

        RP1) ゼローダ(300mg)    10T
            2X朝夕食後   14日分

        Rp2) エルプラット注 180mg

治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌に対する「XELOXレジメン」と推測できます。このXELOXレジメンは無増悪生存期間と全生存期間が、標準治療のひとつであるFOLFOX4レジメン(5FU+l−ロイコボリン+オキザリプラチン)と同等で、副作用の発現も同程度であると報告されています。また、FOLFOX4レジメンは14日ごとに3剤を投与したあとに5FUを44時間持続静注するものですが、XELOXレジメンでは21日ごとに2時間の点滴で終了します。このように、経口の抗癌剤を用いるレジメンは従来の静注法よりも利便性に優れ、患者の身体的負担の軽減につながりますが、そのかわり確実な投与管理が求められます。





レジメン上のゼローダの用量は1回1000mg/m2です。例えば体表面積が1.5m2だとすると1回1500mgです。
一方、添付文書上で治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌に対するゼローダの用量は1回1500mgです【C法】。
この例では、レジメンベースで計算しても添付文書ベースで考えても、結果は同じとなります。



作成日2011年7月20日
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