クロミッド (成分名:クロミフェン)
〜添付文書だけではわからない 処方に対する疑義の実例
■排卵誘発の基礎
不妊の原因の約30%は、内分泌的原因による排卵障害であるといわれています。排卵誘発のためには、FSH(卵胞刺激ホルモン)製剤、hMG(ヒト閉経ゴナドトロピン)作用およびLH(黄体形成ホルモン)作用を有するhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)製剤を用いたゴナドトロピン療法などがあります。
不妊症の治療の場合、まず肥満やストレスなど排卵障害の原因として考えられる要因を除外します。
薬物治療としては、卵巣にたくさんの卵胞ができるのに排卵できない多嚢胞性卵巣症候群(以下、PCOS)や薬剤性、心因性、急激な体重減少などによる視床下部性無月経(エストロゲンの分泌が障害されている第2度の無月経を除く)の場合に第一選択となるのが、クロミフェンです。PCOSの中で肥満、耐糖能異常、インスリン抵抗性のある患者に対しては、メトホルミンが併用されます。実際は、これらに該当しない患者にも用いられることがあります。最近では、アロマターゼ阻害薬が排卵誘発目的で使用されることがあります(適応外)。
■クロミフェンの添付文書
効能又は効果
排卵障害に基づく不妊症の排卵誘発
用法及び用量
無排卵症の患者に対して本剤により排卵誘発を試みる場合には,まずGestagen,Estrogen testを必ず行って,消退性出血の出現を確認し,子宮性無月経を除外した後,経口投与を開始する。
通常,第1クール 1日クロミフェンクエン酸塩として50mg 5日間で開始し,第1クールで無効の場合は1日100mg 5日間に増量する。
用量・期間は1日100mg 5日間を限度とする。
■クロミッドの作用のしかた
クロミッドは生理を起こす為に処方されるものではなく、卵胞を育てて排卵を起こす為の薬です。
この薬の作用は、その性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモン)の分泌を増やすことです。十分な性腺刺激ホルモンにより卵胞が大きく育ち、排卵できるようになります。
なお、医師の判断で男性不妊症に応用されることがあります。この場合、性腺刺激ホルモンは睾丸に作用します。男性ホルモンの分泌がよくなり、精子形成の促進効果が期待できます。
正常状態では以下の順序をたどり排卵します。
1)まずGn-RHが間脳から出ます。
|
2)その作用によって、LHやFSHが分泌されます。
|
3)FSHにより、卵巣が刺激されて卵胞が育ち、卵胞からエストロゲンが分泌されます。
|
4)一定以上にエストロゲンが分泌されると間脳に働き、LHを大量に分泌しろという指令を出します。
|
5)LHサージと呼ばれる、LHの急激な上昇が起きて、排卵します。
|
6)その際にエストロゲンはこれ以上Gn-RHを分泌しなくても良いという指令も同時に出します。
|
しかし、この1)の機能が弱い場合には排卵が上手く起こらない場合があります。その際にクロミッドは6)の機能を阻害します。そうすると間脳はまだGn-RHをもっと出さなければと頑張り、結果としてFSHが多く出ることになるのです。要するに、クロミッドはエストロゲンと似た物質であり、間脳をだましてGn-RHの分泌を促すのです。
卵子の育成が充分なのに、排卵機能に問題がある場合は、hcgホルモン(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)注射を行います。
■治療効果
単一排卵が望めるということが、他のゴナドトロピン製剤に比べ良い点です。また、報告により異なりますが、排卵率が70〜80%程度と高いことも特徴です。一方で、妊娠率は排卵した症例の約20%と、低くなります。この原因は、クロミフェンが持つ抗エストロゲン作用によって、子宮内膜の菲薄化や頸管粘液減少が生じるためとされています。
■クロミッドの副作用
副作用は少ないほうですが、効きすぎると卵巣が腫れてくることがあります。もし、下腹部に張りや痛みを感じたら、すぐ医師に連絡してください。
そのほか、吐き気、頭痛、ほてり、いらいら感、倦怠感、目のかすみなどもみられます。視覚症状が強い場合、念のため目の検査が必要です
単一の排卵が期待できる薬剤ですが、多胎妊娠のリスクはあるので、医師が行うものですが、必ず患者にその旨説明しなければなりません。卵巣過剰刺激による副作用を回避するため、投与開始前および治療期間中に、医師は毎日内診を行うこととされています。
では、本題です!
疑義1. 生理後3日目から飲む? 5日目から飲む?
◎用法・用量
月経開始または消退出血2〜5日目から、5日間投与します。原則としてこのクールを3回繰り返します。
初めて飲んだ時は「生理始まって5日目から飲んで下さい」と言われ、別の時は「4日目から」と言われ、「今回は3日目から」と言われました。お医者さんにその違いをたずねたところ、3〜5日目ならどの日でもいいとの事でした。わたしも初めは確か1錠×3日からでした。
疑義2. 原則5日なのに、3日間しか処方されていない
「毎月左からしか排卵しないので、右に刺激をあたえてみようということで先生が3日間だけということでした。5日だと効き過ぎて卵がたくさんできてしまうからだと言ってました。」
疑義3. 1日100mgを越えても大丈夫?
添付文書上は、最初のクールは1日投与量を50mgとし、無効の場合2クール目を1日100mgとし、最大でも1日100mgを超えないようにすると記載されています。これは、卵巣異常腫大や卵巣嚢腫が、1日50〜75mgの投与ではまれであるのに対し、1日100mg〜200mgの投与で多くなるという、用量依存性が認められたためです。しかし実際には、1日150mgまで使用されています。
「私の場合は最初は2錠×5日間でした。しばらく飲んで排卵しなくなったので3錠に増やされました。」
疑義4. 男性にクロミッドが処方された
■男性不妊症への使用
クロミフェンを男性不妊症に用いることがあります。男性に少量を投与すると、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)分泌を促します。このことにより、精子形成が改善されます。クロミフェン半錠(25mg)を25日間投与し、5日間休薬します。
作成日2012年12月12日