イリノテカンによる下痢の原因、予防方法、治療方法
今まで、自分で勉強しても理解しやすい内容だったため、あえてこのHPでは取り上げてこなかった内容です。しかし、「半夏瀉心湯」とビオフェルミンが処方されている処方の危険性を本日見抜けなかった自己反省として、今回まとめてみました。
【原因】
・イリノテカンによる下痢には、投与してから24時間以内の早期に現れるものと、その後に認められる遅発性下痢があります。
・前者(急性の下痢)はコリン作動性の下痢と考えられ、抗コリン薬(ブスコパンなど)が有効であり、長時間は継続しません。
・遅発性下痢は、イリノテカンの活性代謝物SN-38自身による腸管粘膜の障害で、軽症の場合は分泌性下痢ですが、重症では腸粘膜障害性の下痢となります。
【予防方法】
まず、イリノテカンの代謝について説明します。
@点滴静注されたイリノテカンはプロドラックであり、肝カルボキシルエステラーゼにより活性代謝物SN38になる。
ASN38はUDPグルクロン酸転移酵素(UGT)により、非活性体SN38-グルクロン酸抱合体(SN38G)になる。
B胆汁排泄されたSN38Gは腸内細菌のβ-グルクロニダーゼによりSN38に再代謝される。
CSN38は腸管より再吸収され体内に戻る(腸肝循環)
このSN38が腸管粘膜を刺激し下痢を引き起こします。
「半夏瀉心湯」は、β-グルクロニダーゼを阻害するバイカリン含有し、イリノテカンによる遅発性の下痢に有効とされています。
参考処方例 |
ビオフェルミンのような整腸剤は腸内を酸性化し、SN38の排泄を遅らせるので一般的にイリノテカンによる下痢の際に使用することは少ないです。
酸性食品(乳酸菌飲料など)も控えたほうがいいと言われています。
・胆汁と腸管内腔をアルカリ側に傾けることで、細胞傷害性の強いSN-38の腸上皮による再吸収を抑え、上皮障害を軽減させることができます。実際に、「経口アルカリ化と排便コントロール」と呼ばれる副作用防止法が開発されています。
・その他の予防法として、大腸細菌由来のβ-グルクロニダーゼが非活性型SN-38Gを活性化型SN-38に再変換することから、腸管滅菌を行う方法等が行われています。
参考処方例 「経口アルカリ化と排便コントロール」と腸管滅菌 |
参考処方例 [処 方] 投与方法: CPT-11投与日より4日間連日投与
アルカリ飲料水(pH 7以上)の飲用 1000〜1500ml/日(200〜250mlを1日6回
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【治療方法】
遅発性下痢発症時は、ロペラミド塩酸塩などの止痢薬が投与されます。
参考処方例 高用量ロペラミド療法[Dany Abigerges et al: J Natl. Cancer Inst., 86(6), 446, 1994] [方法] CPT-11投与後12時間以降に発現した下痢に対して、塩基ロペラミドを最初4rを経口投与し、その後2rを2時間毎(夜間は4rを4時間毎)に12時間後まで経口投与 |
軽快しない場合や発熱や血便を有する重度の下痢では入院治療を行います。腸管麻痺を引き起こすことがあるので、ロペラミド塩酸塩等の予防投与や、漫然とした投与は行いません。
http://www.dofmet.umin.jp/clinical_test/related/pdf/cp/cp_atc3.pdf(一部引用)
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