統合失調症の症状の表れ方は人によって異なりますが、典型的な経過としては
 前兆気 →急性期 →休息期 →回復期
の4段階が1つのサイクルとなります。急性期はおよの2週〜3ヶ月で、全経過は6ヶ月〜1年(1年半)です。急性期は陽性症状がメインで、慢性期は陰性症状が起こりやすいと言われます。

一度再発すると、再発しやすくなります。再発を繰り返すたびに陰性症状、能力障害が増加し、休息期・回復期が長引くと言われています。
症状が安定しても抗精神病薬の服薬を続けるのは、再発を防ぎ、さらなる病状の悪化・進行を防ぐために必要なのです。

日本では、1996年に最初の非定型抗精神病薬(第二世代抗精神病薬、SGA
( second generation antipsychotics)、新規抗精神病薬)としてリスペリドンが登場し、2001年にはクエチアピン、ペロスピロン、オランザピンが、2006年にはアリピプラゾールが上市され、欧米並みのラインアップとなりました。2008年にはブロナンセリンが加わり、現在、日本で使用可能な非定型抗精神病薬は6つあります。近い将来あのクロザピンも使用できる日も近いようです。

ただ、長期予後の改善に関して言えば、例えば自殺率が10%であること、通常就労が可能となったのが2割弱、再発率や再入院率についてもさしたる前進がなかったことから、効果の面ではまだまだ不十分であると結論づけざるを得ないでしょう。また、EPSや便秘のような副作用は抑えられつつある代わりに、SGAが登場してから体重増加、血糖上昇などメタボリック問題が新たに浮上し、それらの定期的なモニターが必要になってきています。

リスパダール
日本で最初に市販された非定型抗精神病薬です。1996年から錠剤が上市され発売当初からものすごい勢いで処方されていました。市販後の臨床試験の積み重ねにより2001年には維持量の最高用量が8mgから6mgに減量されました。2002年には内服液も加わりました。この液はものすごく苦いため、薄めて飲むようにと書かれた説明書を付けて調剤します。説明書には紅茶、ウーロン茶、日本茶、コーラと混合すると含量が低下するため、避けることも書かれています。

血中半減期は約20時間です。脳内での半減期はさらに長いとも言われています。PK的には12回ではなく11回投与でもよさそうですが、発売当初、起立性低血圧が懸念されたため12回投与が推奨されたようです。



ポイント1
添付文書の用量と、臨床での使用実態が一致していないことがある
〜リスパダールの臨床で使用される用量について知っておく。
 (1)開始時  (2)急性期・維持期


この患者のkey drugと思われるリスパダール錠について,

(1)開始時 と(2)急性期・維持期 に分けてその薬用量考えていきましょう。

【リスパダール錠の添付文書より】
通常、成人にはリスペリドンとして11mg12回より始め、徐々に増量する。維持量は通常126mgを原則として12回に分けて経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。但し、1日量は12mgをこえないこと

(1)開始時
添付文書上の開始用量は2mgです。海外のガイドラインでは初発例には0.5-1mg、再発例には1-2mg程度から開始するとされています。6年近く調剤から離れてしまっており,日本での開始用量の実態を私は知りません。いずれ勉強して理解するようにしたいと思います。まず、開始用量も添付文書の量より少ないかも,ということをお伝えします。


当院の処方履歴からみた、この患者の開始用量は6mgでした。
当院での薬歴(赤字:処方変更)

2008.7(初診)〜

リスパダール錠(1mg

6T 3Xnde 35日分 
    →T 65日分
        →5T 49日分
            →5T 46日分

アキネトン錠(1mg

3T 3Xnde 35日分
    →2T 65日分
        →2T 49日分

            →2T 46日分

セロクエル錠(100mg

2T 2XM.A 35日分
    →2T 65日分
        →2T 49日分
            →2T 46日分

考えられる処方背景は,以下のようになります。

・初発)6mgで治療を開始した
・初発)急性期治療で,速やかに症状を抑えるためLoading dose法を行っている

・再発)他院で既に投薬を受けていて,症状悪化のため当院外来を受診


<高用量6mgで治療を開始した可能性が低いことについて>
起立性低血圧が現れることがあるため、添文でも「徐々に増量する」と書いてあります。いきなり6mgを投与する可能性は非常に低いと思います。

<急性期におけるリスパダール錠のLoadingについて>
いち早く効果を得たいときにLoadingが行われることがあります。抗精神病薬の中ではリスパダール”液”を中心に、精神科救急の現場でLoadingが行われることがあるようです。SGAが登場する前はコントミン筋注が使用されていたようですが、
リスパダール液は血中濃度の立ち上がりが早く、コントミン筋注と同等の即効性を有しています。

しかし、治療初期から高用量を用いれば、EPAなどの副作用発現リスクが高くなります。統合失調症の治療は長期に渡りますから、いかに患者が薬に対して拒絶感を持たないようにし、アドヒランスを高めることが必要です。よって、抗精神病薬のLoadingは安易にで行われる治療方法ではないと思います。
(参考)抗血小板薬のLoadingは広く臨床で行われていますので、この機会に勉強しておくといいでしょう。


ポイント2
抗精神病薬の効果発現時期について理解する

抗精神病薬の評価は、多くの治療ガイドラインで少なくとも4週間、長くて10週間の評価期間をおくことを推奨しています。抗幻覚妄想効果は投与開始後1-2週間して現れ、十分な効果を認めるまでには少なくとも4週間以上を要します。

急速な鎮静が必要であればBZP系の薬剤を併用するなど、他の手段を考慮するという考えが現在の主流であるようです。統合失調症の治療は抗精神病薬だけで治療するのではなく,患者の症状に合わせて,抗不安作用や睡眠作用を狙ったBZP系薬剤の併用や,気分安定薬や抗うつ薬の併用が行われています。
(補足)統合失調症の治療として、抗精神病薬にデパケン、テグレトール、リーマスなどの気分安定薬が併用されることがあります。気分安定薬を用いることで情動の安定化をはかると、抗精神病薬のターゲット症状である思考障害の改善が得られやすくなる可能性があると説明されています。抗精神病薬に気分安定薬を加えることの有用性はあるかもしれませんが、エビデンスとして確立されているわけではありません。

<他院で既に投薬を受けていて,症状悪化のため当院外来を受診した可能性について>
精神科での臨床経験が全くないものですから自信はありませんが、開始用量から考えると、既に他院でリスパダールの投与を受けていた可能性が高いと推測します。

(2)急性期・維持期
副作用の発現を最小限に抑え,抗精神病作用を引き出せる治療域は,年々低用量化してきており,維持治療で用いるリスパダール錠の用量は現在2〜4mgであると考えられています。
そして4mgを超えると有効性も期待できますが,副作用発現のリスクも高くなり,有効性と安全性のバランスが崩れていくようです。6mgまでは有効性が増すことのメリットが副作用リスクを上回るようです。


添付文書の記載では12mgまで使用できることになっていますが,6mgを超えますと副作用発現のデメリットが有効性のメリットを下回り,リスパダールの持ち味が失われてしまいますので臨床の現場では6mgまでの使用となっているのが実態です。

第二世代抗精神病薬による維持治療についての検討は未だ十分でなく、特に「最低維持投与量」についてはよくわかっていませんが、リスパダールにおいては3mg程度あるいはそれ以下の用量で維持治療ができる可能性があると言われています。



ポイント3
急性期治療から維持治療への移行の仕方について理解する。

6mgという投与量から考えて急性期〜維持治療への移行中であると考えられます。維持期への移行の仕方ですが,急性期を過ぎた後も 6ヶ月は同じ用量で治療を続け、その後に6ヶ月ごとに約20%ずつ減量する方法があります。

これが絶対的な方法というわけではありませんが、抗精神病薬の維持療法への移行はかなりゆっくりと行われるということです。プレドニンのtaperingが数日単位で行われていくのとは対照的であり,漸減方法も薬剤により様々ということに注意してください。
(補足)投与開始時の漸増の方法については情報が乏しいのですが,リスパダール0.5mg/週の増量ペースがEPSや起立性低血圧の出現防止の観点から望ましいと書かれている本があります。漸減よりペースが速いです。

アキネトン

ポイント4
リスパダールの副作用と対処方法について理解する
(1)ドパミン受容体遮断による主作用・副作用を、脳内の4つの経路に分けて理解する
(2)錐体外路症状の主な種類と対処方法について理解する
(3)錐体外路症状に対する、抗コリン性パーキンソン薬の適正使用について理解する
(4)錐体外路症状以外の副作用について

リスパダールが高用量(6mg)であることから, アキネトンはEPSに対する処方であったと考えます。予防投与なのか,症状が発現していての治療が目的なのかは不明です。

(1)ドパミン受容体遮断に基づく主作用・副作用を、脳内の4つの経路に分けて理解する
統合失調症の治療薬は、D2受容体遮断作用をコンセプトにして開発されてきました。しかし、ドーパミン神経を遮断してしまうことが、抗精神病薬の薬理作用であり、副作用でもあります。FGAでは特にドパミン受容体遮断による錐体外路症状 [extrapyramidal symptoms(EPS)]が問題とされてきました。

脳内ドパミン経路は4つあることが知られています。この4つの神経経路に分けて効果と副作用を整理しましょう。中脳辺縁系“以外”に作用した薬剤の D2受容体遮断作用は、副作用の原因となります。



@ 中脳―辺縁系  陽性症状の改善
A 
中脳―皮質系  陰性症状を悪化させる恐れ
B 黒質―線条体系 錐体外路症状
C 視床下部    高プロラクチン血症

SGAの副作用が軽減されている理由】
従来の定型抗精神病薬では、陰性症状に十分な効果を発揮することができず、悪化させる場合もあると言われます。また,特に問題であったのがEPSなどの副作用が多いことでした。SGAでは陰性症状の改善作用があり,EPSの発現頻度が低いと言われています。理由は何でしょうか。

理由1) 皮質系,線条体系へ選択的な5HT2受容体遮断作用
SDAD2受容体遮断作用と、5HT2受容体遮断作用を併せもちます。セロトニン作動性神経はA皮質系およびB線条体系へ投射しており、5HT2受容体を介してドパミンの遊離を抑制しているため、5HT2受容体遮断作用はドパミンの遊離を促進することになります。リスペリドンは D2受容体遮断作用 < 5HT2受容体遮断作用 であり、陰性症状の悪化がなく、EPSの発現を抑えられると説明されています。
なお、@辺縁系ではセロトニン作動性神経の関与は軽微であり、陽性症状に対する作用の減弱は起こらないとされています。

理由2)受容体へのくっつき方・占有率から
EPSなどの副作用の発現を最小限に抑え治療効果を得るためには、線条体におけるD2受容体の占拠率が6580%であることと言われています。80%を超えると副作用が発現しやすくなります。SGAD2受容体に対する結合の仕方は異なっており、副作用の発現頻度に大きく影響しています。

リスパダール D2受容体に強く、かつ持続的に結合
ルーラン   結合は強いが、一過性
セロクエル  結合が緩く、かつ一過性

ジプレキサ  結合が緩いが持続的

セロクエルは緩く結合してすぐに離れてしまうので、全然仕事をしていないように見えますが、抗精神作用としては十分のようです。持続的に結合することが必ずしも必要というわけではないようです。

(2)錐体外路症状の主な種類と対処方法について理解する
投与開始後早期に現れる急性の錐体外路症状と、長期投与で出現する遅発性の錐体外路症状があります。抗精神病薬服用者の5070%に認められると言われています。

急性

遅発性

アカシジア
パーキンソニズム
急性ジストニア

遅発性ジスキネジア


アカシジア(静座不能症)

症状

「じっとしていられない、足がムズムズする」などの異常な感覚を自覚し、不眠、不安、焦燥感を伴うことが多く、精神症状との鑑別が必要です。

発症時期
発現頻度

治療開始後312週で出現しやすい
頻度は3040%程度

発症しやすい人 

中年、女性
第二世代抗精神病薬でも他のEPSに比して出現しやすい

対処方法

アカシジアの病態は未だ充分解明されていません。抗パーキンソン病薬が効きにくいと言われ,BZP系が使用されます。なぜ、BZP系薬剤が効果を示すのかは明らかにされていません。
@可能であれば抗精神病薬の減量
Aロラゼパム(ワイパックス)やクロナゼパム(リボトリール)などのベンゾジアゼピン系薬物
Bミケランなどのβ遮断薬
C抗コリン薬を必要最小限投与します。
D改善しない場合には、薬物の変更(低力価薬や非定型薬)を試みます。


パーキンソニズム

症状

筋固縮、振戦、無動(アキネジア)を3徴候とする。すべてが揃うことは少なく無動→固縮→振戦の順で発現することが多い。無動は陰性症状と抑うつ症状との鑑別が必要。

発症時期
発現頻度

抗精神病薬開始後約410週が発現のピーク
従来型の抗精神病薬服用者の発現頻度は2030%程度

発症しやすい人 

高齢者、女性、非喫煙者
セレネースのような高力価群の薬では、EPSがほぼ必発

対処方法 

高力価群の薬では抗コリン性のパーキンソン病(PD)治療薬の併用もやむおえません。しかし、非定型抗精神病薬ではEPSが生じたときに頓用する程度で足ります。予防投与はできるだけ行いません。

急性ジストニア

症状

急性ジストニアは、眼球上転(黒目が意思とは無関係に上を向いてしまう)、舌・頸部・体幹のねじれや突っ張りが特徴的である。

発症時期

発現頻度

・抗精神病薬を開始して数時間から数日の間にもっとも起こりやすい。日内変動あり、午後、特に夕方に起こりやすい
・頻度は10%前後

発症しやすい人 

30歳より若い男性での筋肉内注射で生じやすい。

対処方法 

抗コリン薬(ビペリデン)の筋注“劇的に”改善するといわれている。ベンゾジアゼピン(ジアゼパム)の静注も有効。急性ジストニアの起こるリスクの高い場合、抗コリン性パーキンソン薬の予防投与が検討されることはあります。

遅発性ジスキネジア

症状

口唇や舌をモグモグ動かすような口周囲の不随意運動がほとんどである。

発症時期
発現頻度

累積発症率は1年で5%、2年で10%、3年で15%、4年で19%。

発症しやすい人 

従来型抗精神病薬の長期服用中の患者に認められる。
高齢女性に多い。

対処方法 

根治的治療法はない。そのため予防に力を注ぐ。
抗精神病薬の減量や非定型薬への切り替えが推奨される。
抗精神病薬を減量・中止しても症状は持続し、抗パーキンソン病薬を投与しても症状が軽減しない場合がある。
抗コリン薬は、逆にジスキネジアを悪化させるとも言われる。



(3)錐体外路症状に対する、抗コリン性のパーキンソン薬の適正使用について理解する
一言でEPSと言っても,パーキンソニズムや急性ジストニアに対しては抗コリン性パーキンソンの効果が期待できるが,アカシジアや遅発性ジスキネジアには効きにくい・効かないことを理解します。

黒質線条体系の“D2”受容体を遮断して起こるEPSに対し、何故“抗コリン性”パーキンソン薬を投与するのでしょうか?それは、脳内のドーパミンとアセチルコリンの“バランス”が崩れることが原因と考えられているからです。なお,アーテンやアキネトンは、現在PDの治療に関しては補助的な役割となっています。

1)予防投与は必要か?
副作用に対する薬剤の投与は、
副作用の原因となる薬物を開始すると同時に予防投与を開始する場合と、
副作用が発現するまで予防投与をできるだけ行わない場合があります。
抗精神病薬のEPSに対する抗コリン性パーキンソン薬の投与は基本的に後者で行われます。
EPSが発現したときは、まず抗精神病薬の減量や、他薬への変更を検討し、それでもだめならパーキンソン薬を投与します。使用を開始してからも、漫然と投与を継続せず、止め時を見計らうことも重要です。

 【抗コリン性パーキンソン薬の悪い点】
・抗パーキンソン薬自体に副作用がある
   〜統合失調症の症状に対する副作用としては、用量依存的に認知機能障害、特に記憶障害や注意機能を低    下させる可能性がある
・乱用や依存のリスク(抗コリン薬には気分高揚作用や多幸感を生じせることがある)
・長期投与により遅発性ジスキネジアを惹起しやすくする可能性


抗コリン性パーキンソン薬による記憶障害は可逆的で、投与中止により改善します。1年以上にわたり薬剤を投与されていても、中止10日後には記憶機能の改善が示された報告もあります。通常の使用量だと、約10%程度の認知機能の低下があるとも言われています。

アーテンやアキネトンが使用できない場合、ピレチアも選択肢の一つになります。ただし、アキネトンなどに比べEPSに対する作用は弱いと言われています。


【アーテンとアキネトンの使い分けについて】
結論を先に言えば、大差はないと言えます。
アキネトンは1日1回の投与でも可です。アキネトンには注射がありますがアーテンにはありません。

アキネトンはアーテンより線条体にあるM1受容体に対する選択性が高く、心筋や骨格筋にあるM2受容体、腸管平滑筋にあるM3受容体を介する末梢性の副作用が少ない可能性があるといわれています。しかし結局のところ臨床的な差はないということです。

(補足1)錐体外路症状を起こす可能性のある薬剤を「ポケット医薬品集」で確認しておきましょう。

(補足2薬物療法の評価には、バリデートされた評価方法があることを知る
薬物療法のプランを立てたあとそれを実行しますが、その後の正確な評価が必要です。SOAPAAssessment)です。便秘に対し便通があった・なかったという簡単な評価方法できるもののほかに、EPSに対してはより専門性の高いバリデートされた評価方法があることを知り、場合によっては使えるようにすることが中堅以上の薬剤師に求められます。


( Subjective )

患者が直接提供する副作用症状など薬に関する
訴えや相談事項


( Objective )

現在の患者と薬物療法の実態: 
使用薬剤、投与時間、投与量、血中濃度値
主要検査値、既往歴、血圧、脈拍など


( Assessment or Answer )

薬剤師としての評価・回答: 
患者の訴えや相談事項と薬剤との関連投与方法の
適否患者への回答・指導など


( Plan )

薬物療法のプランニング: 
医師や看護婦への問題点のフィードバック
患者指導計画、副作用の予測、
TDMに基づく治療計画 

今は薬剤師としての基礎を固める時期ですから、評価ツールの名前を1つだけ紹介しておきます。

評価項目

評価方法

備考

薬原性錐体外路症状

薬原性錐体外路症状評価尺度DIEPSSDrug Induced Extrapyramidal Symptoms Scales

熟練した技術が必要

米国の精神科領域の薬剤師はすでにこの評価尺度を用いてルーチン的に副作用の評価を行っているそうです。

なお、既に解説を終えたうつ病やクローン病にもバリデートされた評価ツールがあるのですが、時期尚早と考えたため説明を一切省略しています。

(4)EPS以外の副作用について
抗精神病薬は、ドパミン受容体遮断作用以外にも、様々な作用を有する。なぜか抗うつ薬と似ています。

抗コリン作用

便秘、排尿困難、口渇、視力調節障害、

抗α1作用

起立性低血圧、性機能障害

H1作用

鎮静、体重増加

高プロラクチン血症

リスパダールは副作用が少ないと言われる中で上市されましたが、SGAの中でも受容体の結合が強く持続的でありEPSなどの副作用が出やすい薬剤です。また、リスパダールはFGAと同等あるいはそれ以上に高プロラクチン血症を起こしやすいと言われています。

ほんの数年前まで、抗精神病薬による高プロラクチン血症は軽視されていたようです。無月経がなければ、とりわけプロラクチンを検査しなくても良いという感じであったとも言われています。

なぜ、高プロラクチン血症がいけないのか説明できるでしょうか?男性では勃起障害を引き起こしたり,女性では月経不全等の原因になることは知っていると思います。そのほか、高プロラクチンが長期にわたるとエストロゲンの分泌を抑制して骨粗鬆症を招く可能性が示唆されており、さらに、心血管系の病変や、女性の場合は乳癌や子宮内膜症が多くなるといわれています。統合失調症の治療薬は長期間の服薬が必要となるため、このような長期に渡る体への影響も考慮すべきと思います。

リスペリドンが原因の性機能障害は男性においては用量依存性であるのに対し,女性にそれは当てはまらないというデータがあるようです。女性患者における無月経が1mg/日の用量でも発現することは良く知られているとのことです。つまり,減量しても女性の高プロラクチン血症は改善しないということがわかります。全ての副作用について言える事ですが,副作用は,用量依存性の副作用と,非用量依存性の副作用に分けて理解することが大切です。

取りうる対処法としては,
@減薬(←男性の場合),休薬日を設ける,
A性機能障害を引き起こす可能性の低い他剤への変更
が考えられます。
それでもダメなら薬物治療としてはパーロデルなどが考えられますが,精神症状の悪化を招くこともあり,導入は慎重であるべきでしょう。漢方薬である芍薬甘草湯を使用することもあるようです。

セロクエル
(セロクエル錠の添付文書より)
「通常、成人にはクエチアピンとして125mg12又は3回より投与を開始し、患者の状態に応じて徐々に増量する。通常、1日投与量は150600mgとし、2又は3回に分けて経口投与する。なお、投与量は年齢・症状により適宜増減する。ただし、1日量として750mgを超えないこと。」

セロクエルは非常に薬用量の幅が広い薬であることがわかります。

この患者の当院処方上の開始用量は200mgです。
・初発)200mgで治療を開始した
・初発)急性期治療で,速やかに症状を抑えるためloading dose法を行っている
・再発)他院で既に投薬を受けていて,症状悪化のため当院外来を受診

徐々に増量する,ことが基本なので200mgでいきなり治療を開始した可能性は低いです。
通常、1日投与量は150600mg だから,Loadingの投与量としては少ないと思われます。
結局,再発)他院で既に投薬を受けていて,症状悪化のため当院外来を受診,が可能性として一番高いです。


ポイント5
添非定型抗精神病薬の中で、セロクエルの位置づけを効果の強さと副作用に分けて理解する。


(1)効果
全ての抗精神病薬の中で最もD2受容体親和性が弱く、一度D2受容体に結合しても速やかに解離し、現在発売されている抗精神病薬の中で最もEPSの頻度が低く、高プロラクチン血症も呈しにくいとされています。その代わり抗精神病作用もマイルドな感じです。
統合失調症の症状が軽く、副作用の少ない薬剤を求める患者にはセロクエルはお勧めです。
陽性症状が激しい人は向きません。

維持期治療には最適な薬剤の一つと言えますが、再発予防や急性憎悪時の使用方法については検討中のようです。

(2)副作用
副作用が少なく、高い服薬アドヒランスが得られやすいです。

EPS

遅発性ジスキネジア

高プロラクチン血症

体重増加

糖代謝異常

高脂質血症

QTc延長

過鎮静

低血圧

抗コリン性副作用

セレネース

+++

+++

0

0

0

++

0

0

リスパダール

+++

++

++

++

0

ジプレキサ

0

.0

+++

+++

+++

0

++

セロクエル

0

0

++

++

++

0

++

++

0

エビリファイ

0

0

0

0

0

0

0

0

セロクエルは糖尿病の既往歴のある患者に禁忌であることは有名すぎて書く必要が無いでしょう。
糖尿病の家族歴があったり、境界型糖尿病であったり、肥満や高脂質血症がある場合でも、慎重投与となります。

SGA投与開始後6ヶ月以内に糖尿病発症が多いとのことです。
(補足)意外な薬が血糖を上昇させることがあります。NQです。血糖を上昇させる可能性のある薬剤を「ポケット医薬品集」でまとめておきましょう。


ポイント6
抗非定型抗精神病薬の併用について考える。


<定型抗精神病薬>
定型抗精神病薬しか使えなかった時には、抗精神病薬を、幻覚・妄想に強い治療作用を示す高力価抗精神病薬(ハロペリドールなど)、鎮静作用の強い低力価抗精神病薬(レボメプロマジンなど)、いわゆる賦活作用を有する薬物(スルピリドなど)の3群にわけ、患者の症状によってこれら3群の薬を使い分けたり組み合わせたりするという多剤併用を正当化する理論がありました。定型抗精神病薬では高力価薬と低力価薬の組み合わせは海外でも行われており、特に不穏や不眠を伴う症例において臨床的有用性も高いと思われます。

<非定型抗精神病薬>
第二世代抗精神病薬が併用されていることを、どのように捕らえたらいいのでしょうか?
2005
年度に日本で行われたある2つの大規模調査で、入院および外来とも15%の患者でSGA同士の併用投与がされているとされています。

現時点で、SGA同士を併用することの有効性について、DBTにより証明されたことはありません。SGA同士の併用は、他の治療法がすべて無効であった時に行うもので、早い段階で行う治療とはいえないというのが現在の一般的な認識と思います。SGA同士の併用は、TMAP統合失調症治療アルゴリズムでも「stage 6」という最終ステージ?で初めてでてくる治療法です。



ポイント7
スイッチング(切り替え)の方法について理解する。

有効性が十分ではない、副作用が出ているなどの理由で、他の抗精神病薬への切り替え(=スイッチング)を行うことがあります。スイッチングの方法は主に8つに大別できます。
(1)   前薬をスパッとやめるか?徐々に漸減して中止するか?
(2)   新たに追加する薬剤を十分量で開始するか?漸増するか?
(3)    前薬と新たな薬剤を併用する期間があるか、ないか?
2x2x28通りというわけです。臨床の場で主に使用されているスイッチングのパターンは次の3通りです。

スイッチングにおける重複投与期間は数週間〜数ヶ月で完了します。症状が安定しない場合はこれより長くなることはないと考えます。なぜなら,数ヶ月経っても新たに追加した薬剤の効果がないということを示していると考えるからです。
この患者は4ヶ月間同じ用量で維持しているのでスイッチングのオーバーラップ期間としては長すぎます。
(復習)ポイント2抗精神病薬の効果発現時期について理解する

抗精神病薬の評価は、多くの治療ガイドラインで少なくとも4週間、長くて10週間の観察期間をおくことを推奨しています。抗精神病薬による抗幻覚妄想効果は投与開始後1-2週間して現れ、十分な効果を認めるまでに少なくとも4週間以上を要すると考えられます。

EPSの出現、幻覚の消失ができないなどの理由から、切り替え途中で症状が安定した場合、併用処方のまま経過をみるとする症例報告を見ることもありますの,その可能性はあるかもしれません。

セロクエルの投与量は200mgと少なめであり、また抗精神病作用の強さは一般的にリスパダール>セロクエルであることを考えると、メインの薬剤はリスパダールで、今ひとつ足りない効果を副作用の少ないセロクエルで補っているという感じがします。

セロクエルは,「抗精神病作用に加え,認知機能やうつに対する効果が期待され・・・」と今日の治療薬に書かれているように,抗精神病作用以外の作用を期待してリスパダールに上乗せされている可能性が一番高いと考えます。

ポイント8
漸減の必要性について理解する


退薬症候(離脱症状・リバウンド)の出現に中止します。
D2-Rの遮断解除、mAch-Rの遮断解除、H1-R遮断解除は、抗精神病作用の悪化、不眠・EPSの悪化、不眠を引き起こす可能性があります。抗精神病薬だけの退薬症候だけではなく、副作用のために使用されている抗コリン性パーキンソン薬の退薬症候にも注意します。

ポイント9
抗精神病薬はいつまで飲み続けるのか?
症状が悪化したときだけ薬の飲めばいいのか?(=間欠投与の有効性は)
について患者に説明できるようにする

ガイドラインに提示されている考え方を2つ紹介します。薬は飲み続けなければならない,なかなかやめることはできない,というのが現状です。

米国精神医学会治療ガイドライン(2004年)
寛解した初発エピソード患者ないし複数エピソードを持つ患者に対する最も慎重な治療選択肢は @永久に治療を続ける A薬物治療で症状の寛解あるいは最適な反応が1年続いた後に服薬を中止する。ただし、中止後も密接なフォローアップが必要。 B間欠的標的療法と比べ、維持療法の方が再発が少ない C永続的な抗精神病薬の維持療法は、既に複数のエピソードを持っている患者、または5年以内に2回のエピソードを持っている患者に対して推奨される

日本「精神医学講座担当者会議 統合失調症治療ガイドライン(2004年)」
@初発エピソードで寛解に至った場合は12ないし24ヶ月間維持して、漸減中止する。 A再発エピソードが2回以上みられたり、症状が持続する場合にはさらに長期にわたって維持する。2回以上の再発エピソードでも3年にわたって再発がなければ漸減中止を推奨する報告もある。頻回の再発エピソードがあるときは、生涯にわたる長期間の服薬継続が必要である。B間欠的投与に関しては (1)初回エピソードだけの場合を除き、複数の再発エピソードを経験している患者には早期徴候だけを標的にする間欠的な薬物治療は勧められない (2)初回エピソードでは間欠的な薬物療法や低用量の維持療法は否定されていない。

最後に・・・
SGAの中からの薬剤選択の考え方>
現在、統合失調症のすべてのガイドラインで第一選択はSGAであることは間違いありません。SGA単剤の有効性・安全性の比較は、まだ十分に行われていません。現時点では、SGAの中でどの薬剤を選択するかは“何に着目するか?=目の前の患者にとって何を優先にして薬を選ぶのか”が重要なポイントになります。今後,枠内の項目を常に意識しながら勉強を進めていくことが、SGAを使いこなせるようになるための“コツ”だと思います。

 <私が考えるSGAを理解するためのポイント>
・初発/再発,急性期/維持治療期の用法用量,
・有効性に関する比較
・服薬継続期間に関する優劣
・副作用プロファイルの比較
・認知機能への影響

抗精神病薬の等価換算について
スイッチング時の力価換算や
多剤併用に必要以上の用量の薬剤が投与されていないかを見るために利用します。

いくつかの薬剤について例示します。

定型抗精神病薬 非定型抗精神病薬
A群:高力価群 B群:低力価群 C群:異型群 SDA MARTA
セレネース2mg コントミン100mg スルピリド200mg リスパダール1mg セロクエル66mg
PZC10mg レボトミン100mg

作成日:2009年1月30日

実例処方10の解説

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