卵巣がんのStaging
TMN分類(←各がん種で規定されている)
FIGO分類(←卵巣がん)
※FIGOは,国際産科婦人科連合(International
Federation of Gynecology and Obstetrics)のことであり,この組織によって分類されたものがFIGO分類です。
卵巣がんのStageは、W期で腹腔外に病変があり組織診断がつけられる場合を除いて、通常は開腹所見によって決定されます。
Gradeとは、「組織学的分化度」を表します。あまり聞きなれない言葉かもしれません。ドクターが「がんの顔つきがいい」とか「性質がおとなしい」とか「たちがいい」とか言うことがありますが、そのことです。
卵巣がんの組織分化度はGrade1-3の3つに分けられています。
卵巣がんの初回化学療法のファーストラインはTC療法です。数年前まではTJ療法と言われていました。「J」はパラプラチン(成分名:カルボプラチン CBDCA)の開発コード『JM-8』から来ている思われます。当院オーダリングシステム上では施行回数(=サイクル数)のチェックはできませんので、薬剤部で患者ごとに治療歴を管理し、チェックする必要があります。
【TC療法】 q3w 3〜6コース パクリタキセル 180mg/m2 DAY1 パラプラチン (GFR+25)xTarget AUC DAY1 AUC=5-6 GFRはCcrで代用する |
パラプラチン
パラプラチン(成分名:カルボプラチン CBDCA)は第二世代のプラチナ系抗がん剤であり、シスプラチンと比べると悪心・嘔吐や腎障害は軽くなったものの、血液毒性、特に血小板減少が強くなっています。一方、抗腫瘍活性はシスプラチンとほぼ同じとされています。
臨床試験で有用性が確認されていないかぎり、シスプラチンをカルボプラチンに安易に置き換えることはできません。
■TC(タキソール+パラプラチン)ver TP(タキソール+シスプラチン)の比較試験
エンドポイント(OS、PFS)の解釈 →「ワンポイント15」を参照
算出方法 | 薬剤例 |
/m2 | ほとんどの抗がん剤 (*1) |
GFR | カルボプラチンだけ |
/kg | ハーセプチンだけ(?) |
/body | 精巣腫瘍に対するBEP療法のブレオマイシン ステロイド (1)NHLに対する(R-)CHOP療法のプレドニン錠(*2) (2)NHLに対するESHAP療法のソルメルコート注(メチルプレドニゾロン) 悪性黒色腫に対するDAV-Feron療法のフェロン注(IFN-β) 各種ホルモン剤 アリミデックス錠、カソデックス錠 分子標的薬 グリベック錠、イレッサ錠、タルセバ錠 経口抗がん剤 ユーエフティーカプセル、フルツロン |
*1 非ホジキンリンパ腫に対するCHOP療法におけるオンコビン(成分名:ビンクリスチン VCR)の投与量は1.4mg/m2だが、上限が2mg/dayと決められています。つまり、少し体の大きい人だと簡単に上限を超えてしまうということになります。当院では2mgを超える処方が入力されるとシステム的にロックがかかります。
*2 よくプレドニン5mg 20錠/日の処方が出ますが、(R-)CHOP療法の処方です。細胞をアポトーシスに導き、自滅させる作用があります。
Rp) プレソニン(5mg) 20錠
■カルボプラチンの投与量算出式 :カルバートの式
大学で習う ”投与量(i.v.)=全身クリアランス x AUC”という有名な式があります。臨床ではカルボプラチンの投与量を決めるのに生かされています。PK/PDの理論が臨床応用されている数少ない事例です。
〔Calvertの式〕
CBDCAの投与量=(GFR+25)x Target AUC
【GFR】
GFRを求める際、検査がより簡便なCcrで代用します。Ccrの計算方法は色々ありますが、当院婦人科のTC療法ではJelliffeの計算式が使われています。
【Target AUC】
カルボプラチンのDLTは血小板減少症であり,AUCが増加するにつれて血小板数が低下することが知られています。卵巣がんに対するパラプラチンのTarget AUCは5〜6であり,7を超えても効果は頭打ちとなり、血液毒性のみが増強します。患者の状態が悪い場合はAUCを1下げることもあります。
【参考】
AUCは癌種や併用する抗がん剤によって異なります。
がん種 | レジメン | 投与量 | 投与スケジュール |
小細胞肺癌 ED症例 |
CE療法 CBDCA VP-16 |
AUC=5 80mg/m2 |
21〜28日ごと 4コース DAY1 DAY1〜3 |
非小細胞肺癌 | TC療法 CBDCA PTX |
AUC=6 200mg/m2 |
21日ごと DAY1 DAY1 |
CBDCA | PTX | |
Level 0 | AUC 6 | 180mg/m2 |
Level 1 | AUC 5 | 135mg/m2 |
Level 2 | AUC 4 | 110mg/m2 |
Level 3 | 投与中止 | 投与中止 |
イリノテカン (商品名トポテシン CPT-11) |
投与予定日の白血球数が3000/mm3以上、血小板数が10万/mm3以上 |
ゲムシタビン (商品名ジェムザール GEM) |
投与当日の白血球数が2000/μL以上、血小板数が7万/mm3以上 |
ドセタキセル (商品名タキソテール TXT) |
投与当日の好中球数が2000/mm3以上、血小板数が10万/mm3以上 |
ポイント4
副作用予防のための薬剤が処方されているか確認する。
米国のPhaseT試験で重篤な過敏症が20-30%に見られています。過敏症対策が必須です。投与開始から5分間はベッドサイドでの観察を行うことも必要です。前投薬を行っても過敏反応が1-3%の頻度で生じるとされており,注意が必要です。full premedicationを行ったにも関わらずgrade 3(※)の過敏反応が生じた場合は中止となります。
(※)アレルギー反応/過敏症(薬剤熱を含む)のGrading ・・・CTCAE v3.0より
Grade 1 | 一過性の潮紅あるいは皮疹;<38℃の薬剤熱 |
Grade 2 | 皮疹; 潮紅; 蕁麻疹; 呼吸困難;≧38℃(≧100.4°F)の薬剤熱 |
Grade 3 | 蕁麻疹の有無によらず症状のある気管支痙攣;非経口的治療を要する;アレルギーによる浮腫/血管性浮腫;血圧低下 |
Grade 4 | アナフィラキシ− |
Grade 5 | 死亡 |
Full-Premedication
投与12-14時間前(前日)デカドロン注20mg
投与6-7時間前(前日)デカドロン注20mg
投与30分前:クロール・トリメトン注10mg,ザンタック注50mg
Short--Premedication
投与30分前 デカドロン注20mg、クロール・トリメトン注10mg、ザンタック注50mg
なぜザンタックが使用されるのか,ピンとこないかもしれませんね。アレルギーに対し強力な抗ヒスタミン作用を狙う場合はH1受容体拮抗薬だけではなく、H2受容体拮抗薬の併用が行われます。
(抗癌剤と副作用予防のために投与される薬剤の組み合わせ)
抗がん剤 | 予想される副作用 | 副作用予防のために使用される薬剤 |
シスプラチン | 腎障害 | pre-hydration ,post-hydration(with Harn order check) |
MTX | 腎障害 | ロイコボリン、メイロン、ダイアモックス、ハイドレーション |
イホマイド エンドキサン |
出血性膀胱炎 | ウロミテキサン |
イリノテカン | 下痢 |
(処方されない場合もある) 炭酸水素ナトリウム(腸管内のアルカリ化) ウルソ錠 (胆汁のアルカリ化) 酸化マグネシウム (下剤→SN-38を含んだ便の排泄促進) イリノテカン投与日から4日間服用 この間はラックBやビオフェルミンなどの腸内細菌製剤の投与はしないほうがいいとも言われる。(腸内が酸性化するため) ツムラ14 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう) イリノテカン投与3日前から服用 |
リツキサン | infusion reaction | アセトアミノフェン、レスタミン錠 |
イダマイシン | 結膜炎予防 | フルメトロン点眼液を6時間毎に点眼 |
催吐分類 | 抗がん剤 | 制吐剤 |
高度 (>90%) |
シスプラチン(≧50mg/m2) エンドキサン(>1500mg/m2) |
5HT3受容体拮抗薬、デカドロン、aprepitant |
中等度 (30-90%) |
シスプラチン(<50mg/m2) パラプラチン エルプラット エンドキサン(≦1500mg/m2) キロサイド(>1g/m2) アドリアシン イホマイド トポテシン |
AC(アドリアシン+エンドキサン)療法 5HT3受容体拮抗薬、デカドロン、aprepitant(NK1受容体拮抗薬、国内未承認) AC療法以外 |
低度 (10-30%) |
ドセタキセル パクリタキセル ジェムザール 5FU |
デカドロン8mg |
最小 (<10%) |
ブレオ オンコビン |
制吐剤をルーチンで予防投与するべきではない |
作成日2009年4月25日
実例処方11の解説