労作狭心症

心臓は一般的に3本の冠動脈(右冠動脈、左前下行枝、左回旋枝)という栄養血管によって養われています。この冠動脈が狭くなったり、つまったりすることで心臓への血液の供給が不足し狭心症、さらには心筋梗塞といった冠動脈疾患を発症します。

point
狭心症の病態を理解する

□狭心症の勉強をしようとすると、様々な病名が書かれていて、それが本ごとに違うことの壁にぶち当たります。医学生がよく持ち歩いている「STEP 循環器」から一部文章を引用し、狭心症の細かい病名について説明します。
□一言で「狭心症」といっても、器質性、冠攣縮性、労作、安静、異型、安定、不安定などの枕詞が付けられ、その理解を困難にしています。狭心症を最初に分類したのは1962年のWHO専門委員会で、その後いろいろな学者がいろいろな見解を述べ続け、残念ながら現在でもすっきり整理されていません。
冠動脈の病変にはプラーク形成と攣縮があります。前者を「器質性狭心症」、後者を「冠攣縮性狭心症」と呼びます。
□「器質性狭心症」では、プラークが形成された血管内腔はその分だけ狭くなり、血流は制限されます。
血流の制限は、最初は10%、次に20%、30%、40%とじわじわ段階的に進行していきます。そして、それが50%に達すると、労作時の酸素供給不足に苦しむようになります。したがって、「器質性狭心症」は原則として「労作狭心症」となります。
□冠動脈の壁にプラークを持っている方は糖尿病、高血血圧、高コレステロール血症、喫煙、肥満などの危険因子を持っていることが多いです
□動脈硬化が進みプラークが大きくなってくると、表面を覆っている被膜がなにかのはずみ(=冠攣縮など)で破れることがあります。そこを修復しようとして血小板が集まり、「血栓(血の塊)」をつくって血流を低下させ狭心症を発症します。血栓が冠動脈を完全に詰まらせると、心筋梗塞に移行します。

□被膜が薄く敗れやすい場合は「不安定狭心症」(後述)、厚く敗れにくい場合は「安定狭心症」(後述)となります。

□「冠攣縮性狭心症」の場合には、
一挙に95%以上の血流制限をきたすので、労作時だけではなく、安静時にも酸素供給不足に苦しみます。後述するように、攣縮は明け方に
起こりやすく、この時間帯はベットの上で横になっていることが多いので、原則として「安静狭心症」となります。ただし、「冠攣縮性狭心症」は早朝の運動で誘発されやすいことが知られており、安静時だけに症状が出現するわけではありません。また、「器質性狭心症」の場合にも血管内腔の狭窄の程度が著しくなれば、安静時にも症状が出現することがあります。
□これらの点に注意したうえで、「器質性狭心症」≒「労作狭心症」、「冠攣縮性狭心症」≒「安静狭心症」と考えてください。
なお、両者が合併することも、しばしばあります。
□「冠攣縮性狭心症」の大部分は、「異型狭心症」となります。狭心症発作時の心電図では原則としてSTが低下しますが、心筋表面を走行する太い冠動脈が攣縮する本症では、逆にST上昇を認めます。狭心症としては例外なので「異型」と名付けられましたが、日本では「異型狭心症」の患者が多く、決して珍しいわけではありません。ただし、「冠攣縮性狭心症」の全部でSTが上昇するわけではないので、「異型狭心症」とならない「冠攣縮性狭心症」もあります(「冠攣縮性狭心症」>「異型狭心症」という関係になります)。なお、最近は異型狭心症の病名は使われない傾向にあるようです。
□以上をまとめると、
「器質性狭心症」≒「労作狭心症」
「冠攣縮性狭心症」≒「安静狭心症」
    発作時心電図でSTが上昇するのが「異型狭心症」

□もう一つ、心筋梗塞に移行する危険性の有無で分類できます。心筋梗塞に移行する危険性の低いものを「安定狭心症」、危険性の高いものを「不安定狭心症」と呼びます。
□不安定狭心症と心筋梗塞の連続性を重視し、両者を合わせて
「急性冠動脈症候群」と呼びます。


□狭心症の治療方法には大きく3つに分けれます。

薬物療法
カテーテル治療 緊急で処置できる。
局麻(手足からカテーテルを入れる場合2,3cc、太ももから入れる場合10cc程度)でできる
風船で広げるだけでは再狭窄しやすいため、ステントを留置する(ステントを入れても2割前後の患者に再狭窄が起こってしまう)
内科で行う
バイパス手術 全身麻酔が必要で、負担が大きい
いくつもの病変がある場合、1回の手術ですべてが治療できる
高度な狭窄があるとき
手術が必要な他の病変があれば、同時に治療できる
外科で行う


□POINT
狭心症の病態に応じた適切な薬剤を選択する















狭心症治療薬は、
冠動脈を拡張、攣縮を抑える薬:β遮断薬、Ca拮抗薬、硝酸薬
狭心症に対する抗血小板薬はアスピリンが基本、血栓形成のリスクに応じてプラビックスを合わせ2剤併用。なお、抗血小板薬の3剤以上の併用はエビデンスが確立されていない。


【労作狭心症に対する薬剤の選択】
第一選択 β遮断薬 抗血小板薬 ISA(−)
第二選択 β遮断薬+
Ca拮抗薬あるいは硝酸薬
第三選択 β遮断薬
Ca拮抗薬
硝酸薬












□また基礎疾患に対する治療薬が加わる。
糖尿病
高脂質血症
高血圧

□生活習慣の改善も超大切。
喫煙
肥満







狭心症の痛みは、労作性狭心症では1〜2分から数分以内に消失するが、冠攣縮性狭心症の場合は、程度が強く持続時間も数分〜30分も続くことがある。冠攣縮性狭心症の発作は、安静時、特に夜間から早朝にかけて出現しやすく、昼間の労作によって出現することは少ない。


β遮断薬を投与すればα作用を相対的に強め血管収縮が起こることがありますので,一般的には攣縮性狭心症には効果がない,あるいは悪化させると言われています。ただ,攣縮性狭心症であっても、運動によって誘発されるタイプのものには奏効するようですので,病名だけではなく患者毎の病態に応じた服薬指導が必要です。

冠攣縮がなぜ起きるかという解明がされつつあるが、男女を問わず冠攣縮は喫煙者に圧倒的に高頻度にみられる。


point
患者の状態に応じた、β遮断薬を選択する。

糖尿病患者を合併した狭心症患者に対するβ遮断薬投与の是非
β遮断薬は糖代謝や脂質代謝に影響を及ぼす。
特に糖尿病患者においては血糖値の上昇や低血糖時の症状である頻脈、動悸、振戦等(β1作用)を抑制するため低血糖症状は自覚しにくく、さらに、グリコーゲン分解(β2作用)の抑制は低血糖からの回復を遅らせる可能性がある。
また、脂質代謝では総コレステロール、中性脂肪やHDLコレステロールに悪影響を及ぼすα作用やISAがあるβ遮断薬ではこの影響は少ないとされる。
ISAのないβ遮断薬の使用は、糖代謝や脂質代謝に対するこれらの不利益な作用を考慮しても、それを凌駕する有益な効果が期待できる!

point
硝酸薬の使い方を知る

point
狭心症に対する抗血小板薬の投与目的、薬剤選択を知る


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