□前立腺肥大症の進行について
●第1期 (膀胱刺激期)
まず初期症状の特徴としては、尿の回数が多くなること(頻尿)で、特に夜間の頻尿が多く見られる。これまでは夜間に寝ついてから目が覚めるまで尿意を起きることはなかったのに、「毎晩のように夜中に3回以上トイレに行く」ようになったら注意信号。病気が少し進んでくると、排尿障害が感じられる。
●第2期(残尿発生期)
次の段階として、自分では完全に排尿し終わったつもりでも、実際には尿が出切らずに、膀胱に50〜100ml残ってしまうという「残尿」現象が起こってくる。そうなると膀胱が空にならないために、短時間で尿が満杯になり、昼夜の区別なく頻尿となる。
●第3期(慢性尿閉塞期)
放置するとさらに病気は進み、、膀胱の筋肉が収縮力を失ってい、ついには膀胱が伸びきった、「ただの袋」のようになってしまい、尿が無意識のうちに溢れだし、絶えず尿道から流れ出してしまうようになる。腎臓から膀胱への尿の流れが障害され、腎臓の機能までもが低下してくる。最後にはまったく尿が出ない(尿閉)といった状態になる。
□薬剤の選択順序を説明するほど治療薬の選択肢がない。α1ブロッカーしかないというのが現状。前立腺肥大症に対してはまずα1ブロッカー。過活動膀胱を合併した時には+抗コリン薬【←ただし残尿量を必ず確認すること】。
□植物エキス製剤、漢方薬は効いているのか効いていないのかよくわからないような感じ。長期に飲み続けたときに効果が期待できる。
□抗アンドロゲン薬
●前立腺肥大症の症状を改善させるためには長期投与が必要。しかし,肝機能障害や勃起障害などの副作用や投与によって前立腺がんをマスクし,隠してしまう問題もあるので,投与前のPSAなどによる前立腺がんスクリーニングや肝機能の定期チェックが必要。
●使用期間は約3カ月。期間が設定されているのは、服用1カ月半程度でインポテンツになるから。
●80代の方々で手術は嫌という方はこの薬を使うことがある。また、60代、70代の方々は期間を守って服用してもらう。
●男性ホルモンを抑えて肥大した前立腺を小さくする。約30%は小さくなるといわれているので、症状の改善に貢献する。しかし、根治療法ではない。
ポイント1相反する作用の薬を併用することがある
ユリーフが処方されていますので,前立腺肥大症の患者であるとわかります。前立腺肥大症とは尿道が閉塞して尿が出にくくなるのだから,尿道の筋肉の緊張を緩め広げることが大切であり,そのためにユリーフを投与します。作用機序を考えればわかるように対症療法であり、前立腺肥大症を治癒させる薬剤ではありません。
健康な人の体では自律神経のはたらきで絶妙にコントロールされ、膀胱が収縮し尿道が開いて正常な排尿が行われます。
膀胱に眼を向けると,前立腺肥大症の患者には膀胱にどのように作用する薬が適しているか?ちょっと考えてみてください。多くの人は膀胱を収縮させる薬が適していると考えるのではないでしょうか?それなのに,ブラダロンという膀胱を安定化させる,緩める薬が出ています。不自然と感じませんか?なお,ブラダロンの代わりに,より作用の強いバップフォーなどが処方されることの方が処方数としては多いです。
原因はよくわからないのですが,前立腺肥大症の患者は膀胱の働きが活発になって,急に強くおしっこがしたくなったり(尿意切迫感という),急におしっこがしたくなりこらえきれずに尿をもらしてしまう(切迫性尿失禁という)など,いわゆる「過活動膀胱」の症状を合併することがあります。
つまり,「前立腺肥大症」にユリーフ,その合併症である「過活動膀胱」にブラダロンが処方されているということです。
ユリーフだけで過活動膀胱が改善することもありますが,泌尿器科医を対象にしたあるアンケートによると,α1ブロッカーと抗コリン薬の併用療法を受けている患者の割合は約3分の1で,ほとんどの医師がα1ブロッカーの単独療法から開始し,効果を判定してから抗コリン薬との併用に移行しており,併用までの期間は65%が8週以内であった,というデータが示されています。α1ブロッカーの作用機序からはすぐに尿排泄が改善させるように感じますが、その効果を評価するには数週間必要ということでしょうか?
これだけ日常診療で頻繁に使用されている併用療法も,現時点ではRCTにより検証されてはいなく,エビデンスとしては十分でありません。
尿が出にくい患者に,膀胱を緩める薬を使って大丈夫なの?という考えは当然です。過活動膀胱だからとって前立腺肥大症の患者のすべてにブラダロンのような薬を投与することはできません。前立腺肥大の患者の膀胱の状態は2つに分かれます。
1.尿道抵抗がありながらも,何とか大部分の尿を出すことができる
2.尿道の抵抗に負けて,多くの尿が膀胱に残ったままになる
1の患者には試してみることができますが,2の患者に投与すれば尿が体の外に排泄されなくなってしまいますので,必ず残尿測定を行い,残尿量が少ないことを確認してから投与することが必要です。
前立腺肥大症だけの患者に,ウブレチドなどの膀胱収縮薬を使用することは処方頻度としては低いです。なぜか?臨床的有用性が低いからだと推測されます。収縮することで膀胱から尿道への排出口も塞いでしまうことがあると,ある本に書かれていました。
前立腺肥大症ではなく神経因性膀胱に対しウブレチドが使用され,結果的にユリーフとウブレチドが同時に処方されることはあります。
□相反する作用の薬の併用処方例
処方背景とともに、できれば2年以内に理解してください。
・リウマトレックス+フォリアミン
cf.)UFT+ユーゼル
・ジゴシン+アーチスト
・メスチノン+アトロピン
・チラージンS+メルカゾール
・透析患者に対する降圧薬と昇圧薬
作成日2008年9月28日
実例処方3の解説