今回は成人喘息の処方です。今まで薬物療法について理解しにくい部分(=ピットフォール)に焦点をあてて説明をしてきました。今回は理解しやすい領域であり敢えて取り上げるテーマではないかもしれません。すべて理解できているか”確認”しながら読んでください。
ポイント1
ガイドラインに沿った重症度分類、およびステップ別の薬剤選択について理解する
慢性期治療の基本は、2006年に3年ぶりに日本アレルギー学会から改訂/発表された診療ガイドライン(JGL2006)のステップ分類に準じて治療計画を立てます。成人喘息での大きな変更点は、ステップ2(軽症持続型:症状の出現頻度が週1回以上)の長期管理において、ステロイド薬が唯一吸入の第1選択薬となり、他剤と明確に区別されたことです。従来のガイドライン(JGL2003)では、ステップ2の第1選択薬として吸入ステロイド薬を強調しながらも、「あるいは下記のいずれか連用、もしくは併用」として、テオフィリン徐放製剤、ロイコトリエン拮抗薬、DSCG(クロモグリク酸ナトリウム=インタール)を列挙しており、優先順位が必ずしも明確ではありませんでした。このため、長期管理薬として最も重要な吸入ステロイド薬が投与されない患者が少なくなかったようです。改訂後のJGL2006では、ステップ2の第1選択薬として吸入ステロイド薬を挙げた上で、同薬でコントロール不十分な場合のみ、テオフィリン徐放製剤、ロイコトリエン拮抗薬、長時間作用性β2刺激薬のいずれか1剤を併用するとしました。この変更により、ステップ2の患者に対しては、漏れなく吸入ステロイド薬を使用するよう推奨されたことになります。一方、DSCGは抗アレルギー薬と同様に「併用可」とするにとどまり、位置付けが後退しました。
このほか、重症度分類において、現在の治療内容を加味した判定基準が新たに採用されたほか、発作強度の分類をGINA(Global Initiative for Asthma:喘息管理の国際指針)の基準に統一するなどの変更が加えられています。
種類 | |
長期管理薬 (コントローラー) |
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発作治療薬 (リリーバー) |
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使用できる回数 | エアゾール (定量加圧式噴霧器) pressurised meterddose inhaler (pMDI) |
ドライパウダー dry powderinhaler (DPI) |
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フルタイド100 ディスカス |
60PUFF/個 | ● | |
キュバール100 エアゾール |
100PUFF/本 | ● | |
パルミコート200 タービュヘイラー |
56PUFF/本 | ● | |
オルベスコ200μg インヘラー |
56吸入用 | ● |
エアゾール (定量加圧式噴霧器) pressurised meterddose inhaler (pMDI) |
ドライパウダー dry powderinhaler (DPI) |
呼気のタイミングに合わせて噴霧する必要があり、高齢者や幼児では難易度が高いと言われているため、スペーサーを使用することがある。 | 自分の呼気で吸い込むだけで、呼気のタイミングを合わせる必要はない |
薬剤の付着による声枯れや口腔内副作用は多い傾向がある | |
一定以上の吸気速度と吸気量が必要 |
ステップ1 (最低用量) |
ステップ2 (低用量) |
ステップ3 (中用量) |
ステップ4 (高用量) |
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フルタイド100 ディスカス 1吸入 |
100 μg/日 |
100〜200 μg/日 |
200〜400 μg/日 |
400〜800 μg/日 |
キュバール100 エアゾール 1吸入 |
100 μg/日 |
100〜200 μg/日 |
200〜400 μg/日 |
400〜800 μg/日 |
パルミコート200 タービュヘイラー 1吸入 |
200 μg/日 |
200〜400 μg/日 |
400〜800 μg/日 |
800〜1600 μg/日 |
薬効分類 | 薬剤名 | 即効性 | 作用時間 | 喘息 | COPD |
β2刺激薬 | サルタノールインヘラー メプチンエアー |
有 | 短〜中時間 | ● (発作時) |
● (症状悪化時) |
セレベント50ディスカス | なし | 長時間 | ● (維持治療) |
● (維持治療) |
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ホクナリンテープ 0.5mg、2mg |
なし | 長時間 | ● (維持治療) |
● (維持治療) |
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抗コリン薬 | テルシガンエロゾル | やや有 (5分?) |
中時間 | ● (発作時) |
● (維持治療) |
スピリーバ 18μg x7 /枚 |
なし | 長時間 | なし | ● (維持治療) |
【複数の吸入薬が処方された場合の使用順番に関する補足】
「短時間」作用型のβ2刺激薬は先に吸入し、気管支を広げておいてステロイドを吸入するといい、とされているのは1年目の薬剤師でも知ってると思います。
セレベントは即効性が無く最大効果発現時間が約1.5時間と長いため、また、常に気管支が拡張した状態になっているので、先に使用しても、後に吸入する薬剤の吸入効率をあげることにはならないと思わます。
ポイント5
喘息治療薬を 炎症を抑える薬 と 気管支を広げる薬の2つに分けて考える
・成人の喘息の長期管理において、ステロイドはガイドライン上で第一選択薬として位置づけが明確でありますが、その他のテオフィリン徐放製剤、ロイコトリエン受容体拮抗薬、長時間作用性β2刺激薬(吸入/貼付/経口)は「各症例に基づいて、担当医が決定する」と記載されており、それらの使い分けについては序列化による明示はされてません。
・抗炎症作用を狙うときは、まずLT受容体拮抗薬を上乗せします。それでもダメなときは他の抗アレルギー薬を追加すると思われます。テオフィリンにも抗炎症作用が少しあるとされていますが、抗炎症作用を狙ってテオフィリンを投与することはないと思われ、あくまで付加的作用と思われます。
・気管管支拡張作用を狙うときには、テオフィリン徐放製剤、β2刺激薬(吸入/貼付/経口)、抗コリン薬(吸入)がありますが、抗コリン薬は中等度の発作時に使用することが主でありますので成人の喘息の長期管理について使用する薬剤ではありません。
・では、残ったテオフィリン徐放製剤とβ2刺激薬はどのように使い分けるのでしょうか?明確に示されていませんが、まずはテオフィリンで様子をみてダメならβ2刺激薬を追加、あるいは最初からテオフィリン+β2刺激薬の併用でいくような印象をもっています。
併用薬剤 | 血中濃度変化倍率 | 平均CL変化率 (%) |
|
血中濃度を上昇させる薬剤 | アンカロン | 2.08 | |
メキシチール | 1.86 | -36.4 | |
シプロキサン | 2.47 | ||
オゼックス | 1.23 | -34.8 | |
パナルジン | -36.8 | ||
ルボックス | 2.67 | -38.1 | |
ゾビラックス ビクロックス |
1.35 | -31 |
併用薬剤 | 血中濃度変化倍率 | 平均CL変化率 (%) |
|
血中濃度を低下させる薬剤 | リファジン | 45 | |
フェノバール | 34 | ||
アレビアチン | 72.8 | ||
テグレトール | 47.6 |
このほか、テオフィリン製剤に関して知っておくといい内容を@〜Fにまとめてみましたので、確認してください。
@テオフィリン製剤とザイロリック
テオフィリンの副作用に高尿酸血症があります。
臨床的には痛風発作まで至った報告は少ない。
成人男性に圧倒的に多い通常の高尿酸血症と異なり、小児や女性にも起こりうる。
尿酸産生の更新が原因と考えられていることからアロプリノールを処方するのが一般的。
ザイロリックはXOを阻害するため、XOで代謝されるテオフィリンのクリアランスは平均約25%低下すると言われている。
ザイロリックを追加する場合は、テオフィリンの減量が必要になることがある。
(補足)医療現場では副作用と考えられる事象が起こると、その原因となる可能性の高い薬剤について薬剤師に対し意見を求められることが多々あります。「ポケット医薬品集」で尿酸産生を更新させる薬剤と尿酸排泄を抑制する薬剤について確認をしておきましょう。
A吸入薬の添加物:エタノール
口の中がピリッときたら添加物のエタノールが原因と考えられます。なお、当院で採用されているエアゾール製剤はすべて添加物としてエタノールが含まれています。
エタノールを含む吸入薬・・・キュバールエアゾール、オルベスコインヘラー
エタノールを含まない吸入薬・・・フルタイドディスカス、パルミコートタービュヘイラー
Bテオフィリンとマクロライドが併用される処方
・テオフィリンは主にCYP1A2で代謝されるが、CYP3A4も関与しています。MCはCYP3A4の阻害剤として有名ですが、テオフィリンと併用するとテオフィリンの血中濃度を上昇させます。
併用薬剤 | 血中濃度変化倍率 | 平均CL変化率 (%) |
エリスロシン | 1.29 | -27.7 |
クラリス | NS (=有意差なし) |
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ルリッド | 1.44 |
・テオフィリンとマクロライドが併用される処方の代表的疾患に「びまん性汎細気管支炎」が挙げられます。80%以上の患者さんで慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の合併がみられます。特に痰の量が多いのが特徴です。
・マクロライドの投与量は半分程度です。びまん性汎細気管支炎(DPB)のほか、慢性気管支炎、感染型の喘息、さらに耳鼻科領域においては慢性副鼻腔炎や滲出性中耳炎の治療にもしばしば応用されます。効果発現まで通常1〜3ヶ月かかるといわれており、呼吸器系では通常の半量程度を6ヶ月から数年に渡り継続し、耳鼻科領域においては更に少量を数ヶ月間服用するのが一般的と言われています。
・この場合、マクロライドの処方目的は直接の抗菌作用ではなく、他の薬剤ではなかなか抑えることの難しいDPBの炎症を抑えることと言われています。その作用機序はよく分かっていません。
・マクロライド長期少量投与療法中に気道感染を起こした場合、マクロライドの投与を継続したままで新たな抗生物質が併用されることがあります。抗生物質の種類としては市中肺炎に広く使われているセフェムが使用されることもありますが、持続感染した緑膿菌の増殖が急性憎悪の原因となっていることも多いため、緑膿菌にも抗菌活性のあるニューキノロンが選択されることが多い。
抗生剤の併用するパターンは少ないため、経験の浅い薬剤師にとって理解しにくい部分の一つと思いますので、喘息の話とは少しズレますがこの機会に紹介しておきます。
C喘息患者の目のかすみ
“白内障”の疑いあり。ステロイドの吸入でも起こることをここで確認してください。
D胃食道逆流症(GERD)
・胃食道逆流症は胃酸が食道内に逆流することによって、胸やけなど様々な症状を起こします。喘息患者では、半数以上で胃食道逆流症を合併しているといわれています。なお、テオフィリン自体がGERDを引き起こす可能性があるという報告もされています。
・このとき第一選択されるのはPPIです。PPIは現在タケプロン、パリエット、オメプラゾンの3種類が市販されていますが、タケプロンは肝薬物代謝酵素の誘導によりテオフィリンクリアランスを上昇させ、テオフィリン血中濃度を低下させる可能性があります。したがって、テオフィリンと薬物相互作用のないパリエット、オメプラールが候補となります。H2ブロッカーを選択するなら、相互作用がなく、消化管運動促進、唾液分泌促進作用のあるアシノンが第一候補となるでしょう。
F投与量による相互作用の程度の違い
ルボックスの添付文書には『テオフィリンのクリアランスを1/3に低下させることがあるので、テオフィリンの用量を1/3に減量するなど、注意して投与すること。』との記載があります。しかし、ルボックスの投与量によってテオフィリンのクリアランスの低下の程度が違うと言われています。
・ルボックス50mg ・・・テオフィリンの血中濃度2倍上昇
・ルボックス100mg ・・・テオフィリンの血中濃度3倍上昇
■アドエア(サルメテロール)
アドエアに含まれるサルメテロールはセレベントの成分と同一であります。しかし、即効性がなくコントローラーとして使用されています。発作時のためには即効性のあるサルタノールが処方されています。
フルタイド+セレベント=アドエアです。
同じ気管支拡張薬のユニコンとは気管支を広げる作用機序が異なりますので、併用は合理的説明がつきます。
■シングレア
オノンとシングレアがある。大きな違いはない。処方頻度も高く、しっかり薬効を発現させる薬剤と思われる。
シングレアの方が作用発現、最大効果が強いと言われている(?)
オノンは1日2回、シングレアは1日1回。
(参考)オノンは喘息以外にも鼻閉にも適応がある。
くしゃみ・鼻濡型のアレルギー性鼻炎 | 抗ヒスタミン薬 |
鼻閉、鼻閉を主とする充全型 | イコトリエン拮抗薬(オノン)や 抗トロンボキサンA2薬(ブロニカ) |
■アローゼン
効果発現は8〜12時間後であり、就寝前に飲み翌日排便する基本だが、なぜか夕食後に飲んでいる。患者の生活リズムに合わせているのか?
現場ではアローゼン 1日3回の処方が散見されるが、1日3回に分けて服用することにどのような処方意図があるのか説明された本は見たことがない。
他の処方薬の副作用でもなく、単なる便秘に追加されただけと推測する。
ポイント9
アスピリン喘息をもつ患者に使用される薬剤、使用する際に注意すべき薬剤について知る。
■アスピリン喘息
喘息の患者はアスピリン喘息を併発していることも多く(成人の喘息患者の約10%)、酸性NSAIDsを使用したい場面で代替薬の提案を求められることがよくあります。酸性NSAIDsはアスピリン喘息に対し禁忌であり、外用薬でもアスピリン喘息を引き起こす可能性があります。
<代替候補薬>
ソランタール(塩基性) | ・起こりえない〜起こらない ・効果はNSAIDsより弱い ・添付文書上は禁忌となっており、有用性とリスクのバランスを考えて使用 |
アセトアミノフェン | ・起こり難いが、量が増えると起こる ・添付文書上は禁忌となっており、有用性とリスクのバランスを考えて使用 |
COX-2 | ・理論的には起こらない |
コハク酸エステル | ソル・コーテフ注 ソル・メルコート 水溶性プレドニン注 |
パラベンを含んでいる | デカドロン注 |
実例処方9の解説