リン吸着剤の使い分け

■食事中のP制限<1日800mg以下>があくまでも基本

■なぜPやCa値をコントロール必要があるのでしょうか?
腎不全では、
 ・食事で摂取したリンが尿中に排泄されないため高リン血症になり
 ・腎臓でビタミンDが活性化されないため、腸管からのカルシウム吸収低下が起こり低Ca血症
になります。

このような病態は副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌を亢進させ、骨からCaを遊離させて血中のCaを補おうとし、骨そしょう症を引き起こします。

さらには骨から溶け出したCaやPにより皮膚のかゆみやイライラ感が出たり、
CaとPが骨以外の臓器に沈着し(異所性石灰化)、関節に痛みなどの症状がでます。特に血管に沈着しやすく、石灰化を起こすと動脈硬化の原因となります。

参考)「透析患者における二次性副甲状腺機能亢進症治療ガイドライン」日本透析医学会2006
■ある透析施設における塩酸セベラマー(「レナジェル」「フォスブロック」)の基本的な投与条件を紹介しておきます。

【1】適応基準(優先順位)
  @高Ca血症+高PTH血症でパルス療法が行えない場合
  A既に1日4.5g以上の炭酸Caを投与している場合
  Bパルス療法を施行している場合
  C血清Ca濃度が10.0mg/dlを超えている場合
  D食事摂取過剰の場合
【2】非投与対象者(投与除外基準)
  @既に便秘症で下剤を常用している患者または以前の投薬で
   便秘症がひどかった患者、またイレウス、消化管穿孔等の
   既往のある患者
  A過敏症状、胃部不快感が慢性にある患者、胃潰瘍、逆流性
   食道炎等の消火器症状の強い患者
  B炭酸Caの投与で既に血清Ca濃度が9.4mg/dl即ち
   目標数値に達している患者

■【その他のリン吸着剤】
本来高コレステロール血症の治療薬の『コレスチミド(商品名:「コレバインミニ83%」)』も、Caを含まないリン吸着剤として、また同時に高カルシウム血症の予防薬としても使われます

作成日2011年7月4日

同種同効薬33

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薬剤名
(成分)
タンカル錠
(炭酸カルシウム)
沈降炭酸カルシウム〔散薬〕
(炭酸カルシウム)
レナジェル錠
(塩酸セベラマー)
ホスレノールチュアブル錠
(炭酸ランタン)
発売開始 2009年9月 1986年3月 2003年6月 2009年3月
作用機序 不溶性のリン酸カルシウムとなって体外に排泄 Caやアルミニウムを含まない高分子化合物で、腸の中でリンと結合し、体内に吸収されることなく糞便中に排泄 ランタンは、希土類元素で食物中のP(リン)と不溶性複合体を形成することによって腸管でのP吸収を抑制する。
用法 食直後が多い

食物と混ざるように食事中に服用することもある
食直前

「塩酸セベラマー」はCa剤と異なり胃内pHの影響は認められないため、服用のタイミングは食事前・中・後いずれもOK??
食直後に経口投与

本剤は噛み砕かずに服用すると溶けにくいので、口中で十分噛み砕いた後、唾液または少量の水で飲み込むこと
Ca値に対する影響 血清リン値の低下のみならず血清Ca濃度を上げることができますが、反面活性型ビタミンD製剤と併用すると血清Ca値の上昇を招き、Ca×リン積(理想55以下)が上昇してしまうという欠点があります。 活性型ビタミンD製剤を服用していても血清カルシウム値は上昇しない

「塩酸セベラマー」をCa剤から切り替えて使用すると血清Ca濃度が下がり、二次性副甲状腺機能亢進症の増悪を招く可能性がありますので、透析液Ca濃度やCa剤からの切り替え法を慎重に検討する必要があります。「塩酸セベラマー」とCa剤との併用(主治医の先生に要確認)は、現時点わが国において明確なデータはありませんが、海外の報告からは少なくとも両者には阻害作用はなく、相乗効果はないものの相加効果はあるようです。

炭酸Ca製剤を対照とした多施設RCT(無作為割付比較試験)において、

炭酸ランタンは、炭酸Ca製剤と同等の血清P値低下効果を認めた

高Ca血症の発現率は有意に低値で、安全性と忍容性も問題がなく、また1年間の炭酸ランタン投与前後の骨組織学的検討で、炭酸Ca製剤に比較して低回転骨の改善に優れた効果を示した
副作用 「炭酸カルシウム」が、リン吸着剤として有効に機能するためには、胃酸の存在が必要ですので、胃酸分泌を抑える薬、即ちPPIやH2ブロッカーを服用している場合には、特に「炭酸カルシウム」の錠剤の効きはよくないと考えられます。


★同種同効薬32参照
代謝性アシドーシス(pHが7.4未満に低下した状態)の増悪の可能性もあり、

この薬剤は水分を吸収すると急速に膨れることから腹部膨満・便秘等の消化器系の副作用があり、その出現は欧米のデータに比べ日本では高く、軽症を含めると60%にもなり、投与量の増量(それでなくても服用錠数多い)の妨げになったり、コンプライアンスの低下に繋がっています
ランタンは金属元素でわずかに腸管吸収を受けることから、Al(アルミニウム)と同様、骨に蓄積による副作用の懸念があり(ランタンの主要排泄経路は胆汁とされており、Alと異なり腎不全患者には有利)、ラットを用いた検討では肺、肝、腎への蓄積が観察されてはいるものの、少なくとも3年間の炭酸ランタン長期投与研究では、悪心(おしん)など軽度の消化器症状を認める以外重篤な副作用は報告されていない。

その他   腸肝循環の際にコレステロールも吸着されることから血清コレステロール値の低下作用(故に低栄養患者では問題も) 「ホスレノール」は、その服用に水を必要としない「チュアブル錠」であり、水分摂取が制限されている透析患者のニーズに合った製剤である。