抗ヒスタミン薬の使い分け
薬剤の使い分けを考える際に、まず適応症や剤形を基本にします。剤形は薬剤選択の際の重要な基準になりますが、適応症はほとんど気にすることがなく業務が成り立っています。
抗ヒスタミン薬の数は多いのですが、特に第二世代と言われる鎮静作用や抗コリン作用が軽減された抗ヒスタミン薬の間で有効性の差はありません。第二世では各種サイトカインなどへの作用が示されましたが、基本的にはH1受容体遮断によるヒスタミンの抑制が薬効のメインであります。違うのは「個体差」のほうで、こればかりは投与してみなければわかりません。
添付文書の記載をもとに、使い分けの際に考慮する主要ポイントをまとめました。
アレグラ (フェキソフェナジン) |
アレジオン (エピナスチン) |
エバステル (エバスチン) |
ジルテック (セチリジン) |
タリオン (ベポタスチン) |
アレロック (オロパタジン) |
クラリチン (ロラタジン) |
|
自動車運転等への注意 | 記載なし | 注意 | 注意 | 従事させない | 注意 | 従事させない | 記載なし |
腎 【禁忌】、【慎重投与】における腎機能障害患者への投与に関する記載 |
記載なし | 記載なし | 記載なし | 慎重投与 | 慎重投与 | 慎重投与 | 慎重投与 |
肝 【禁忌】、【慎重投与】における肝機能障害患者への投与に関する記載 |
記載なし | 慎重投与※ | 慎重投与※ | 慎重投与 | 記載なし | 慎重投与 | 慎重投与 |
妊娠 | 治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与 | ||||||
授乳婦 | 授乳を避けさせること | 投与することを避け、やむを得ず投与する場合には授乳を中止させる | 授乳を避けさせること | 授乳を避けさせること | 投与しないことが望ましいが、やむを得ず本剤を投与する場合には授乳を避けさせること | 投与することを避け、やむを得ず投与する場合には授乳を中止させる | 投与を避けることが望ましい。やむを得ず投与する場合は,授乳を避けさせること |
緑内障 | 記載なし | 記載なし | 記載なし | 記載なし | 記載なし | 記載なし | 記載なし |
前立腺肥大等、下部尿路閉塞性疾患 | 記載なし | 記載なし | 記載なし | 記載なし | 記載なし | 記載なし | 記載なし |
てんかん等の痙攣性疾患またはこれらの既往歴 | 記載なし | 記載なし | 記載なし | 慎重投与 | 記載なし | 記載なし | 記載なし |
※またはその既往
注意書き | 薬剤名 |
記載なし | クラリチン、アレグラ |
自動車の運転等危険を伴う機械の操作には 注意させること |
タリオン、エバステルOD、アレジオン |
自動車の運転等危険を伴う機械の操作には 従事させないよう十分注意すること |
アレロック、ジルテックなど |
運転注意の記載が添付文書に”ない”のは、アレグラ、クラリチンの2剤のみ
抗ヒスタミン薬の中枢抑制作用の強さには、個人差がある。初回投与時には、自動車運転などについて注意喚起を行う必要がある。
補足)鎮静作用には眠気とインペアード・パフォーマンスがある。このインペアード・パフォーマンスは眠気を感じていなくても認知機能の低下の可能性のある状態をさす。
■腎機能障害患者には
アレグラ、アレジオン、エバステルは比較的安全に投与することができます。
■肝機能障害患者には
アレグラ、タリオンは比較的安全に投与することができます。
■妊婦・授乳婦への投与に関して
妊婦・・・現在市販されているH1拮抗薬に催奇形性は知られていません。しかし、胎児に対する安全性も確立されていません。できるだけ投与しないことが望ましいとされています。ただ、ポララミンは妊婦に対する使用経験が多く、どうしても必要な場合には使用しうる薬剤です。ただし、セルテクト、リザベン(*)は妊婦には禁忌!
*リザベンは抗ヒスタミン作用をもたない抗アレルギー薬です。
授乳婦・・・すべてのH1拮抗薬は乳汁中に移行するので、長期間の内服が必要な場合は授乳を中止してもらわねばなりません。短期間の内服であればあまり問題ないと考えられますが、その場合は乳児への使用が許可されているザジテン、あるいはセルテクトを選んだほうがよいでしょう。
■その他
1.併用薬との相互作用から
当院でアレロックと並び一番処方されているアレグラの添付文書を紹介します。アレロックの添付文書に「併用注意」の記載はありません。
2.効能及び効果(適応症)から
特殊な適応症を挙げておきます。
喘息 | アゼプチン錠、セルテクトドライシロップ、ザジテンドライシロップ、アレジオン錠、ゼスラン錠 |
尋常性乾癬 | アレジオン錠、アレロック錠 |
多形滲出性紅斑 | アレロック錠 |
注)喘息治療における抗ヒスタミン薬の位置づけは、ガイドラインに掲載されていなく重要ではありません。
3.作用発現の速さから
初回投与時は速やかな効果発現が期待できますが、継続使用すべき薬剤であることを考えると、臨床上この違いはあまり問題にならなりません。
ちなみにジルテック(Tmax;1.4h)、アレロック(Tmax;1.0h)、クラリチン(Tmax;1.6h)、タリオン(Tmax;1.2h)はTmaxが短く、速効性が期待できると言われています。
4.薬剤固有の特徴的な副作用から
眠気、痙攣はよく知られた副作用ですが、セルテクトの錐体外路症状、リザベンの膀胱炎症状も覚えておくと何かの役に立つかもしれません。
■抗ヒスタミン薬の2剤併用はありか?
1剤で効果が不十分なときに、考えられる対応としては主に3つがあります。
・上限まで増量 ・同じ作用機序の薬剤を併用 ・違う作用機序の薬剤を併用 |
★ワンポイント55「1剤で効果が不十分なときの対応」参照
同じ作用機序の薬剤を併用することは、薬理学的に考えて意味がないと思いますが、皮膚科から抗ヒスタミン薬を併用する処方がしばしば見られます。ただし、やみくもに他のH1拮抗薬を併用するのではなく、副作用プロファイルの異なる薬剤、排泄経路の異なる薬剤、化学構造の異なる薬剤など、併用薬を決定する際に考慮できることはあります。
三環系骨格 |
アレロック、アレジオン、クラリチン |
ピペリジン・ピベラジン骨格 | アレグラ、エバステル、ジルテック、タリオン |
例えばアレロックとクラリチンの併用は、化学構造が類似しているため、意味のない併用と考えられます。ジルテックとザイザルの併用は、”論外”です。
【アタラックス、ジルテック、ザイザルの兄弟関係】
アタラックス(ヒドロキシジン)の主要代謝物がジルテック
第1世代の抗ヒスタミン薬の多くで問題になっていた抗コリン作用などに基づく副作用が少ない点が特徴であった。ジルテックの光学異性体のうち、より強い生理活性を有するR体がザイザル(レボセチリジン)。平たくいうと効果2倍で副作用(眠気など)半分ということらしい。この3剤間での処方の切り替えはナンセンス。
■H1拮抗薬とH2拮抗薬を併用する理由
難治例にはH1拮抗薬とH2拮抗薬を併用することがあります。タキソール注の前投薬でレスタミン錠とザンタック注を併用する例が代表的です。
もっぱら酸分泌抑制薬として使われているH2拮抗薬をなぜ併用するのか疑問に思うかもしれませんが、
・皮膚のヒスタミン受容体の約80%がH1タイプで、残り約20%がH2タイプであること
・消化管の壁細胞や血中の未熟な樹枝状細胞にはH2受容体が存在しており、ヒスタミンによる樹枝状細胞の活性化によりIgEの産生が促進されること
などの理由によります。
皮膚科での処方をみていると、H2ブロッカーを併用する処方はあまり見ません。H1ブロッカーを併用することが多いように感じます。皮膚科で扱う疾患ですから病巣が限定的であれば薬剤を全身に投与するのではなく、ステロイドなどの外用剤を併用しているようです。
■違う作用機序の薬剤を併用する例
慢性蕁麻疹の場合、抗ヒスタミン薬が無効の場合、ロイコトリエン拮抗薬、ハンセン病治療薬の併用が考えられます。
作成日 2011年8月4日
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