ワンポイント50

肝硬変の治療に使用される薬剤
・肝硬変の原因はさまざまですが、当院の消化器内科のデータによれば、C型肝炎ウイルス感染(65%)、B型肝炎ウイルス(10%)、その重複感染(3%)のほか、アルコールの飲み過ぎ、PBC(原発性胆汁性肝硬変)、PSC(原発性硬化性胆管炎)、自己免疫性肝炎などが挙げられています。約80%は肝炎ウイルスが肝硬変の原因ということです。
・最近では内臓脂肪症候群といった栄養の摂りすぎ、運動不足により生じた脂肪肝からいろいろな原因で肝硬変になることもわかってきました。この病気は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と呼ばれています。
・長い年月をかけ肝炎→肝硬変→肝がんと悪化していきます。



・肝硬変そのものの治療は肝移植以外にありません。対症療法となる薬物療法のアプローチとしては、肝臓そのものに対する治療のほか、さまざまな合併症に対する治療も含むため、病期が進行すればするほど多くの薬剤が処方されます。
・肝硬変の処方を読み解くためには、肝臓のもつ本来の機能を理解するとともに、肝硬変の病態生理と合併症との関係をザックリ理解しながら処方薬の必要性を考えることがポイントです。
ざっくりまとめると、以下のような分類が可能です。

 ■ 栄養療法

 ■ 合併症対策=食道静脈瘤/逆流性食道炎、腹水、肝性脳症

 ■ 肝庇護剤(特に原発性胆汁性肝硬変〔PBC〕)

 ■ 出血傾向の改善:ビタミンK1の補給ほか



・肝硬変の病期 :代償期--->非代償期
肝臓病には代償期と呼ばれる期間と、非代償期と呼ばれる期間があります。肝臓に少々異変が生じたとしても、正常な幹細胞が悪いところを補い、カバーするというのが代償機能です。この時点では、自覚症状がほとんどありません。
代償機能はいつまでも働くわけでもなく、限界が来てしまいます。この時期になると、代償期から非代償期となり、肝臓病特有のさまざまな諸症状があらわれるようになります。



■肝障害の重症度分類
  Child-Pugh分類  ★ワンポイント36参照


■肝硬変のコントロール目標

ALT<80IU/L  ALB≧3.5g/dL


■薬剤のまとめ〔抗ウイルス療法を除く〕

■栄養療法
・肝硬変では、体に必要なエネルギーや蛋白などの合成や貯蔵が十分にできなくなり、体全体の栄養状態が悪化して病気の進行につながります。肝硬変患者の低栄養状態は予後に影響を与えることがわかっています〔推奨グレードA〕。従って、栄養状態の維持、改善が大切です。
・栄養の評価(スクリーニングとアセスメント) はNSTの領域に入ってくると思われますが、機会があれば改めてまとめてみたいと思います。
肝不全用経口栄養剤

アミノレバンEN配合散
・アミノレバンの効能・効果
 肝性脳症を伴う慢性肝不全患者の栄養状態の改善
牛乳アレルギーのある患者に禁忌(添加物としてカゼインを含有しているため)
・肝硬変症では肝グリコーゲン減少のために空腹時(特に夜間)に、主に筋肉由来のアミノ酸からの糖新生が亢進する。そのため、蛋白代謝改善を目指し肝不全用経口栄養剤の服用を就寝前と指示されている場合があります。これを就寝前エネルギー投与(late evening snack:LES)と呼びます。〔推奨グレードB〕
肝不全用経口アミノ酸製剤(分岐鎖アミノ酸製剤)

リーバクト配合顆粒


★同種同効薬27「分岐鎖アミノ酸製剤の使い分け」参照
血清アルブミン値が高いほど長生きできる!
・・・以前は肝硬変と診断されると約10年の命と言われ、死の宣告を受けたのも同然でした。最近は栄養学の進歩から、栄養療法をつづけることで延命や生活の質が改善されることが報告されています。肝硬変では血清アルブミン値(正常値: 4.0~5.0g/dL)が1年間に平均0.15g/dL低下するとされ、血清アルブミン値3.5g/dL未満の5年生存率は低下すると報告されています。
血清アルブミン値を3.5g/dL以上に上昇させるための栄養療法として高蛋白食が出された時代もありましたが、非代償性肝硬変まで進行すると高蛋白食をとれば血清アンモニア値が高くなって肝性脳症を起こす危険があるので、むしろ蛋白質をひかえた低蛋白食が理想的です。

肝不全に対してなぜアミノ酸製剤が使われるのでしょうか?。肝硬変患者さんの血液中アミノ酸を分析すると、BCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)とAAA(フェニルアラニン・チロシン)の比率(フィッシャー比)が低下しています。つまり、BCAAが減少しAAAが増加したアミノ酸インバランスが見られます。BCAAは筋肉で代謝されてアンモニアを解毒すると同時に肝臓のエネルギー源になりやすいアミノ酸です。したがってBCAAを多く摂取しAAAを減らすことでアミノ酸バランスを整え、肝臓のエネルギー不足を補うと、肝臓でアルブミンが多く作られるようになって肝硬変の予後を改善できるのです。
BCAAを多く、AAAを少なく含んだ食品を摂ればいいのですが、残念ながら自然の食物にはありません。そのためBCAAを多く含む経腸栄養剤と低蛋白食を組み合わせることでアミノ酸インバランスを是正します。

リーバクト
・BCAA製剤投与は、肝硬変患者の低アルブミン血症を改善し〔グレードA〕、無イベント生存率/QOLを改善します〔グレードA〕。
・食事摂取量が十分にもかかわらず、血清アルブミン値が3.5g/dL以下の患者、
・肝性脳症で昏睡度がⅢ度以上、T-Bil値が3mg/dL以上、肝臓での蛋白合成能が著しく低下した患者には、効果が期待できない。
■腹水の対策
肝硬変の患者は二次性アルドステロン症を呈しているので、第一選択は抗アルドステロン薬です。なお、二次性アルドステロン症は肝硬変のほか、うっ血性心不全、ネフローゼ症候群でも見られます。単独では利尿作用が弱く、ループ利尿薬と共に用いられることがあります。
利尿剤

アルダクトンA
ラシックス
 
■アルブミンの補充
・肝硬変などの慢性の病態による低アルブミン血症は、それ自体ではアルブミン製剤の適応とはなりません。たとえアルブミンを投与しても、かえってアルブミンの合成が抑制され、分解が促進される可能性もあるそうです。
・アルブミン値が低下(急性の場合は3.0g/dL、慢性の場合は2.5g/dL以下)した場合、大量の(4L以上)の腹水穿刺時に循環血漿量を維持するため、高張アルブミン製剤の投与が考慮されるそうです。また、治療抵抗性の腹水の治療に、短期的(1週間を限度とする)に高張アルブミン製剤を併用することがあるそうです。しかし、血液製剤でもあり、栄養補給や単なるアルブミン値の増加を期待して、血漿アルブミン製剤を使用してはいけません。
必要投与量(g)=期待上昇濃度(g/dL)x循環血漿量(dL)x2.5により算出。
アルブミン製剤  
■食道静脈瘤、逆流性食道炎
・肝硬変では、慢性肝炎とはことなり肝臓の構造(肝小葉構造と呼ぶ)が破壊され、類洞内(肝細胞索と肝細胞索の間にある血液の流れ込むスペース)に繊維が沈着して血液の流れが悪くなる病気です。その結果、肝臓内の血管抵抗が増すために肝臓に流入する血液の一部は、肝臓を通過することが出来ません。肝臓を通過できない血液は、肝臓を迂回して門脈に逆流するために、門脈内の血液量が増加して門脈圧が上がります。これが肝硬変で門脈圧亢進を来たすメカニズムです。門脈圧亢進の結果、門脈-大循環側副血行路が形成されて食道静脈瘤が発生します。食道静脈瘤には内視鏡的治療が第一選択となります。

・現在、門脈圧降下作用が確認され、一般に使用される薬剤はインデラル、アイトロールです(保険適応外)。インデラルの投与により門脈圧は平均15%低下します。アイトロールは平均10%低下させます。両薬剤の併用は約20%低下させ、標準的な治療として認められつつあります。最近ではACE-IやARBが肝血管抵抗の減少、肝血流量の増加により門脈圧低下作用を有すると報告があり、臨床研究が進んでいるそうです。

肝硬変は食道運動機能(特に下部食道括約部)に大きな影響を与え、その結果、胃酸の逆流が起こります。そのため、①酸分泌抑制薬が使われたり、②上部消化管運動を活性化することにより胃酸の逆流を阻止するためにドパミン受容体拮抗薬(例:ナウゼリン)、消化管全域における消化管蠕動運動促進作用をもつセロトニン受容体刺激薬(例:ガスモチン)が使われたりします。
消化管運動促進薬
ガスモチン
ナウゼリンなど
制酸剤
ザンタックなど
 
■肝性脳症の予防・治療
合成二糖類

モニラックシロップ/カルロールゼリー、ポルトラック
・ラクツロースは肝性脳症の改善に有効な治療法です。予後についての有用性は必ずしも明らかではありませんが、肝性脳症の標準治療として位置づけられます。〔グレードB〕
・ラクツロースの注腸(保険適応外)
・便秘は脳症誘発の原因になります。1日2-3回の軟便がみられるように投与量が調節されているそうです。しかし、患者がその必要性を理解しておらず、軟便であること、排便回数が多くなることを嫌い、ノンコンプライアンスとなっている場合があると言われています。
乳酸菌製剤

ビオフェルミン
・ビオフェルミンは腸内細菌叢の異常を改善し、また乳酸を産生することで大腸のpHを酸性にすることで便秘や高アンモニア血症を改善します。
下剤
 
抗生物質

カナマイシン
フラジール
非吸収性の抗生物質である。
・腸管非吸収性抗菌薬は肝性脳症に有効な治療であり、その効果は合成二糖類に比較して良好です。〔グレードB〕
肝硬変患者では消化管での脂溶性ビタミン、特にビタミンKの吸収が低下するため、その補給が必要になることがある
ケーワン錠 ケーワンの効能・効果

1. ビタミンK欠乏症の予防及び治療
  各種薬剤(クマリン系抗凝血薬、サリチル酸、抗生物質など)投与 
  中に起こる低プロトロンビン血症、胆道及び胃腸障害に伴うビタミ
  ンKの吸収障害、新生児の低プロトロンビン血症、肝障害に伴う低
  プロトロンビン血症
2. ビタミンK欠乏が推定される出血
■肝庇護剤
・肝硬変で血清トランスアミラーゼが高いまま放置すると、肝臓の繊維化の進行、肝癌発生率が上昇します。インターフェロンや肝庇護剤により肝炎の鎮静化を考慮します。
・原発性胆汁性肝硬変(PBC)による肝硬変にウルソを投与することで、繊維化、血液検査所見、掻痒感などの症状を改善します〔グレードA〕。
ウルソ  
■亜鉛
肝硬変では、亜鉛が欠乏し、肝予備能低下の一因となっており、亜鉛補充はアンモニアを下げる有効な治療法であるとともに、BCAA製剤の作用を促進させます。
硫酸亜鉛(試薬)
医薬品がないので、試薬で調剤します。硫酸亜鉛の経口投与は肝性脳症に対する単独治療としての有効性は明らかにされていないことから、亜鉛投与は合成二糖類や非吸収性抗菌薬などの治療不能例に対する併用療法の一つとして位置づけられる。

投与量の目安:0.6g 3x
グレード・・・「肝硬変診療ガイドライン」 日本消化器病学会編集 2010.4月25日発行 による





■臨床検査値
   ★「薬剤師業務に必要な臨床検査値の解釈」 その4 参照
   ★「薬剤師業務に必要な臨床検査値の解釈」 その5 参照

■重篤な肝障害の薬物代謝への影響に関する臨床薬理学的考察
   ★ワンポイント54参照

■肝性脳症の昏睡度分類(第12回犬山シンポジウム)



作成日 2011年5月5日

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